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猛ダッシュで帰宅した俺は、自分が仕掛けた施錠に苛立ちながら大急ぎで扉を開き、中に駆け込む。
「東雲サンッ!」
彼は俺がいない間にどうにかベッドから起きあがり、パジャマのズボンを履いただけの格好でキッチンに立っていた。
「アンタ、なんて格好してんだよっ!」
思わず叫んだ俺を、彼はモノスゴク恨みがましい目で睨みつけてくる。
「俺だって、こんなモノがなけりゃちゃんと服を着たさっ!」
グッと突き出された両手には、俺が彼を拘束する為に使ったオモチャの手錠がついたままだった。
しかし、そんな怒った顔とは裏腹に、キッチンには(そんな不自由な状態であったにも関わらず)昼飯の用意が調えられている途中で。
「ご………ごめんなさい」
なんとなく彼の気勢に押されてしまったのと、俺自身の心理が出掛ける時とはすっかり変わっていたのとで、俺は慌ててポケットを探り鍵を探し出すと彼の両手を解放する。
「は~、やれやれ。やっと自由になった!」
両手を振って、手首をさすりながら、彼は息を吐く。
「アンタ、大丈夫なのかよ? そんな歩き回ったりして!」
「かったるいけど、ベッドで寝てたってメシは出てこないだろ?」
「なんで、逃げなかったんだよ?」
「なんで自分の家から逃げなきゃなんねェんだよ」
サラッと返事をされて、俺は泣き出しそうな気分になりながら彼に抱きついた。
「アンタ、判ってたんだなっ! 俺にアレを持たせて、所長に絶対手渡ししろって言ったのはその為だろっ!」
「あぁ? 中師サン、なんか言ったのか? 全くあのヒトもいいかげん俺のコト子供扱いしてっからなぁ! なんか余分なコト聞いてきたのかよ?」
いかにも不機嫌そうな声音に、俺は逆にビックリしてしまった。
てっきり所長と俺を会わせて話を聞かせるのが、彼の計略なんだと思っていたのに。
俺の予想に反して、今の彼の様子からはそんなつもりがカケラも感じられなかったからだ。
「中師サンは、自分が児童相談所の職員だった頃の話をしてくれただけだけど。………あのヒトの話に出てきた子供って、つまりアンタのコトなんだろ?」
「なんだよ、ひっかけかよ!」
彼はすっかりうんざりしたような顔をすると、俺の腕を解いて背を向ける。
「なぁ、どうなんだよ? アレはアンタの話じゃないのかよ? 俺はずっと、東雲サンは普通の家庭で育って、両親とは死別したかなんかして今は一人になってるだけの、俺とは違うそこらのヤツらと同じヒトだと思ってたけど。アンタも俺と同じように、施設で育った人間なのか?」
俺に振り返った彼は、なんだかもう困り切ったみたいな顔で溜息を吐く。
「そうだよ。………俺は、ハルカと同じように養護施設で育ち、母親はちゃんと生きてる」
「なんで、言ってくれなかったんだよっ!」
「それは……、ハルカに余分なコトを考えて欲しくなかったから。……俺はハルカをすごく大事に想っているけれど、俺がハルカの人生を勝手にしたり、無理に俺の意向に添わせたりなんてしたくないんだ。ハルカはハルカの人生を、自分で見つけて自分で決めて欲しい」
「それってなんだよ? そんなコトしてアンタに一体どんな利益があんの? 俺……東雲サンの考えてる事が解ンねェよ!」
「………なぁ、ハルカ。オマエはもう気が付いてると思うけど、あすこにある位牌の俺の友人ってのは、友達なんかじゃなくて恋人だった。アイツは、俺が施設にいた時に同じ部屋にいたヤツで、年齢が近かったから施設を出た後に一緒に生活するようになった。………ハルカ、俺はオマエとほとんどそっくり同じ理由で養護施設に入ったんだ。オマエの履歴を見た時からずっと、オマエのコトばっかり考えてたんだよ」
彼の言葉に、俺はとても驚いてしまった。
俺はずっと、彼は単にものすごく心の優しい人物に過ぎず、行くアテのない俺にただ親切で住処を提供してくれているんだとばかり思っていたのに。
実は俺が彼の…それこそ顔も名前もろくすっぽ判らないうちから、俺を思い遣ってくれていたんだなんて……。
「東雲サンッ!」
彼は俺がいない間にどうにかベッドから起きあがり、パジャマのズボンを履いただけの格好でキッチンに立っていた。
「アンタ、なんて格好してんだよっ!」
思わず叫んだ俺を、彼はモノスゴク恨みがましい目で睨みつけてくる。
「俺だって、こんなモノがなけりゃちゃんと服を着たさっ!」
グッと突き出された両手には、俺が彼を拘束する為に使ったオモチャの手錠がついたままだった。
しかし、そんな怒った顔とは裏腹に、キッチンには(そんな不自由な状態であったにも関わらず)昼飯の用意が調えられている途中で。
「ご………ごめんなさい」
なんとなく彼の気勢に押されてしまったのと、俺自身の心理が出掛ける時とはすっかり変わっていたのとで、俺は慌ててポケットを探り鍵を探し出すと彼の両手を解放する。
「は~、やれやれ。やっと自由になった!」
両手を振って、手首をさすりながら、彼は息を吐く。
「アンタ、大丈夫なのかよ? そんな歩き回ったりして!」
「かったるいけど、ベッドで寝てたってメシは出てこないだろ?」
「なんで、逃げなかったんだよ?」
「なんで自分の家から逃げなきゃなんねェんだよ」
サラッと返事をされて、俺は泣き出しそうな気分になりながら彼に抱きついた。
「アンタ、判ってたんだなっ! 俺にアレを持たせて、所長に絶対手渡ししろって言ったのはその為だろっ!」
「あぁ? 中師サン、なんか言ったのか? 全くあのヒトもいいかげん俺のコト子供扱いしてっからなぁ! なんか余分なコト聞いてきたのかよ?」
いかにも不機嫌そうな声音に、俺は逆にビックリしてしまった。
てっきり所長と俺を会わせて話を聞かせるのが、彼の計略なんだと思っていたのに。
俺の予想に反して、今の彼の様子からはそんなつもりがカケラも感じられなかったからだ。
「中師サンは、自分が児童相談所の職員だった頃の話をしてくれただけだけど。………あのヒトの話に出てきた子供って、つまりアンタのコトなんだろ?」
「なんだよ、ひっかけかよ!」
彼はすっかりうんざりしたような顔をすると、俺の腕を解いて背を向ける。
「なぁ、どうなんだよ? アレはアンタの話じゃないのかよ? 俺はずっと、東雲サンは普通の家庭で育って、両親とは死別したかなんかして今は一人になってるだけの、俺とは違うそこらのヤツらと同じヒトだと思ってたけど。アンタも俺と同じように、施設で育った人間なのか?」
俺に振り返った彼は、なんだかもう困り切ったみたいな顔で溜息を吐く。
「そうだよ。………俺は、ハルカと同じように養護施設で育ち、母親はちゃんと生きてる」
「なんで、言ってくれなかったんだよっ!」
「それは……、ハルカに余分なコトを考えて欲しくなかったから。……俺はハルカをすごく大事に想っているけれど、俺がハルカの人生を勝手にしたり、無理に俺の意向に添わせたりなんてしたくないんだ。ハルカはハルカの人生を、自分で見つけて自分で決めて欲しい」
「それってなんだよ? そんなコトしてアンタに一体どんな利益があんの? 俺……東雲サンの考えてる事が解ンねェよ!」
「………なぁ、ハルカ。オマエはもう気が付いてると思うけど、あすこにある位牌の俺の友人ってのは、友達なんかじゃなくて恋人だった。アイツは、俺が施設にいた時に同じ部屋にいたヤツで、年齢が近かったから施設を出た後に一緒に生活するようになった。………ハルカ、俺はオマエとほとんどそっくり同じ理由で養護施設に入ったんだ。オマエの履歴を見た時からずっと、オマエのコトばっかり考えてたんだよ」
彼の言葉に、俺はとても驚いてしまった。
俺はずっと、彼は単にものすごく心の優しい人物に過ぎず、行くアテのない俺にただ親切で住処を提供してくれているんだとばかり思っていたのに。
実は俺が彼の…それこそ顔も名前もろくすっぽ判らないうちから、俺を思い遣ってくれていたんだなんて……。
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