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第1夜
3※
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リハーサルを済ませた後、俺は一服する為に楽屋を離れた。
正確に言うと、一服するってのは言い訳でちょっと一人になりたかったのだ。
会場内の人気のない廊下を選び、奥へと進む。
人の気配の無くなった場所で、俺は一つ大きく息をした。
「……たら………から……」
ちらっと聞こえた人の声に、俺はビックリして辺りを見回す。
「…だよ………だろ…」
それは、なんだかヒソヒソと交わされる話し声のようで。
傍の半開きになった扉の向こうから聞こえている事に気づき、俺は好奇心をそそられてそっと中をのぞき込んだ。
「セイはホントに全然、自覚がないんだから…」
物陰に隠れて見辛かったけれど、そこにいるのは紛れもない神田サンとセイ氏だ。
そんな場所に二人が居た事にも驚いたけれど、何より俺を驚かせたのは神田サンがセイ氏の身体を背中からしっかり抱きしめた格好で床に座り込んでいた事だ。
「だから、アレは俺が悪かったけど。…でも、それとコレが何の関係があるんだよ?」
バスの中で見た時と同じ少し拗ねた表情で、セイ氏は神田サンに抗議しているけれど。
でも神田サンの腕をほどこうとするそぶりはかけらも見えなくて、まるでそれは公園の物陰で睦み合う恋人同士みたいな雰囲気だ。
「ん? お仕置き…かな?」
「なんで俺がタカシにお仕置きされなきゃならないんだよっ」
「そりゃあ、セイ氏があまりにもオコサマモード全開で、はしゃいじゃってるから。誰か側にいてブレーキ掛けなきゃ危ないでしょう」
不意に神田サンは口唇をセイ氏のうなじに押しつける。
セイ氏の身体が、離れた場所から見ている俺にも判るほど、ビクリと竦み上がった。
「…それ…のどこがお仕置きなんだよっ」
「セイには一番効果的なお仕置きでしょう」
抱きしめていた腕がスルリと動いて、神田サンがセイ氏のベルトを緩める。
微かに抵抗するようにセイ氏は身を捩ったけれど、神田サンの手がズボンの前立てを開いて中に滑り込むと、頬を紅潮させて甘い吐息を零すだけになった。
「…あ………タカ…シ…、ヤバ…いって……」
「リハだけで、こんなに熱くなっちゃってるの? ホント、今回のツアーはよっぽどノッてるんだね。スゴク俺、煽られちゃう」
「……んん…」
神田サンの腕の中で、セイ氏は今まで見た事もないような妖艶な表情で快楽に熔けていく。
俺は、この場から早く立ち去らなければという思いに駆られながら、どうしても目を離す事が出来なかった。
甘く濡れた吐息を零しながら、眉を顰めて今にも泣き出しそうな表情のセイ氏は、俺が今まで見たどんな美女よりも官能的で、身を捩らせてはだけてしまった襟元からは昇り立つような色香が漂っている。
それはもう、一回りも年上の同性から感じるなど、今までの俺の人生では考えられないような衝撃だった。
セイ氏を煽るように耳元で低く囁いている神田サンの眼差しは、そうしたセイ氏の仕草一つを見逃すまいとしているようにすら見える。
「あぁ……っ!」
一際大きくセイ氏の身体が跳ね上がり、脱力したようにクタリと神田サンに寄り添った様を目撃して、俺はようやく我に返った。
「…タカシ…テメェ…、本番の前になんてェコトしやがるんだよ…」
「ホンバンは、してないでしょ?」
「ざけんなっ」
怒ったような口調で神田サンを責めるセイ氏の声を後に、俺はそっとその場から逃げ出した。
動悸が激しく、耳に聞こえている。
先ほどのセイ氏の表情が、打ち消しても打ち消しても目の前に浮かんできて。
それと同時に、俺は気づいてしまった。
先日から感じていたセイ氏に対する『眩しさ』の正体。
それは、言葉にすれば酷く陳腐な『恋』だったのだ!
正確に言うと、一服するってのは言い訳でちょっと一人になりたかったのだ。
会場内の人気のない廊下を選び、奥へと進む。
人の気配の無くなった場所で、俺は一つ大きく息をした。
「……たら………から……」
ちらっと聞こえた人の声に、俺はビックリして辺りを見回す。
「…だよ………だろ…」
それは、なんだかヒソヒソと交わされる話し声のようで。
傍の半開きになった扉の向こうから聞こえている事に気づき、俺は好奇心をそそられてそっと中をのぞき込んだ。
「セイはホントに全然、自覚がないんだから…」
物陰に隠れて見辛かったけれど、そこにいるのは紛れもない神田サンとセイ氏だ。
そんな場所に二人が居た事にも驚いたけれど、何より俺を驚かせたのは神田サンがセイ氏の身体を背中からしっかり抱きしめた格好で床に座り込んでいた事だ。
「だから、アレは俺が悪かったけど。…でも、それとコレが何の関係があるんだよ?」
バスの中で見た時と同じ少し拗ねた表情で、セイ氏は神田サンに抗議しているけれど。
でも神田サンの腕をほどこうとするそぶりはかけらも見えなくて、まるでそれは公園の物陰で睦み合う恋人同士みたいな雰囲気だ。
「ん? お仕置き…かな?」
「なんで俺がタカシにお仕置きされなきゃならないんだよっ」
「そりゃあ、セイ氏があまりにもオコサマモード全開で、はしゃいじゃってるから。誰か側にいてブレーキ掛けなきゃ危ないでしょう」
不意に神田サンは口唇をセイ氏のうなじに押しつける。
セイ氏の身体が、離れた場所から見ている俺にも判るほど、ビクリと竦み上がった。
「…それ…のどこがお仕置きなんだよっ」
「セイには一番効果的なお仕置きでしょう」
抱きしめていた腕がスルリと動いて、神田サンがセイ氏のベルトを緩める。
微かに抵抗するようにセイ氏は身を捩ったけれど、神田サンの手がズボンの前立てを開いて中に滑り込むと、頬を紅潮させて甘い吐息を零すだけになった。
「…あ………タカ…シ…、ヤバ…いって……」
「リハだけで、こんなに熱くなっちゃってるの? ホント、今回のツアーはよっぽどノッてるんだね。スゴク俺、煽られちゃう」
「……んん…」
神田サンの腕の中で、セイ氏は今まで見た事もないような妖艶な表情で快楽に熔けていく。
俺は、この場から早く立ち去らなければという思いに駆られながら、どうしても目を離す事が出来なかった。
甘く濡れた吐息を零しながら、眉を顰めて今にも泣き出しそうな表情のセイ氏は、俺が今まで見たどんな美女よりも官能的で、身を捩らせてはだけてしまった襟元からは昇り立つような色香が漂っている。
それはもう、一回りも年上の同性から感じるなど、今までの俺の人生では考えられないような衝撃だった。
セイ氏を煽るように耳元で低く囁いている神田サンの眼差しは、そうしたセイ氏の仕草一つを見逃すまいとしているようにすら見える。
「あぁ……っ!」
一際大きくセイ氏の身体が跳ね上がり、脱力したようにクタリと神田サンに寄り添った様を目撃して、俺はようやく我に返った。
「…タカシ…テメェ…、本番の前になんてェコトしやがるんだよ…」
「ホンバンは、してないでしょ?」
「ざけんなっ」
怒ったような口調で神田サンを責めるセイ氏の声を後に、俺はそっとその場から逃げ出した。
動悸が激しく、耳に聞こえている。
先ほどのセイ氏の表情が、打ち消しても打ち消しても目の前に浮かんできて。
それと同時に、俺は気づいてしまった。
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