Serendipity

RU

文字の大きさ
上 下
22 / 25

22

しおりを挟む
 猛ダッシュで帰宅した俺は、自分が仕掛けた施錠に苛立ちながら大急ぎで扉を開き、中に駆け込む。

「東雲サンッ!」

 彼は俺がいない間にどうにかベッドから起きあがり、パジャマのズボンを履いただけの格好でキッチンに立っていた。

「アンタ、なんて格好してんだよっ!」

 思わず叫んだ俺を、彼はモノスゴク恨みがましい目で睨みつけてくる。

「俺だって、こんなモノがなけりゃちゃんと服を着たさっ!」

 グッと突き出された両手には、俺が彼を拘束する為に使ったオモチャの手錠がついたままだった。
 しかし、そんな怒った顔とは裏腹に、キッチンには(そんな不自由な状態であったにも関わらず)昼飯の用意が調えられている途中で。

「ご………ごめんなさい」

 なんとなく彼の気勢に押されてしまったのと、俺自身の心理が出掛ける時とはすっかり変わっていたのとで、俺は慌ててポケットを探り鍵を探し出すと彼の両手を解放する。

「は~、やれやれ。やっと自由になった!」

 両手を振って、手首をさすりながら、彼は息を吐く。

「アンタ、大丈夫なのかよ? そんな歩き回ったりして!」
「かったるいけど、ベッドで寝てたってメシは出てこないだろ?」
「なんで、逃げなかったんだよ?」
「なんで自分の家から逃げなきゃなんねェんだよ」

 サラッと返事をされて、俺は泣き出しそうな気分になりながら彼に抱きついた。

「アンタ、判ってたんだなっ! 俺にアレを持たせて、所長に絶対手渡ししろって言ったのはその為だろっ!」
「あぁ? 中師サン、なんか言ったのか? 全くあのヒトもいいかげん俺のコト子供扱いしてっからなぁ! なんか余分なコト聞いてきたのかよ?」

 いかにも不機嫌そうな声音に、俺は逆にビックリしてしまった。
 てっきり所長と俺を会わせて話を聞かせるのが、彼の計略なんだと思っていたのに。
 俺の予想に反して、今の彼の様子からはそんなつもりがカケラも感じられなかったからだ。

「中師サンは、自分が児童相談所の職員だった頃の話をしてくれただけだけど。………あのヒトの話に出てきた子供って、つまりアンタのコトなんだろ?」
「なんだよ、ひっかけかよ!」

 彼はすっかりうんざりしたような顔をすると、俺の腕を解いて背を向ける。

「なぁ、どうなんだよ? アレはアンタの話じゃないのかよ? 俺はずっと、東雲サンは普通の家庭で育って、両親とは死別したかなんかして今は一人になってるだけの、俺とは違うそこらのヤツらと同じヒトだと思ってたけど。アンタも俺と同じように、施設で育った人間なのか?」

 俺に振り返った彼は、なんだかもう困り切ったみたいな顔で溜息を吐く。

「そうだよ。………俺は、ハルカと同じように養護施設で育ち、母親はちゃんと生きてる」
「なんで、言ってくれなかったんだよっ!」
「それは……、ハルカに余分なコトを考えて欲しくなかったから。……俺はハルカをすごく大事に想っているけれど、俺がハルカの人生を勝手にしたり、無理に俺の意向に添わせたりなんてしたくないんだ。ハルカはハルカの人生を、自分で見つけて自分で決めて欲しい」
「それってなんだよ? そんなコトしてアンタに一体どんな利益があんの? 俺……東雲サンの考えてる事が解ンねェよ!」
「………なぁ、ハルカ。オマエはもう気が付いてると思うけど、あすこにある位牌の俺の友人ってのは、友達なんかじゃなくて恋人だった。アイツは、俺が施設にいた時に同じ部屋にいたヤツで、年齢が近かったから施設を出た後に一緒に生活するようになった。………ハルカ、俺はオマエとほとんどそっくり同じ理由で養護施設に入ったんだ。オマエの履歴を見た時からずっと、オマエのコトばっかり考えてたんだよ」

 彼の言葉に、俺はとても驚いてしまった。
 俺はずっと、彼は単にものすごく心の優しい人物に過ぎず、行くアテのない俺にただ親切で住処を提供してくれているんだとばかり思っていたのに。
 実は俺が彼の…それこそ顔も名前もろくすっぽ判らないうちから、俺を思い遣ってくれていたんだなんて……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...