17 / 35
第16話
しおりを挟む
ふらつきながら音の出所を探して、見つけたケータイを拾い上げ、耳に当てる。
話そうとしたらまた咳き込み、どうにかこうにか出た声はカスカスだった。
「はい…ハルカです…」
『ハルカ…か?』
聞こえてきた声に、俺はズキンと胸が痛んだ。
「柊一サン……」
『どうしたんだ、声が変だが』
「いや、ちょっとゴタゴタしてただけ。……今日って金曜だったっけ?」
『だから電話したんだが……、都合が悪いのか?』
「先週怒らせちゃったから、電話してもらえないかと思ってた」
『ああ、うん。もう、その話はナシにしてくれ。…それより、これから会いたいが、大丈夫か?』
なんと応えたらいいんだろうか。
今の俺ときたら、サイテーの男前だ。
しかもこんな気分のまま柊一サンに逢ってしまったら、俺はもうあの画像は絶対に売れなくなってしまうだろう……。
だが、しかし……。
「いいよ。今どこにいるの?」
俺はそう答えていた。
『自宅だが』
「OK、じゃあすぐ行くから、待ってて」
『場所を覚えてるか?』
「ニオイでワカルよ」
ケータイを切りながら、自分で自分に苦笑してしまった。
ボコボコのみっともない顔で、命綱の画像を売れなくなっても、柊一サンとの週に一度きりの逢瀬を逃したくない…なんてさ。
イカレてるにもほどがある。
よっぽど殴られどころが悪かったのかな。
俺は顔を拭って、服の埃を叩くと、地下鉄の駅に向かった。
柊一サンのマンションにたどり着くには、前回行った時より、ずっと時間が掛かってしまった。
あちこち痛くて、歩くのが予想以上に難儀だったからだ。
もちろんタクシー代など持ち合わせてない。
駅構内や車内では周りの人間にジロジロ見られたが、いい大人が痣だらけのボロクソ状態では、誰だって異様に思うだろう。
駅員に呼びとめられたり、警官を呼ばれなかっただけでも、ラッキーだったくらいだ。
「遅かったな、やっぱり道に迷ったのか…」
玄関に出てきた柊一サンは、俺のナリを見て、目を見開いた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと………ね」
埃や血で薄汚れている俺を、柊一サンは部屋に入れ、リビングのソファに座らせた。
そして、俺が痛がるのも構わずあちこち触ったり動かしたりして、骨折してない事を確かめている。
「痛いって!」
「ハルカはいつも、俺にもっと痛いコトするじゃないか」
「ええ~? してないでしょ? 俺がしてるのは、気持ちイイコトだけじゃん」
「バカッ!」
叱りつけてから、柊一サンは救急箱を持ってきて、傷口を消毒し、ガーゼや絆創膏で手当をして、打撲箇所には鎮痛消炎剤を貼ってくれた。
「一体何があった。誰に殴られたんだ」
一通りそういう事を済ませてから、改めて隣に座った柊一サンは、ややきつい口調で詰問してきた。
「酔っ払いに絡まれて」
「嘘を吐くな。こんなにメチャメチャな暴行を、酔っ払いが素面相手に加えられるモンか」
「ん~大したコトじゃないよ」
「はぐらかすな、ちゃんと説明しろ」
どんなにとぼけようとしても、柊一サンは微動だにせず問いつめてくる。
俺は諦めて、深く溜息を吐いた。
「借金があって……」
「その様子だと、よほど素性の良くないところから借りたらしいな」
「仕方ないのさ。俺、実は、無職の遊び人だから。マトモなとこじゃ借してくれないからね」
「それで、借金が幾らぐらいあると、こんな目に合わされるんだ?」
俺が白状した素性に対し、柊一サンから特にコメントはなく、訊かれたのは実質的な事だけだった。
「180……いや、200になってるかな…」
「大金だな。何の為に借りたんだ?」
「先日、ちょっと骨折してさ。入院費用を少しばかり…」
「バカ言うな。一体何日入院したら、そんな金額になるんだ?」
話そうとしたらまた咳き込み、どうにかこうにか出た声はカスカスだった。
「はい…ハルカです…」
『ハルカ…か?』
聞こえてきた声に、俺はズキンと胸が痛んだ。
「柊一サン……」
『どうしたんだ、声が変だが』
「いや、ちょっとゴタゴタしてただけ。……今日って金曜だったっけ?」
『だから電話したんだが……、都合が悪いのか?』
「先週怒らせちゃったから、電話してもらえないかと思ってた」
『ああ、うん。もう、その話はナシにしてくれ。…それより、これから会いたいが、大丈夫か?』
なんと応えたらいいんだろうか。
今の俺ときたら、サイテーの男前だ。
しかもこんな気分のまま柊一サンに逢ってしまったら、俺はもうあの画像は絶対に売れなくなってしまうだろう……。
だが、しかし……。
「いいよ。今どこにいるの?」
俺はそう答えていた。
『自宅だが』
「OK、じゃあすぐ行くから、待ってて」
『場所を覚えてるか?』
「ニオイでワカルよ」
ケータイを切りながら、自分で自分に苦笑してしまった。
ボコボコのみっともない顔で、命綱の画像を売れなくなっても、柊一サンとの週に一度きりの逢瀬を逃したくない…なんてさ。
イカレてるにもほどがある。
よっぽど殴られどころが悪かったのかな。
俺は顔を拭って、服の埃を叩くと、地下鉄の駅に向かった。
柊一サンのマンションにたどり着くには、前回行った時より、ずっと時間が掛かってしまった。
あちこち痛くて、歩くのが予想以上に難儀だったからだ。
もちろんタクシー代など持ち合わせてない。
駅構内や車内では周りの人間にジロジロ見られたが、いい大人が痣だらけのボロクソ状態では、誰だって異様に思うだろう。
駅員に呼びとめられたり、警官を呼ばれなかっただけでも、ラッキーだったくらいだ。
「遅かったな、やっぱり道に迷ったのか…」
玄関に出てきた柊一サンは、俺のナリを見て、目を見開いた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと………ね」
埃や血で薄汚れている俺を、柊一サンは部屋に入れ、リビングのソファに座らせた。
そして、俺が痛がるのも構わずあちこち触ったり動かしたりして、骨折してない事を確かめている。
「痛いって!」
「ハルカはいつも、俺にもっと痛いコトするじゃないか」
「ええ~? してないでしょ? 俺がしてるのは、気持ちイイコトだけじゃん」
「バカッ!」
叱りつけてから、柊一サンは救急箱を持ってきて、傷口を消毒し、ガーゼや絆創膏で手当をして、打撲箇所には鎮痛消炎剤を貼ってくれた。
「一体何があった。誰に殴られたんだ」
一通りそういう事を済ませてから、改めて隣に座った柊一サンは、ややきつい口調で詰問してきた。
「酔っ払いに絡まれて」
「嘘を吐くな。こんなにメチャメチャな暴行を、酔っ払いが素面相手に加えられるモンか」
「ん~大したコトじゃないよ」
「はぐらかすな、ちゃんと説明しろ」
どんなにとぼけようとしても、柊一サンは微動だにせず問いつめてくる。
俺は諦めて、深く溜息を吐いた。
「借金があって……」
「その様子だと、よほど素性の良くないところから借りたらしいな」
「仕方ないのさ。俺、実は、無職の遊び人だから。マトモなとこじゃ借してくれないからね」
「それで、借金が幾らぐらいあると、こんな目に合わされるんだ?」
俺が白状した素性に対し、柊一サンから特にコメントはなく、訊かれたのは実質的な事だけだった。
「180……いや、200になってるかな…」
「大金だな。何の為に借りたんだ?」
「先日、ちょっと骨折してさ。入院費用を少しばかり…」
「バカ言うな。一体何日入院したら、そんな金額になるんだ?」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
病み男子
迷空哀路
BL
〈病み男子〉
無気力系主人公『光太郎』と、4つのタイプの病み男子達の日常
病み男子No.1
社会を恨み、自分も恨む。唯一心の支えは主人公だが、簡単に素直にもなれない。誰よりも寂しがり。
病み男子No.2
可愛いものとキラキラしたものしか目に入らない。溺れたら一直線で、死ぬまで溺れ続ける。邪魔するものは許せない。
病み男子No.3
細かい部分まで全て知っていたい。把握することが何よりの幸せ。失敗すると立ち直るまでの時間が長い。周りには気づかれないようにしてきたが、実は不器用な一面もある。
病み男子No.4
神の導きによって主人公へ辿り着いた。神と同等以上の存在である主を世界で一番尊いものとしている。
蔑まれて当然の存在だと自覚しているので、酷い言葉をかけられると安心する。主人公はサディストではないので頭を悩ませることもあるが、そのことには全く気づいていない。
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
【完結】オメガの円が秘密にしていること
若目
BL
オメガの富永円(28歳)には、自分のルールがある。
「職場の人にオメガであることを知られないように振る舞うこと」「外に出るときはメガネとマスク、首の拘束具をつけること」「25年前に起きた「あの事件」の当事者であることは何としてでも隠し通すこと」
そんな円の前に、純朴なアルファの知成が現れた。
ある日、思いがけず彼と関係を持ってしまい、その際に「好きです、付き合ってください。」と告白され、心は揺らぐが……
純朴なアルファ×偏屈なオメガの体格差BLです
18禁シーンには※つけてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる