恋の対価は安寧な夜

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第1夜

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 ステージを降りて、毎度お馴染みの打ち上げの会場へと場を移し、今日の労働と成功をねぎらい合う。
 目映いライトに照らし出されたセイ氏は、神田サンとあんな風にしていた事なんて全く感じさせないエネルギッシュなステージを俺に見せつけた。
 ライトなんてなくても、そこにいるだけでキラキラと輝く存在感。
 茶目っ気たっぷりに素の笑顔を見せる時も、客席を意識してポーズを付けている時も、全ての人の視線を釘付けにさせる。
 俺は、目の前にスライディングしてきたセイ氏を、そのまま抱き上げて連れ去ってしまいたい衝動にすら駆られた。
 でも、同時に俺はそんなセイ氏に酷く苛立たしいモノも感じていた。
 それは、ステージで3曲目のイントロを耳にした時にハッキリと形になって俺の中に湧き上がった。
 俺は、ソロ・ヴォーカリストのセイ氏に苛立ちを感じていたんだ。
 憧れていた伝説のヴォーカリストと共演出来る喜び。
 必死になってコピーした曲を、セイ氏のヴォーカルで演奏して欲しいと依頼があった時、俺はどれほど舞い上がったことか。
 でも本当に俺が憧れていたのは、あのストイックでクールな、フォーピースのメンバーが奏でる、最高の音だったんだ。
 自分がそこで演奏している違和感。
 スライディングしてきたセイ氏が俺に微笑みかけているコトさえも、ちぐはぐなパズルみたいに感じていて。

「どうしたの、リンタロー君。冴えない顔しちゃって?」

 ビールを勧めてくれる神田サンに、俺はどういう顔をしてイイのかすら解らなかった。

「セイ氏、なんで今更バンド時代の曲を演ろうなんて思ったのかなぁ…」

 ポツリと呟いた俺に、神田サンはもちろん、向かい側にいた高輪サンまでもがビックリしたような顔で振り返る。

「…リンタロー君、そうは見えなかったけど、ノリ気じゃなかったの?」
「あ、いえ。そーいうんじゃないんですけど。…なんか、俺なんかが演奏しちゃっていいのかなぁ…とか」
「えぇ? …なんでそんなコト思うの? 俺なんて、セイ氏のバックでソロ以外の曲を演奏出来るチャンスなんて滅多にないって、それしか考えなかったよ?」
「そりゃあ、俺だってそうは思いますけど。…でも、俺はリューみたいなコードは弾けないし…」
「イヤだなぁ、リンタロー君。俺だってあんなコードとてもじゃないけど思いつかないよ! でも、今のセイ氏はもう一個のヴォーカリストなんだし、あえてバンド時代と同じスタイルでステージを演るコトの方がナンセンスだろ?」

 屈託なく笑う神田サンに、俺は少しだけ不快感を覚えていた。
 そりゃああんな風に親密にセイ氏と触れあっている神田サンなら、そんな風に考える事も出来るのかもしれないけど…。
 …あれ?
 コレって不快感…というよりは、嫉妬…なのか?
「そうそう、リンタロー君考えすぎだよ。それに、セイ氏って表面ではなんてコトなさそうな顔してるけど、実は結構…俺達が思う以上にバンド時代に拘りあるから」
「ヒロの言う通りだよ。ヒトの気持ちなんて、他人じゃ計り知れないからね…」

 ふと見せた神田サンの憂鬱そうな表情。
 セイ氏と酷く特別な…、個人のレベルとしては最高に深い位置での結びつきを持っているはずの神田サンが見せたその顔は、なんだかスゴク俺の心に引っかかった。
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