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第7話
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だがそれから2週間が経過する頃には、俺はもう逃した高級魚の事なんて考えなくなっていた。
今の俺の生活は、至って刹那的な、その日その日の連続でしかない。
どんなに惜しくても過ぎた時間に拘ってたら、現実が干上がってしまう。
だから俺はまたいつものように、一夜のささやかな幸運を期待しつつ、DISTANCEのカウンターで酒をチビチビ舐めていた。
すると期せずして、ポケットの中の携帯が着信を告げた。
数日前にサービスしてあげた坊ちゃんからのコールだナ、と思った。
もしそうだったら期待通りのプチ・ラッキーだ。
俺はケータイを耳に当てて、愛想たっぷりの声を出した。
「ハルカで~す」
『もしもし? あの、俺………東雲ですけど………』
一瞬、晴海埠頭がどうしたのかと思った。
『あの………、もう、ずいぶん間が開いたから、解らない…かも………だけど』
それこそもう、電話した事を後悔しているような声音で、そう言われて。
俺はようやく、それが先日のベッピンだと言う事を思いだした。
「え? ヤダなぁ、忘れてなんかいませんよ~。あんまり連絡くれなかったから、ちょっと意地悪しただけ」
へへへと誤魔化して答えると、電話の向こうの柊一サンは酷く安堵したような息を吐いた。
『あの、これから、いいかな?』
「これから…って、今から?」
『先約があるなら、別に………』
「先約なんて、有るワケ無いでしょ? ずうっと待ってたんだから」
『えっ?』
「場所、どこにする? この時間だと、ちょっと解りやすい場所はどこも混んでるンだけど」
『今、どこにいるんだ?』
「DISTANCEだけど?」
『申し訳ないけど、地下鉄で表参道まで出てこられないか?』
「構わないよ。どこで待ち合わせようか?」
俺の問いに、柊一サンはすらすらと駅周辺の細かい配置を教えてくれて、駅に近いサブウェイで待っているように指示された。
もちろん俺はそれを二つ返事で了承し、早々にDISTANCEを後にして地下鉄に飛び乗る。
駅を降りて指定された出口から件のサブウェイに向かうと、店舗に入る必要もなくそこに柊一サンが待っていた。
「ゴメン、遅くなった?」
「いや、全然予定より早いよ」
そう答えた柊一サンは、俺を促すように歩き出す。
週末の夜…とは言っても、表参道周辺なんて洒落た商店が建ち並ぶファッションの街だ。
この時間では、営業している店の方が圧倒的に少ない。
オマケに柊一サンは、どんどん住宅街の方へと歩いていってしまう。
なんとなく不思議に思いながらも、俺は特に何も訊ねずにその後を付いていった。
しばらく歩くと、表参道というか南青山的な洒落たマンションの前に辿り着く。
その建物に何の躊躇もなく向かった柊一サンは、入り口でさりげなくセキュリティーキーを外して俺を中に招き入れる。
エレベーターに乗ると、中にはちゃんと防犯用のカメラまで設置されていて、やたら金の掛かった住まいである事が容易に伺い知れた。
廊下を歩いていてもしんと静まりかえっていて、もし室内でどんちゃん騒ぎのパーティーが行われていたとしても、この様子からじゃ完璧な防音で外に響かないだけなんだろうと想像が付く。
柊一サンが開けてくれた扉の中に入ると、案の定まるで高級ホテルの一室みたいに落ち着いた部屋がそこにはあった。
今の俺の生活は、至って刹那的な、その日その日の連続でしかない。
どんなに惜しくても過ぎた時間に拘ってたら、現実が干上がってしまう。
だから俺はまたいつものように、一夜のささやかな幸運を期待しつつ、DISTANCEのカウンターで酒をチビチビ舐めていた。
すると期せずして、ポケットの中の携帯が着信を告げた。
数日前にサービスしてあげた坊ちゃんからのコールだナ、と思った。
もしそうだったら期待通りのプチ・ラッキーだ。
俺はケータイを耳に当てて、愛想たっぷりの声を出した。
「ハルカで~す」
『もしもし? あの、俺………東雲ですけど………』
一瞬、晴海埠頭がどうしたのかと思った。
『あの………、もう、ずいぶん間が開いたから、解らない…かも………だけど』
それこそもう、電話した事を後悔しているような声音で、そう言われて。
俺はようやく、それが先日のベッピンだと言う事を思いだした。
「え? ヤダなぁ、忘れてなんかいませんよ~。あんまり連絡くれなかったから、ちょっと意地悪しただけ」
へへへと誤魔化して答えると、電話の向こうの柊一サンは酷く安堵したような息を吐いた。
『あの、これから、いいかな?』
「これから…って、今から?」
『先約があるなら、別に………』
「先約なんて、有るワケ無いでしょ? ずうっと待ってたんだから」
『えっ?』
「場所、どこにする? この時間だと、ちょっと解りやすい場所はどこも混んでるンだけど」
『今、どこにいるんだ?』
「DISTANCEだけど?」
『申し訳ないけど、地下鉄で表参道まで出てこられないか?』
「構わないよ。どこで待ち合わせようか?」
俺の問いに、柊一サンはすらすらと駅周辺の細かい配置を教えてくれて、駅に近いサブウェイで待っているように指示された。
もちろん俺はそれを二つ返事で了承し、早々にDISTANCEを後にして地下鉄に飛び乗る。
駅を降りて指定された出口から件のサブウェイに向かうと、店舗に入る必要もなくそこに柊一サンが待っていた。
「ゴメン、遅くなった?」
「いや、全然予定より早いよ」
そう答えた柊一サンは、俺を促すように歩き出す。
週末の夜…とは言っても、表参道周辺なんて洒落た商店が建ち並ぶファッションの街だ。
この時間では、営業している店の方が圧倒的に少ない。
オマケに柊一サンは、どんどん住宅街の方へと歩いていってしまう。
なんとなく不思議に思いながらも、俺は特に何も訊ねずにその後を付いていった。
しばらく歩くと、表参道というか南青山的な洒落たマンションの前に辿り着く。
その建物に何の躊躇もなく向かった柊一サンは、入り口でさりげなくセキュリティーキーを外して俺を中に招き入れる。
エレベーターに乗ると、中にはちゃんと防犯用のカメラまで設置されていて、やたら金の掛かった住まいである事が容易に伺い知れた。
廊下を歩いていてもしんと静まりかえっていて、もし室内でどんちゃん騒ぎのパーティーが行われていたとしても、この様子からじゃ完璧な防音で外に響かないだけなんだろうと想像が付く。
柊一サンが開けてくれた扉の中に入ると、案の定まるで高級ホテルの一室みたいに落ち着いた部屋がそこにはあった。
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