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第29話
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そりゃあ確かに、あの電柱男がやってる事は、褒められた事じゃない。
だけど、俺はそれを批難してやり玉に挙げる事で、自分が柊一サンにやらかそうとした悪行の数々を帳消しにしようとしただけで、正義なんて一欠片も無かった。
あの電柱男は、柊一サンを傷つけていたかもしれないけれど。
俺はもっと酷く、柊一サンを傷つけたんだ。
今更ながら、自分がどれほど柊一サンに惚れていたかを再認識して、それでもなお、もう逢う事も適わないなんて。
溜息以外に、出てくるモノなんてある訳がない。
「なんかハルカってばスッゴイテンション低いね~?」
「誰だって、ヘマをすればそうなるよ」
諭すように、カガミンはハッチに答えた。
「ん~。俺だって年中ヘマッてるよ! でも気にしてたらキリないじゃん。この間も、せっかくの上客をなくしちゃったしさ!」
「ハッチ、ハルカの気持ちも察してやりなよ」
「構わないって。それよりハッチ、上客ってどんなヤツさ?」
ヘコんでいる俺に気を遣って、カガミンはハッチを黙らせようとしたが、俺は敢えてそれを制して、ハッチに先を促した。
気分が沈みすぎていて、もうこれ以上ないってくらいだったから、いっそ他人の与太話でも聞いていたい気分だったからだ。
「それがさぁ、ハルカにこの間の時、話したじゃん! お小遣いいっぱいくれて、サービスあんまりしなくていいっていう、あのヒト!」
「え? あのでんちゅ……いや、背の高い?」
「そうそう! あの電信柱みたいなヒト!」
「ハッチ、あのヒトにフラレちゃったの?」
「違うよ。この間さぁ、弁護士ってゆーヒトが来て、もう絶対にあのヒトと逢ったりしませんって、誓約書って言うのにサインさせられたんだ。も~、せっかく見つけた上客だったのに、ちょ~残念!」
「ええっ? ちょっと待ってよ、ハッチ! 弁護士って………なんで?」
俺のブラックメールは、柊一サンに回収されて、まだ電柱男の自宅には送っていない。
それなのに、なんでそんなモノが出現するんだよ?
「うん? なんでって? 興信所のヒトに見られちゃったからじゃない? 実を言うとさぁ、ここんトコ何回か、探偵みたいなのがいるような気はしてたんだよね~」
「ちょっと、ハッチ。解ってるなら、なんで相手に教えてあげないのさ?」
呆れたように、カガミンが問う。
「だって、そんなの意味ナイじゃん。もし探偵がホントにいたら、もう証拠写真撮られちゃってるに決まってるから、言っても無駄だし。もし俺の気の所為だったら、客を無闇に不安にさせるだけでしょ。どっちにしたって、俺にオイシイ部分は何にもないモン」
キッパリ言い切ったハッチに、カガミンもビックリした顔をしていた。
「それで、弁護士が来てどうなったんだよ?」
「どうもこうもないよ。その念書ってのにサインさせられて、それっきり。きっとオクサンに浮気を疑われたんじゃないかな? それで興信所使って身辺調査されて、滅多に行かなかったケドもしかしたら俺とホテル入るトコとかフォーカスされちゃったんだよ。入り婿だって言ってたから、今頃はギュウの音も出ないぐらい、オクサンに怒られてるんじゃないかなぁ? でも、オクサンはモノスゴク世間体を気にするヒトだって言ってたから、きっと離婚にはならないな。一生、そのネタでオクサンに頭しかれてちゃうんだよ!」
「ハッチ、それは尻にしかれるんで、頭は上がらないんだよ…」
やや呆れた口調で、マスターがハッチの発言を訂正した。
だけど俺は、それを笑う余裕なんて無かった。
この運命のイタズラに、俺はもう言葉もなかった。
俺がブラックメールを作る必要なんか無くて、全く正しいところから正義の使者はやってきていたのだ。
だけど、俺は俺の無様な状態に、今度は笑いが込み上げてきた。
だって、そうじゃないか。
結局俺が作ったブラックメールは、俺自身に厄災を運んだだけで、俺は俺の首を絞めただけなのだ。
「ハルカ、そこまで笑うコト無いじゃんか!」
思わず笑い出した俺に、ハッチはちょっと不満そうに頬をふくらませた。
だけど、俺はそれを批難してやり玉に挙げる事で、自分が柊一サンにやらかそうとした悪行の数々を帳消しにしようとしただけで、正義なんて一欠片も無かった。
あの電柱男は、柊一サンを傷つけていたかもしれないけれど。
俺はもっと酷く、柊一サンを傷つけたんだ。
今更ながら、自分がどれほど柊一サンに惚れていたかを再認識して、それでもなお、もう逢う事も適わないなんて。
溜息以外に、出てくるモノなんてある訳がない。
「なんかハルカってばスッゴイテンション低いね~?」
「誰だって、ヘマをすればそうなるよ」
諭すように、カガミンはハッチに答えた。
「ん~。俺だって年中ヘマッてるよ! でも気にしてたらキリないじゃん。この間も、せっかくの上客をなくしちゃったしさ!」
「ハッチ、ハルカの気持ちも察してやりなよ」
「構わないって。それよりハッチ、上客ってどんなヤツさ?」
ヘコんでいる俺に気を遣って、カガミンはハッチを黙らせようとしたが、俺は敢えてそれを制して、ハッチに先を促した。
気分が沈みすぎていて、もうこれ以上ないってくらいだったから、いっそ他人の与太話でも聞いていたい気分だったからだ。
「それがさぁ、ハルカにこの間の時、話したじゃん! お小遣いいっぱいくれて、サービスあんまりしなくていいっていう、あのヒト!」
「え? あのでんちゅ……いや、背の高い?」
「そうそう! あの電信柱みたいなヒト!」
「ハッチ、あのヒトにフラレちゃったの?」
「違うよ。この間さぁ、弁護士ってゆーヒトが来て、もう絶対にあのヒトと逢ったりしませんって、誓約書って言うのにサインさせられたんだ。も~、せっかく見つけた上客だったのに、ちょ~残念!」
「ええっ? ちょっと待ってよ、ハッチ! 弁護士って………なんで?」
俺のブラックメールは、柊一サンに回収されて、まだ電柱男の自宅には送っていない。
それなのに、なんでそんなモノが出現するんだよ?
「うん? なんでって? 興信所のヒトに見られちゃったからじゃない? 実を言うとさぁ、ここんトコ何回か、探偵みたいなのがいるような気はしてたんだよね~」
「ちょっと、ハッチ。解ってるなら、なんで相手に教えてあげないのさ?」
呆れたように、カガミンが問う。
「だって、そんなの意味ナイじゃん。もし探偵がホントにいたら、もう証拠写真撮られちゃってるに決まってるから、言っても無駄だし。もし俺の気の所為だったら、客を無闇に不安にさせるだけでしょ。どっちにしたって、俺にオイシイ部分は何にもないモン」
キッパリ言い切ったハッチに、カガミンもビックリした顔をしていた。
「それで、弁護士が来てどうなったんだよ?」
「どうもこうもないよ。その念書ってのにサインさせられて、それっきり。きっとオクサンに浮気を疑われたんじゃないかな? それで興信所使って身辺調査されて、滅多に行かなかったケドもしかしたら俺とホテル入るトコとかフォーカスされちゃったんだよ。入り婿だって言ってたから、今頃はギュウの音も出ないぐらい、オクサンに怒られてるんじゃないかなぁ? でも、オクサンはモノスゴク世間体を気にするヒトだって言ってたから、きっと離婚にはならないな。一生、そのネタでオクサンに頭しかれてちゃうんだよ!」
「ハッチ、それは尻にしかれるんで、頭は上がらないんだよ…」
やや呆れた口調で、マスターがハッチの発言を訂正した。
だけど俺は、それを笑う余裕なんて無かった。
この運命のイタズラに、俺はもう言葉もなかった。
俺がブラックメールを作る必要なんか無くて、全く正しいところから正義の使者はやってきていたのだ。
だけど、俺は俺の無様な状態に、今度は笑いが込み上げてきた。
だって、そうじゃないか。
結局俺が作ったブラックメールは、俺自身に厄災を運んだだけで、俺は俺の首を絞めただけなのだ。
「ハルカ、そこまで笑うコト無いじゃんか!」
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