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第3話
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宿場町の入り口に、一人の剣士が立った。
長旅で汚れてしまっている着衣は、それでもかなり上等な物と察する事が出来る。
行き交う人も少ない、こんな寂れた町にはおよそ似合わないその服装とは裏腹に、剣士の顔は思い詰めた翳があった。
町中を横切り、無宿者が集まる場所へと足を向ける。
鋭い目つきの男達が集まっている場所へと赴いた剣士は、いくらかの金を男達に与え、低い声で質問を投げかけた。
「ああ、その男なら最近ここを通ったぜ」
小遣い銭程度ではあるが金を貰った男達は、剣士の問いにすんなりと答えをくれた。
剣士は男達に会釈すると、急ぐような足取りで男達に教えられた方角へと歩き出す。
「今時、仇討ちでもしているのかね? 上物の着物も、アレじゃあ一文にもなりゃしねェ」
歩み去った剣士を見送った男が、ポツリと呟いた。
宿場町に入った剣士は、ここでもまた、人々に声を掛けては一人の男の事を訊ねて回っていた。
町の人々は、知っている限りの事を答えてくれる。
彼の尋ね人は、どうやらほんの少し前にこの町を通り抜けていったらしい。
一人の老人が、彼の説明した容姿によく似た男を見かけたと話してくれた。
老人に会釈をして、彼は老人に教えられた方へと走り出す。
しかし、駈けだした彼の表情は、とても「仇討ち」などと言う逼迫したものは感じられない、どちらかと言えば歓喜に満ちた笑みを浮かべているようだった。
乾いた風が吹く町を一気に駈け抜け、剣士は宿場を抜けて再び街道に入る辻までやってきた。
そして、その前方に懐かしい後ろ姿を見つけた瞬間、思わず大きな声でその人物の名前を呼んでいた。
「柊一さん!」
不意に名を呼ばれた事で、その人物は足を止めてこちらに振り返る。
「俺です! 広尾ですっ!」
そこに広尾が居る事に酷く驚いた柊一は、瞳を大きく見開いてゆっくりと瞬きをして見せた。
「文明?」
「はい、お久しぶりです」
広尾は、柊一が次の瞬間に笑みを浮かべる事を確信を持って期待していた。
しかし…。
「なぜ、文明がココに居るんだ?」
期待を裏切って、柊一の表情はあからさまに曇ったものになった。
「なぜって…、アナタを追いかけきたんです。俺がしばらく道場から離れている間に、先代は亡くなっているし。柊一さんは先代の仇を討つ為に道場を出られたと聞いて、凄く驚いたんですよ。なぜ俺が戻るまで、待っていてくれなかったんですか?」
「バカを言え。長男のオマエを、どうしてこんな帰るアテもあるかどうか判らない旅に同道させられると思うんだ」
「俺は東雲道場の門徒です。師範が斬り殺されたのならば、その仇討ちの旅に同道する権利はあるはずでしょう!」
自分の期待とは裏腹な反応を示す柊一に苛立ち、広尾は少し剥きになって食ってかかった。
「…とにかく、助太刀は必要ない。帰れ」
すげなく一言告げると、柊一は広尾に背を向けて歩き出そうとする。
広尾は咄嗟に、柊一の腕を掴んだ。
「待ってください! なんでそんなに意固地になっているんです? 俺は…、本当を言うと助太刀がしたくて追ってきたワケじゃない。俺はアナタに、どうしてこんな旅に同意したのかを訊ねたかったんだ」
強い力で引き戻され、真剣な瞳で己を見つめてくる広尾を、柊一はそれ以上無碍に振り切る事が出来なかった。
長旅で汚れてしまっている着衣は、それでもかなり上等な物と察する事が出来る。
行き交う人も少ない、こんな寂れた町にはおよそ似合わないその服装とは裏腹に、剣士の顔は思い詰めた翳があった。
町中を横切り、無宿者が集まる場所へと足を向ける。
鋭い目つきの男達が集まっている場所へと赴いた剣士は、いくらかの金を男達に与え、低い声で質問を投げかけた。
「ああ、その男なら最近ここを通ったぜ」
小遣い銭程度ではあるが金を貰った男達は、剣士の問いにすんなりと答えをくれた。
剣士は男達に会釈すると、急ぐような足取りで男達に教えられた方角へと歩き出す。
「今時、仇討ちでもしているのかね? 上物の着物も、アレじゃあ一文にもなりゃしねェ」
歩み去った剣士を見送った男が、ポツリと呟いた。
宿場町に入った剣士は、ここでもまた、人々に声を掛けては一人の男の事を訊ねて回っていた。
町の人々は、知っている限りの事を答えてくれる。
彼の尋ね人は、どうやらほんの少し前にこの町を通り抜けていったらしい。
一人の老人が、彼の説明した容姿によく似た男を見かけたと話してくれた。
老人に会釈をして、彼は老人に教えられた方へと走り出す。
しかし、駈けだした彼の表情は、とても「仇討ち」などと言う逼迫したものは感じられない、どちらかと言えば歓喜に満ちた笑みを浮かべているようだった。
乾いた風が吹く町を一気に駈け抜け、剣士は宿場を抜けて再び街道に入る辻までやってきた。
そして、その前方に懐かしい後ろ姿を見つけた瞬間、思わず大きな声でその人物の名前を呼んでいた。
「柊一さん!」
不意に名を呼ばれた事で、その人物は足を止めてこちらに振り返る。
「俺です! 広尾ですっ!」
そこに広尾が居る事に酷く驚いた柊一は、瞳を大きく見開いてゆっくりと瞬きをして見せた。
「文明?」
「はい、お久しぶりです」
広尾は、柊一が次の瞬間に笑みを浮かべる事を確信を持って期待していた。
しかし…。
「なぜ、文明がココに居るんだ?」
期待を裏切って、柊一の表情はあからさまに曇ったものになった。
「なぜって…、アナタを追いかけきたんです。俺がしばらく道場から離れている間に、先代は亡くなっているし。柊一さんは先代の仇を討つ為に道場を出られたと聞いて、凄く驚いたんですよ。なぜ俺が戻るまで、待っていてくれなかったんですか?」
「バカを言え。長男のオマエを、どうしてこんな帰るアテもあるかどうか判らない旅に同道させられると思うんだ」
「俺は東雲道場の門徒です。師範が斬り殺されたのならば、その仇討ちの旅に同道する権利はあるはずでしょう!」
自分の期待とは裏腹な反応を示す柊一に苛立ち、広尾は少し剥きになって食ってかかった。
「…とにかく、助太刀は必要ない。帰れ」
すげなく一言告げると、柊一は広尾に背を向けて歩き出そうとする。
広尾は咄嗟に、柊一の腕を掴んだ。
「待ってください! なんでそんなに意固地になっているんです? 俺は…、本当を言うと助太刀がしたくて追ってきたワケじゃない。俺はアナタに、どうしてこんな旅に同意したのかを訊ねたかったんだ」
強い力で引き戻され、真剣な瞳で己を見つめてくる広尾を、柊一はそれ以上無碍に振り切る事が出来なかった。
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