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第17話
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「無職の遊び人だから、社会保険利かないし。最初にちょっとまとまった額を借りたから、マルボー・ローンの複利マジック、あっちゅーまに…ね」
「貸す方も貸す方だが、借りる方も借りる方だな…。今後返すアテはあるのか?」
「ろくでもないアテがあった…けど、今はもう、無くなっちゃったよ」
俺の答えに、柊一サンは「やっぱりな」って顔で溜息を吐いた。
「だろうと、思った」
「ヒドイなぁ、俺ってそこまで甲斐性なさそうに見える?」
「色男、金と力はなかりけり…ってのは、相場だろう?」
「へえ~? 俺ってそんなに男前?」
「大変なオトコマエだよ。その顔じゃあな」
悪意を込めてニイ~っと笑う柊一サンに、思わず俺は不満を隠せなかった。
「ちぇ~、意地が悪いなぁ」
「いいのか? そんな事を言って。借金の肩代わりをしてくれる、相手に向かって」
「ええっ?」
まさか柊一サンの口からそんなセリフが出てくるなんて、思ってもいなかった俺は、たまげてソファから身を起こし、痛みに呻いて元の姿勢に戻った。
「だって…俺の借金なんて、柊一サンには関係ない話でしょ…」
「俺は、ハルカがいなくなったら困るんだ」
そう言われても、柊一サンの真意を測りかねて、俺は返事に詰まる。
でも、いままでに見せた事のない茶目っ気と悪意が入り交じった笑みを浮かべていた柊一サンは、やっぱり俺が今までに見た事のないきびきびした動作で立ち上がると、ケータイの電源を入れた。
「借金は全額肩代わりしてやるが、そんな馬鹿馬鹿しい大金を支払うのはごめんだ。正規の手続をすれば返済額はもっと少なくなる筈だから、弁護士に相談するぞ」
「そりゃあ、俺だって返済額が少ない方がイイに決まってるから構わないケド。柊一サンに、弁護士のアテなんてあるの?」
「勤務先の顧問弁護士と面識がある。この時間ならまだ連絡がつくだろう」
そう言ってどこやらにコールを始めた。
俺にとってはこの上なく好都合な展開…なんだが、あまりに俺の予定と違いすぎて、まごついてしまう。
「東雲です。夜分にすみません。先生に内々にお願いしたい事がありまして…」
だが俺の躊躇にお構いなく、柊一サンはサクサクと話を進めていた。
どうやら弁護士にコトの次第を説明しているらしいのだが、そこには俺が更にまごつくような、絶妙な脚色がなされていて、俺のくだらない借金がまるで不可抗力で出来てしまったようにキチンと説明がなされている。
「ハルカ、借用書はあるのか?」
「え、えと、う~…たぶん、アパートにある…んじゃないかと」
頷いた柊一サンは、電話の向こうの弁護士にきっぱり「無くした」と告げた。
その様子を見ていて俺は今さらのように、柊一サンがどれほど頭の斬れる、出来る人間であるか、こんなマンションに余裕で暮らしているその意味に、気が付いたのだった。
しばらく話し込んでから通話を切って、柊一サンはちょっとだけ笑った。
「全部まかせて大丈夫だそうだ。だが完全に片づくまでは、相手に居所を知られない方がいいだろう」
「そう言われても身ィ隠すアテなんてナイんですけど…」
「ココじゃ不都合か? 動けるなら、必要なモノは明日買いに出掛けよう。渋谷方面なら、ハルカの顔見知りもあまりいないだろう?」
「そうさせてもらえるなら、俺はスゴくありがたいけど…。でも柊一サン、それでイイの? 俺なんかにそんな大金出して、オマケに寝泊まりまでさせてさ…」
「構わないさ」
隣に腰を降ろして俺を見た柊一サンは、今までとは違った妙に優しい大人の顔をしていた。
俺は手を伸ばし、柊一サンを引き寄せて御礼のキスをしようとした。…が、
「ぁて、ててて!」
「バカ、今日はおとなしくしてろ」
クスクス笑って、柊一サンはやっぱり俺の頭を撫でたのだった。
これじゃ俺は、まるっきりガキか、拾われた犬だ。
でも柊一サンの手に撫でられているのは不思議に心地良くて、柊一サンの犬になるなら、犬もそんなに悪くないかも…なんて、思ってしまったのだった。
「貸す方も貸す方だが、借りる方も借りる方だな…。今後返すアテはあるのか?」
「ろくでもないアテがあった…けど、今はもう、無くなっちゃったよ」
俺の答えに、柊一サンは「やっぱりな」って顔で溜息を吐いた。
「だろうと、思った」
「ヒドイなぁ、俺ってそこまで甲斐性なさそうに見える?」
「色男、金と力はなかりけり…ってのは、相場だろう?」
「へえ~? 俺ってそんなに男前?」
「大変なオトコマエだよ。その顔じゃあな」
悪意を込めてニイ~っと笑う柊一サンに、思わず俺は不満を隠せなかった。
「ちぇ~、意地が悪いなぁ」
「いいのか? そんな事を言って。借金の肩代わりをしてくれる、相手に向かって」
「ええっ?」
まさか柊一サンの口からそんなセリフが出てくるなんて、思ってもいなかった俺は、たまげてソファから身を起こし、痛みに呻いて元の姿勢に戻った。
「だって…俺の借金なんて、柊一サンには関係ない話でしょ…」
「俺は、ハルカがいなくなったら困るんだ」
そう言われても、柊一サンの真意を測りかねて、俺は返事に詰まる。
でも、いままでに見せた事のない茶目っ気と悪意が入り交じった笑みを浮かべていた柊一サンは、やっぱり俺が今までに見た事のないきびきびした動作で立ち上がると、ケータイの電源を入れた。
「借金は全額肩代わりしてやるが、そんな馬鹿馬鹿しい大金を支払うのはごめんだ。正規の手続をすれば返済額はもっと少なくなる筈だから、弁護士に相談するぞ」
「そりゃあ、俺だって返済額が少ない方がイイに決まってるから構わないケド。柊一サンに、弁護士のアテなんてあるの?」
「勤務先の顧問弁護士と面識がある。この時間ならまだ連絡がつくだろう」
そう言ってどこやらにコールを始めた。
俺にとってはこの上なく好都合な展開…なんだが、あまりに俺の予定と違いすぎて、まごついてしまう。
「東雲です。夜分にすみません。先生に内々にお願いしたい事がありまして…」
だが俺の躊躇にお構いなく、柊一サンはサクサクと話を進めていた。
どうやら弁護士にコトの次第を説明しているらしいのだが、そこには俺が更にまごつくような、絶妙な脚色がなされていて、俺のくだらない借金がまるで不可抗力で出来てしまったようにキチンと説明がなされている。
「ハルカ、借用書はあるのか?」
「え、えと、う~…たぶん、アパートにある…んじゃないかと」
頷いた柊一サンは、電話の向こうの弁護士にきっぱり「無くした」と告げた。
その様子を見ていて俺は今さらのように、柊一サンがどれほど頭の斬れる、出来る人間であるか、こんなマンションに余裕で暮らしているその意味に、気が付いたのだった。
しばらく話し込んでから通話を切って、柊一サンはちょっとだけ笑った。
「全部まかせて大丈夫だそうだ。だが完全に片づくまでは、相手に居所を知られない方がいいだろう」
「そう言われても身ィ隠すアテなんてナイんですけど…」
「ココじゃ不都合か? 動けるなら、必要なモノは明日買いに出掛けよう。渋谷方面なら、ハルカの顔見知りもあまりいないだろう?」
「そうさせてもらえるなら、俺はスゴくありがたいけど…。でも柊一サン、それでイイの? 俺なんかにそんな大金出して、オマケに寝泊まりまでさせてさ…」
「構わないさ」
隣に腰を降ろして俺を見た柊一サンは、今までとは違った妙に優しい大人の顔をしていた。
俺は手を伸ばし、柊一サンを引き寄せて御礼のキスをしようとした。…が、
「ぁて、ててて!」
「バカ、今日はおとなしくしてろ」
クスクス笑って、柊一サンはやっぱり俺の頭を撫でたのだった。
これじゃ俺は、まるっきりガキか、拾われた犬だ。
でも柊一サンの手に撫でられているのは不思議に心地良くて、柊一サンの犬になるなら、犬もそんなに悪くないかも…なんて、思ってしまったのだった。
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