DISTANCE

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第33話

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 俺は自分が商売をしていた時に、「キミだけだよ」って言葉を切り札にしていた。
 考えてみれば、結局は自分がそう言って欲しかったから、それを信奉していたのかもしれない…。
 だがともかく、俺はすっかりミイラ取りがミイラになってしまい、商売をもう続けられなくなってしまった。
 もっとも、それは柊一サンの部屋を飛び出したあの時から既に、そうだったワケだけど。
 とはいえ、あの時と違って今の俺は気力も体力も充実しちゃっているし、以前のようにただ柊一サンの収入をアテにするような生活はしたくない。
 とゆーか、それこそたまには俺が柊一サンにゴチソウしたり、サプライズのプレゼントを用意したり…とか、してあげたいと思う。
 となったら、ちゃんと勤めを持って、ちゃんと収入を得なければならない。
 しかし、柊一サンと言う本命中の本命がデキてしまったってのに、今更水商売をする気には全然なれなかったから、皿洗いでもなんでもいいから真っ当な仕事が欲しかった。
 だけど、ハッキリ言って俺は水商売とかジゴロ以外の仕事なんてしたコトが無いし、そもそも変な知り合いは多いが、真っ当な知り合いはほとんどいない。
 なので、変な知り合いの仲間ではあるが、真っ当な仕事の方にも顔が利くであろうDISTANCEのマスターを頼る事にした。

「なんだよ、ハルカ。久しぶりじゃん?」

 DISTANCEには、先日カガミンが俺を連れて行ってくれた時と同じように、マスターがハッチに飯を食わせていたが、残念ながらカガミンはいなかった。
 しかし、カガミンがいなかった事よりももっとガッカリしたのは、そこでハッチと一緒に飯を食っていたのが選りに選ってグチ金だったコトだ。
 しかし、グチ金如きに負けて引っ込む気はなかったので、俺はマスター招かれるまま中に入った。

「食事は?」
「うん、済ませてきてる」

 俺は、ハッチを挟んで、グチ金と離れた方のスツールに座る。

「じゃあ、どうしたの?」
「うん、ちょっと、マスターに仕事紹介して貰おうと思って」
「仕事? でも、俺が紹介できるような仕事、ハルカに出来るかなぁ?」
「あ、派手な水商売とか、ホストとか、そーいうんじゃなくて。もっと地道なヤツが希望なの」

 俺の返事に、マスターはビックリしたような顔をする。

「おやおや? 刺されドコロが悪かったのか~?」

 グチ金が、これ見よがしに細い目を更に細めて揶揄してきた。

「えー! ハルカってばお腹刺されたの? 見せて!」

 俺がグチ金に何かを言い返す前に、チャーハンを食べていてハッチは持っていたスプーンを放り出して、俺のシャツをたくし上げてくる。

「ちょ……ハッチ! めくったって見えないって!」

 とりあえずギブスも包帯も取れていたが、傷の上にはどでかい絆創膏がまだ健在なのだ。

「なぁんだ! つまんないの!」
「ハルカ、刺されたってウワサ、ホントだったの?」

 マスターの問いに、俺は肩を竦める。

「よせって、ミツロー。そんなヤツを紹介したら、オマエの信用ガタ落ちだぜ?」
「う~ん………」

 グチ金の言い様に腹が立ったが、しかし俺の今までの履歴を考えると、そこでマスターが悩むのを責めるコトは出来ない。

「マスター、俺、マジでちゃんと働きたいんだ」
「ハルカが、そこまで言うんじゃなぁ…」
「オマエもいーかげん、人が好いよ」

 呆れるグチ金を、俺は黙って睨み付けた。

「じゃあ、しばらくウチで働きなよ。ちゃんと時給出すし、ちょうど今、給仕のコが辞めちゃったばっかりなんだよね」
「俺は3日持たない方に賭けるね」

 グチ金が冷ややかな口調で言う。

「その賭けのった! ハルカが3日以上持ったら、グッチが俺に新しいお客サン紹介してね!」

 即座にハッチが名乗りを上げた。

「ああ? ん~、まぁ、いーよ。どうせ、俺の勝ちだ」
「言ってろよ。ハッチ、グチ金がちゃんと紹介してくれなかったら、俺とマスターが証人になってやるからな」
「たっのもし~! 頼むね、ハルカ!」

 ハッチはいつもの屈託がない笑顔を浮かべて、肘で思いっきり俺の傷をどついてくれた。

「あ~あ、あの電信柱サン、スッゴクお手頃なお客サンだったんだけどなぁ!」
「バッカ、あの手の客には注意しろって、言ってやっただろ」

 食事を終えたグチ金は、長いシガレットを取り出すと火を点ける。
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