34 / 35
第33話
しおりを挟む
俺は自分が商売をしていた時に、「キミだけだよ」って言葉を切り札にしていた。
考えてみれば、結局は自分がそう言って欲しかったから、それを信奉していたのかもしれない…。
だがともかく、俺はすっかりミイラ取りがミイラになってしまい、商売をもう続けられなくなってしまった。
もっとも、それは柊一サンの部屋を飛び出したあの時から既に、そうだったワケだけど。
とはいえ、あの時と違って今の俺は気力も体力も充実しちゃっているし、以前のようにただ柊一サンの収入をアテにするような生活はしたくない。
とゆーか、それこそたまには俺が柊一サンにゴチソウしたり、サプライズのプレゼントを用意したり…とか、してあげたいと思う。
となったら、ちゃんと勤めを持って、ちゃんと収入を得なければならない。
しかし、柊一サンと言う本命中の本命がデキてしまったってのに、今更水商売をする気には全然なれなかったから、皿洗いでもなんでもいいから真っ当な仕事が欲しかった。
だけど、ハッキリ言って俺は水商売とかジゴロ以外の仕事なんてしたコトが無いし、そもそも変な知り合いは多いが、真っ当な知り合いはほとんどいない。
なので、変な知り合いの仲間ではあるが、真っ当な仕事の方にも顔が利くであろうDISTANCEのマスターを頼る事にした。
「なんだよ、ハルカ。久しぶりじゃん?」
DISTANCEには、先日カガミンが俺を連れて行ってくれた時と同じように、マスターがハッチに飯を食わせていたが、残念ながらカガミンはいなかった。
しかし、カガミンがいなかった事よりももっとガッカリしたのは、そこでハッチと一緒に飯を食っていたのが選りに選ってグチ金だったコトだ。
しかし、グチ金如きに負けて引っ込む気はなかったので、俺はマスター招かれるまま中に入った。
「食事は?」
「うん、済ませてきてる」
俺は、ハッチを挟んで、グチ金と離れた方のスツールに座る。
「じゃあ、どうしたの?」
「うん、ちょっと、マスターに仕事紹介して貰おうと思って」
「仕事? でも、俺が紹介できるような仕事、ハルカに出来るかなぁ?」
「あ、派手な水商売とか、ホストとか、そーいうんじゃなくて。もっと地道なヤツが希望なの」
俺の返事に、マスターはビックリしたような顔をする。
「おやおや? 刺されドコロが悪かったのか~?」
グチ金が、これ見よがしに細い目を更に細めて揶揄してきた。
「えー! ハルカってばお腹刺されたの? 見せて!」
俺がグチ金に何かを言い返す前に、チャーハンを食べていてハッチは持っていたスプーンを放り出して、俺のシャツをたくし上げてくる。
「ちょ……ハッチ! めくったって見えないって!」
とりあえずギブスも包帯も取れていたが、傷の上にはどでかい絆創膏がまだ健在なのだ。
「なぁんだ! つまんないの!」
「ハルカ、刺されたってウワサ、ホントだったの?」
マスターの問いに、俺は肩を竦める。
「よせって、ミツロー。そんなヤツを紹介したら、オマエの信用ガタ落ちだぜ?」
「う~ん………」
グチ金の言い様に腹が立ったが、しかし俺の今までの履歴を考えると、そこでマスターが悩むのを責めるコトは出来ない。
「マスター、俺、マジでちゃんと働きたいんだ」
「ハルカが、そこまで言うんじゃなぁ…」
「オマエもいーかげん、人が好いよ」
呆れるグチ金を、俺は黙って睨み付けた。
「じゃあ、しばらくウチで働きなよ。ちゃんと時給出すし、ちょうど今、給仕のコが辞めちゃったばっかりなんだよね」
「俺は3日持たない方に賭けるね」
グチ金が冷ややかな口調で言う。
「その賭けのった! ハルカが3日以上持ったら、グッチが俺に新しいお客サン紹介してね!」
即座にハッチが名乗りを上げた。
「ああ? ん~、まぁ、いーよ。どうせ、俺の勝ちだ」
「言ってろよ。ハッチ、グチ金がちゃんと紹介してくれなかったら、俺とマスターが証人になってやるからな」
「たっのもし~! 頼むね、ハルカ!」
ハッチはいつもの屈託がない笑顔を浮かべて、肘で思いっきり俺の傷をどついてくれた。
「あ~あ、あの電信柱サン、スッゴクお手頃なお客サンだったんだけどなぁ!」
「バッカ、あの手の客には注意しろって、言ってやっただろ」
食事を終えたグチ金は、長いシガレットを取り出すと火を点ける。
考えてみれば、結局は自分がそう言って欲しかったから、それを信奉していたのかもしれない…。
だがともかく、俺はすっかりミイラ取りがミイラになってしまい、商売をもう続けられなくなってしまった。
もっとも、それは柊一サンの部屋を飛び出したあの時から既に、そうだったワケだけど。
とはいえ、あの時と違って今の俺は気力も体力も充実しちゃっているし、以前のようにただ柊一サンの収入をアテにするような生活はしたくない。
とゆーか、それこそたまには俺が柊一サンにゴチソウしたり、サプライズのプレゼントを用意したり…とか、してあげたいと思う。
となったら、ちゃんと勤めを持って、ちゃんと収入を得なければならない。
しかし、柊一サンと言う本命中の本命がデキてしまったってのに、今更水商売をする気には全然なれなかったから、皿洗いでもなんでもいいから真っ当な仕事が欲しかった。
だけど、ハッキリ言って俺は水商売とかジゴロ以外の仕事なんてしたコトが無いし、そもそも変な知り合いは多いが、真っ当な知り合いはほとんどいない。
なので、変な知り合いの仲間ではあるが、真っ当な仕事の方にも顔が利くであろうDISTANCEのマスターを頼る事にした。
「なんだよ、ハルカ。久しぶりじゃん?」
DISTANCEには、先日カガミンが俺を連れて行ってくれた時と同じように、マスターがハッチに飯を食わせていたが、残念ながらカガミンはいなかった。
しかし、カガミンがいなかった事よりももっとガッカリしたのは、そこでハッチと一緒に飯を食っていたのが選りに選ってグチ金だったコトだ。
しかし、グチ金如きに負けて引っ込む気はなかったので、俺はマスター招かれるまま中に入った。
「食事は?」
「うん、済ませてきてる」
俺は、ハッチを挟んで、グチ金と離れた方のスツールに座る。
「じゃあ、どうしたの?」
「うん、ちょっと、マスターに仕事紹介して貰おうと思って」
「仕事? でも、俺が紹介できるような仕事、ハルカに出来るかなぁ?」
「あ、派手な水商売とか、ホストとか、そーいうんじゃなくて。もっと地道なヤツが希望なの」
俺の返事に、マスターはビックリしたような顔をする。
「おやおや? 刺されドコロが悪かったのか~?」
グチ金が、これ見よがしに細い目を更に細めて揶揄してきた。
「えー! ハルカってばお腹刺されたの? 見せて!」
俺がグチ金に何かを言い返す前に、チャーハンを食べていてハッチは持っていたスプーンを放り出して、俺のシャツをたくし上げてくる。
「ちょ……ハッチ! めくったって見えないって!」
とりあえずギブスも包帯も取れていたが、傷の上にはどでかい絆創膏がまだ健在なのだ。
「なぁんだ! つまんないの!」
「ハルカ、刺されたってウワサ、ホントだったの?」
マスターの問いに、俺は肩を竦める。
「よせって、ミツロー。そんなヤツを紹介したら、オマエの信用ガタ落ちだぜ?」
「う~ん………」
グチ金の言い様に腹が立ったが、しかし俺の今までの履歴を考えると、そこでマスターが悩むのを責めるコトは出来ない。
「マスター、俺、マジでちゃんと働きたいんだ」
「ハルカが、そこまで言うんじゃなぁ…」
「オマエもいーかげん、人が好いよ」
呆れるグチ金を、俺は黙って睨み付けた。
「じゃあ、しばらくウチで働きなよ。ちゃんと時給出すし、ちょうど今、給仕のコが辞めちゃったばっかりなんだよね」
「俺は3日持たない方に賭けるね」
グチ金が冷ややかな口調で言う。
「その賭けのった! ハルカが3日以上持ったら、グッチが俺に新しいお客サン紹介してね!」
即座にハッチが名乗りを上げた。
「ああ? ん~、まぁ、いーよ。どうせ、俺の勝ちだ」
「言ってろよ。ハッチ、グチ金がちゃんと紹介してくれなかったら、俺とマスターが証人になってやるからな」
「たっのもし~! 頼むね、ハルカ!」
ハッチはいつもの屈託がない笑顔を浮かべて、肘で思いっきり俺の傷をどついてくれた。
「あ~あ、あの電信柱サン、スッゴクお手頃なお客サンだったんだけどなぁ!」
「バッカ、あの手の客には注意しろって、言ってやっただろ」
食事を終えたグチ金は、長いシガレットを取り出すと火を点ける。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
無人島で恋はできない
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
相沢 弘樹(あいざわ ひろき)と瀬戸内 游太(せとうち ゆうた)は同性婚をしているパートナー。
現在は二人でカフェ『レニティフ』を経営している。
珈琲と美味しいものの香りが溢れる、優しい常連も多い二人の居場所。
これは無人島……ではなく、現代東京の片隅のカフェで繰り広げられる、甘くて、時々ほろ苦い物語。
※性的表現が含まれます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる