10 / 16
第1夜
4
しおりを挟む
ステージを降りて、毎度お馴染みの打ち上げの会場へと場を移し、今日の労働と成功をねぎらい合う。
目映いライトに照らし出されたセイ氏は、神田サンとあんな風にしていた事なんて全く感じさせないエネルギッシュなステージを俺に見せつけた。
ライトなんてなくても、そこにいるだけでキラキラと輝く存在感。
茶目っ気たっぷりに素の笑顔を見せる時も、客席を意識してポーズを付けている時も、全ての人の視線を釘付けにさせる。
俺は、目の前にスライディングしてきたセイ氏を、そのまま抱き上げて連れ去ってしまいたい衝動にすら駆られた。
でも、同時に俺はそんなセイ氏に酷く苛立たしいモノも感じていた。
それは、ステージで3曲目のイントロを耳にした時にハッキリと形になって俺の中に湧き上がった。
俺は、ソロ・ヴォーカリストのセイ氏に苛立ちを感じていたんだ。
憧れていた伝説のヴォーカリストと共演出来る喜び。
必死になってコピーした曲を、セイ氏のヴォーカルで演奏して欲しいと依頼があった時、俺はどれほど舞い上がったことか。
でも本当に俺が憧れていたのは、あのストイックでクールな、フォーピースのメンバーが奏でる、最高の音だったんだ。
自分がそこで演奏している違和感。
スライディングしてきたセイ氏が俺に微笑みかけているコトさえも、ちぐはぐなパズルみたいに感じていて。
「どうしたの、リンタロー君。冴えない顔しちゃって?」
ビールを勧めてくれる神田サンに、俺はどういう顔をしてイイのかすら解らなかった。
「セイ氏、なんで今更バンド時代の曲を演ろうなんて思ったのかなぁ…」
ポツリと呟いた俺に、神田サンはもちろん、向かい側にいた高輪サンまでもがビックリしたような顔で振り返る。
「…リンタロー君、そうは見えなかったけど、ノリ気じゃなかったの?」
「あ、いえ。そーいうんじゃないんですけど。…なんか、俺なんかが演奏しちゃっていいのかなぁ…とか」
「えぇ? …なんでそんなコト思うの? 俺なんて、セイ氏のバックでソロ以外の曲を演奏出来るチャンスなんて滅多にないって、それしか考えなかったよ?」
「そりゃあ、俺だってそうは思いますけど。…でも、俺はリューみたいなコードは弾けないし…」
「イヤだなぁ、リンタロー君。俺だってあんなコードとてもじゃないけど思いつかないよ! でも、今のセイ氏はもう一個のヴォーカリストなんだし、あえてバンド時代と同じスタイルでステージを演るコトの方がナンセンスだろ?」
屈託なく笑う神田サンに、俺は少しだけ不快感を覚えていた。
そりゃああんな風に親密にセイ氏と触れあっている神田サンなら、そんな風に考える事も出来るのかもしれないけど…。
…あれ?
コレって不快感…というよりは、嫉妬…なのか?
「そうそう、リンタロー君考えすぎだよ。それに、セイ氏って表面ではなんてコトなさそうな顔してるけど、実は結構…俺達が思う以上にバンド時代に拘りあるから」
「ヒロの言う通りだよ。ヒトの気持ちなんて、他人じゃ計り知れないからね…」
ふと見せた神田サンの憂鬱そうな表情。
セイ氏と酷く特別な…、個人のレベルとしては最高に深い位置での結びつきを持っているはずの神田サンが見せたその顔は、なんだかスゴク俺の心に引っかかった。
目映いライトに照らし出されたセイ氏は、神田サンとあんな風にしていた事なんて全く感じさせないエネルギッシュなステージを俺に見せつけた。
ライトなんてなくても、そこにいるだけでキラキラと輝く存在感。
茶目っ気たっぷりに素の笑顔を見せる時も、客席を意識してポーズを付けている時も、全ての人の視線を釘付けにさせる。
俺は、目の前にスライディングしてきたセイ氏を、そのまま抱き上げて連れ去ってしまいたい衝動にすら駆られた。
でも、同時に俺はそんなセイ氏に酷く苛立たしいモノも感じていた。
それは、ステージで3曲目のイントロを耳にした時にハッキリと形になって俺の中に湧き上がった。
俺は、ソロ・ヴォーカリストのセイ氏に苛立ちを感じていたんだ。
憧れていた伝説のヴォーカリストと共演出来る喜び。
必死になってコピーした曲を、セイ氏のヴォーカルで演奏して欲しいと依頼があった時、俺はどれほど舞い上がったことか。
でも本当に俺が憧れていたのは、あのストイックでクールな、フォーピースのメンバーが奏でる、最高の音だったんだ。
自分がそこで演奏している違和感。
スライディングしてきたセイ氏が俺に微笑みかけているコトさえも、ちぐはぐなパズルみたいに感じていて。
「どうしたの、リンタロー君。冴えない顔しちゃって?」
ビールを勧めてくれる神田サンに、俺はどういう顔をしてイイのかすら解らなかった。
「セイ氏、なんで今更バンド時代の曲を演ろうなんて思ったのかなぁ…」
ポツリと呟いた俺に、神田サンはもちろん、向かい側にいた高輪サンまでもがビックリしたような顔で振り返る。
「…リンタロー君、そうは見えなかったけど、ノリ気じゃなかったの?」
「あ、いえ。そーいうんじゃないんですけど。…なんか、俺なんかが演奏しちゃっていいのかなぁ…とか」
「えぇ? …なんでそんなコト思うの? 俺なんて、セイ氏のバックでソロ以外の曲を演奏出来るチャンスなんて滅多にないって、それしか考えなかったよ?」
「そりゃあ、俺だってそうは思いますけど。…でも、俺はリューみたいなコードは弾けないし…」
「イヤだなぁ、リンタロー君。俺だってあんなコードとてもじゃないけど思いつかないよ! でも、今のセイ氏はもう一個のヴォーカリストなんだし、あえてバンド時代と同じスタイルでステージを演るコトの方がナンセンスだろ?」
屈託なく笑う神田サンに、俺は少しだけ不快感を覚えていた。
そりゃああんな風に親密にセイ氏と触れあっている神田サンなら、そんな風に考える事も出来るのかもしれないけど…。
…あれ?
コレって不快感…というよりは、嫉妬…なのか?
「そうそう、リンタロー君考えすぎだよ。それに、セイ氏って表面ではなんてコトなさそうな顔してるけど、実は結構…俺達が思う以上にバンド時代に拘りあるから」
「ヒロの言う通りだよ。ヒトの気持ちなんて、他人じゃ計り知れないからね…」
ふと見せた神田サンの憂鬱そうな表情。
セイ氏と酷く特別な…、個人のレベルとしては最高に深い位置での結びつきを持っているはずの神田サンが見せたその顔は、なんだかスゴク俺の心に引っかかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる