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第15話
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ぐたぐた悩んでる間に、数日が経過した。
金策に窮したまま街中をふらついていた俺は、裏路地でいきなり声を掛けられた。
「おいハルカ」
振り返ると、ストライプ柄の白っぽいスーツを着たグチ金が、数人の手下を連れて立っている。
グチ金は小柄で痩せた男だが、ちょっと爬虫類的な目つきをしている。
連れている手下達は、それなりにマッチョな感じのデッカイ男だが、その中にいて見劣りしないのは、この感情の読めない目つきと、常に浮かべている口元の笑いの所為だろう。
小柄なグチ金がデッカイ手下をゾロゾロ連れて歩いているの…なんて、如何にも目立つ。
それにも気付かずぼんやりしていた自分に内心で舌打ちしつつ、仕方ないので俺は愛想笑いを浮かべた。
「ああ、どうも」
「返済期日が過ぎてるぜ」
「あれ、そうでしたっけ?」
「バカのフリしても、誤魔化されてなんかやらねぇよ?」
グチ金の顔は、口元は笑っているのになぜか無表情に見える。
気付いた時には、俺の周囲はすっかり手下に取り囲まれていた。
俺はどんどん壁際に追い詰められる。
「いや、マジでうっかり忘れてたんだって」
「うっかりで済む話じゃないってコトぐらい、よっく解ってるよな? 金は用意出来たのか」
「いや、それがまだなんだよね」
俺が凍り付いた笑みを浮かべると、グチ金は口だけますますニイ~っと歪めて見せた。
やられる! …と思った時にはもう、手下の男に顔面を殴られていた。
平手じゃない、岩みたいなグーで、頬骨のあたりだったのに目の前に星が飛び散った。
しかし痛みを感じるヒマもなく、それが合図とばかりに俺を囲んでいた連中がいっぺんに飛びかかってきて、俺をサンドバッグ扱いで殴ったり蹴ったりし始めた。
「おい、ツラはあんまりやってやるな。ソイツの商売道具、ダメにしたら元金の回収が出来なくなる」
そう言ってるグチ金の声音は、まるで俺がボコにされている様子を楽しんでいるように聞こえた。
コイツ、絶対根がサディストだ。
すっかり意識が遠くなりかけた頃にようやく暴行が止まり、グイと引き起こされて、またグチ金の声がした。
「それでこの落とし前、どうつけるつもりなんだ?」
「金になるもの持ってるから……捌けば、まとまったのが用意出来るよ…」
しゃべると猛烈に口の中が痛かったが、我慢してそう返すと、グチ金はちょっとだけ首を傾げた。
「でまかせ言ってるんじゃないよな?」
「ホントさ……DISTANCEのマスターが、証人…」
マスターの名を出したので、グチ金も納得したらしい。
「すぐ用意しとけ。この次も手ぶらだったらオマエの生保で支払ってもらう」
言ってから、軽く顎をしゃくる。
すると最後の置き土産とばかりに、手下が俺の頬を一発殴った。
あとは振り返りもせず一同ご退場となったが、ヤツらが去ってしばらくするまで、俺は立ち上がる事も出来なかった。
こうなっては、もうどうしようもない。
何もかもに目をつぶり、あの映像をディーラーに直持ち込みする以外の道はなさそうだ。
よろける足を踏ん張って立ち上がりながら、軽く咳き込むと、口から撮影用の血糊みたいなものが出てきた。
最後に殴られた時に、口の中が裂けたらしい。
それでも自力で立って歩けるんだから、人間って案外丈夫なもんだな…なんて思ったが、そうじゃなくてあの連中はプロだから、痛めつけてもぶっ壊れない程度に加減して殴ってただけなんだろう。
少なくとも、元・パトロンにブッ飛ばされた時は、一撃で腕と肋骨が折れたが、今は全身が痛いだけで折れたりヒビが入ったり…ってな様子は無い。
表通りに向かってヨロヨロ歩き出したところで、背後の道端から聴き慣れた着信音がした。
騒ぎの最中にケータイを落としていたようだ。
鳴ってくれて良かった、そうじゃなかったら落とした事に全く気付いてなかった。
金策に窮したまま街中をふらついていた俺は、裏路地でいきなり声を掛けられた。
「おいハルカ」
振り返ると、ストライプ柄の白っぽいスーツを着たグチ金が、数人の手下を連れて立っている。
グチ金は小柄で痩せた男だが、ちょっと爬虫類的な目つきをしている。
連れている手下達は、それなりにマッチョな感じのデッカイ男だが、その中にいて見劣りしないのは、この感情の読めない目つきと、常に浮かべている口元の笑いの所為だろう。
小柄なグチ金がデッカイ手下をゾロゾロ連れて歩いているの…なんて、如何にも目立つ。
それにも気付かずぼんやりしていた自分に内心で舌打ちしつつ、仕方ないので俺は愛想笑いを浮かべた。
「ああ、どうも」
「返済期日が過ぎてるぜ」
「あれ、そうでしたっけ?」
「バカのフリしても、誤魔化されてなんかやらねぇよ?」
グチ金の顔は、口元は笑っているのになぜか無表情に見える。
気付いた時には、俺の周囲はすっかり手下に取り囲まれていた。
俺はどんどん壁際に追い詰められる。
「いや、マジでうっかり忘れてたんだって」
「うっかりで済む話じゃないってコトぐらい、よっく解ってるよな? 金は用意出来たのか」
「いや、それがまだなんだよね」
俺が凍り付いた笑みを浮かべると、グチ金は口だけますますニイ~っと歪めて見せた。
やられる! …と思った時にはもう、手下の男に顔面を殴られていた。
平手じゃない、岩みたいなグーで、頬骨のあたりだったのに目の前に星が飛び散った。
しかし痛みを感じるヒマもなく、それが合図とばかりに俺を囲んでいた連中がいっぺんに飛びかかってきて、俺をサンドバッグ扱いで殴ったり蹴ったりし始めた。
「おい、ツラはあんまりやってやるな。ソイツの商売道具、ダメにしたら元金の回収が出来なくなる」
そう言ってるグチ金の声音は、まるで俺がボコにされている様子を楽しんでいるように聞こえた。
コイツ、絶対根がサディストだ。
すっかり意識が遠くなりかけた頃にようやく暴行が止まり、グイと引き起こされて、またグチ金の声がした。
「それでこの落とし前、どうつけるつもりなんだ?」
「金になるもの持ってるから……捌けば、まとまったのが用意出来るよ…」
しゃべると猛烈に口の中が痛かったが、我慢してそう返すと、グチ金はちょっとだけ首を傾げた。
「でまかせ言ってるんじゃないよな?」
「ホントさ……DISTANCEのマスターが、証人…」
マスターの名を出したので、グチ金も納得したらしい。
「すぐ用意しとけ。この次も手ぶらだったらオマエの生保で支払ってもらう」
言ってから、軽く顎をしゃくる。
すると最後の置き土産とばかりに、手下が俺の頬を一発殴った。
あとは振り返りもせず一同ご退場となったが、ヤツらが去ってしばらくするまで、俺は立ち上がる事も出来なかった。
こうなっては、もうどうしようもない。
何もかもに目をつぶり、あの映像をディーラーに直持ち込みする以外の道はなさそうだ。
よろける足を踏ん張って立ち上がりながら、軽く咳き込むと、口から撮影用の血糊みたいなものが出てきた。
最後に殴られた時に、口の中が裂けたらしい。
それでも自力で立って歩けるんだから、人間って案外丈夫なもんだな…なんて思ったが、そうじゃなくてあの連中はプロだから、痛めつけてもぶっ壊れない程度に加減して殴ってただけなんだろう。
少なくとも、元・パトロンにブッ飛ばされた時は、一撃で腕と肋骨が折れたが、今は全身が痛いだけで折れたりヒビが入ったり…ってな様子は無い。
表通りに向かってヨロヨロ歩き出したところで、背後の道端から聴き慣れた着信音がした。
騒ぎの最中にケータイを落としていたようだ。
鳴ってくれて良かった、そうじゃなかったら落とした事に全く気付いてなかった。
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