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第16話

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 ふらつきながら音の出所を探して、見つけたケータイを拾い上げ、耳に当てる。
 話そうとしたらまた咳き込み、どうにかこうにか出た声はカスカスだった。

「はい…ハルカです…」

 『ハルカ…か?』
 聞こえてきた声に、俺はズキンと胸が痛んだ。

「柊一サン……」

 『どうしたんだ、声が変だが』
「いや、ちょっとゴタゴタしてただけ。……今日って金曜だったっけ?」

 『だから電話したんだが……、都合が悪いのか?』
「先週怒らせちゃったから、電話してもらえないかと思ってた」

 『ああ、うん。もう、その話はナシにしてくれ。…それより、これから会いたいが、大丈夫か?』
 なんと応えたらいいんだろうか。
 今の俺ときたら、サイテーの男前だ。
 しかもこんな気分のまま柊一サンに逢ってしまったら、俺はもうあの画像は絶対に売れなくなってしまうだろう……。
 だが、しかし……。

「いいよ。今どこにいるの?」

 俺はそう答えていた。
 『自宅だが』
「OK、じゃあすぐ行くから、待ってて」

 『場所を覚えてるか?』
「ニオイでワカルよ」

 ケータイを切りながら、自分で自分に苦笑してしまった。
 ボコボコのみっともない顔で、命綱の画像を売れなくなっても、柊一サンとの週に一度きりの逢瀬を逃したくない…なんてさ。
 イカレてるにもほどがある。
 よっぽど殴られどころが悪かったのかな。
 俺は顔を拭って、服の埃を叩くと、地下鉄の駅に向かった。

 柊一サンのマンションにたどり着くには、前回行った時より、ずっと時間が掛かってしまった。
 あちこち痛くて、歩くのが予想以上に難儀だったからだ。
 もちろんタクシー代など持ち合わせてない。
 駅構内や車内では周りの人間にジロジロ見られたが、いい大人が痣だらけのボロクソ状態では、誰だって異様に思うだろう。
 駅員に呼びとめられたり、警官を呼ばれなかっただけでも、ラッキーだったくらいだ。

「遅かったな、やっぱり道に迷ったのか…」

 玄関に出てきた柊一サンは、俺のナリを見て、目を見開いた。

「どうしたんだ?」
「ちょっと………ね」

 埃や血で薄汚れている俺を、柊一サンは部屋に入れ、リビングのソファに座らせた。
 そして、俺が痛がるのも構わずあちこち触ったり動かしたりして、骨折してない事を確かめている。

「痛いって!」
「ハルカはいつも、俺にもっと痛いコトするじゃないか」
「ええ~? してないでしょ? 俺がしてるのは、気持ちイイコトだけじゃん」
「バカッ!」

 叱りつけてから、柊一サンは救急箱を持ってきて、傷口を消毒し、ガーゼや絆創膏で手当をして、打撲箇所には鎮痛消炎剤を貼ってくれた。

「一体何があった。誰に殴られたんだ」

 一通りそういう事を済ませてから、改めて隣に座った柊一サンは、ややきつい口調で詰問してきた。

「酔っ払いに絡まれて」
「嘘を吐くな。こんなにメチャメチャな暴行を、酔っ払いが素面相手に加えられるモンか」
「ん~大したコトじゃないよ」
「はぐらかすな、ちゃんと説明しろ」

 どんなにとぼけようとしても、柊一サンは微動だにせず問いつめてくる。
 俺は諦めて、深く溜息を吐いた。

「借金があって……」
「その様子だと、よほど素性の良くないところから借りたらしいな」
「仕方ないのさ。俺、実は、無職の遊び人だから。マトモなとこじゃ借してくれないからね」
「それで、借金が幾らぐらいあると、こんな目に合わされるんだ?」

 俺が白状した素性に対し、柊一サンから特にコメントはなく、訊かれたのは実質的な事だけだった。

「180……いや、200になってるかな…」
「大金だな。何の為に借りたんだ?」
「先日、ちょっと骨折してさ。入院費用を少しばかり…」
「バカ言うな。一体何日入院したら、そんな金額になるんだ?」
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