恋の対価は安寧な夜

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第1夜

2-2

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「リンタロー君、写真もマメだもんなぁ。スマホ見てイイかい?」
「ああ、ハイどうぞ」

 スマホを手渡すと、セイ氏は俺から離れてしげしげと手の中の機械に見入っている。

「何でも写してくれて構いませんよ、セイさん撮影の写真なら、後でプレミアつくかもだし」

 俺の発言に、皆が笑う。
 一人、セイ氏だけが少しだけ眉を顰めて見せた。

「良いけどさぁ。俺が撮ったって証拠が無くっちゃ、プレミアにはならねェンじゃねェの?」
「プレミアは冗談ですケド、でもホントにセイさん撮影なら俺には記念になるし。撮ってください」
「別に、そこまで頼まれなくてもちょっと写させてもらおうとは思ってたけど…」

 現在、絶賛アナログカメラ沼にハマリ中のセイ氏は、カメラにかなりの重点を置いた俺のスマホを興味深げに眺めてから、なにか撮影する対象は無いかと車内をウロウロと歩き回る。

「セイ~、危ないよ? 子供じゃないんだから」
「へーきだって……うわっ!」

 突然の急ブレーキに、座っている俺達までもが前にのめる。
 顔を上げて、俺は咄嗟にセイ氏が立っていた方を見た。

「あっぶね~」
「だから、危ないって言ったでしょ? ホンットに子供みたいなんだから」

 席を譲ったままずっと通路に立っていた神田サンが、蹌踉めいたセイ氏の身体をしっかりと支えて、窘めるように一言。

「ちぇ、悪かったよ」
「アハハ、リンタロー君。そんな顔しなくってもスマホは無事だよ。セイ氏、自分は転倒してもスマホは手から放しそうもないモンね」
「うっせぇな。他人ヒトのモノなんだから、当たり前だろ!」

 唇を尖らせて少し拗ねたような表情のセイ氏は、そのまま自分の席にストンと腰を降ろした。

「いえ…スマホは買い換えが利きますけど、セイさんはそうはいかないから…」
「おとなしく俺とヒロのツーショットでも写してなさいって」
「誰がそんなピクニックのスナップみたいな写真撮るか!」
「実際、移動中のバスなんて紙一重で似たようなモンだよ? つーか、俺とタカちゃんのツーショットって、そこまで嫌われるモンでもないと思うけど~?」
「イ・ヤ・だ」

 ベッと舌を出し、セイ氏は改めてスマホのカメラをいじる事に興味を移す。

「コレだよ。もー、大人げないんだから…」

 呆れたように肩を竦め、神田サンは元通り俺の隣に腰を降ろした。
 すっかり興味をスマホに奪われたセイ氏は、機能や使い方を訊ねてきてはファインダー代わりの画面をのぞいてみたりしている。
 そんなセイ氏も交えて、後ろ座席の高輪サン達と他愛のない会話を交わしている神田サンを、俺はちょっとだけ意識していた。

 そういえば、神田サンっていつもさりげなくセイ氏のフォローをしているんだよな。
 元々今回のツアーメンバーの中では俺は新参者で、色んな部分でまだまだ気が回りきらない部分はあるんだけど。
 でも、そういう事だけじゃなくて。
 ソロになった直後からツアーメンバーになっている高輪サンの方が、神田サンよりもセイ氏との付き合いは長い。
 でも、なんというか、セイ氏の言動を察知して答えを返すタイミングは神田サンの方が上手い。
 俺が言葉に詰まっている時だって、さりげなくフォローしたのは神田サンだった。
 偶然のように見えたけど、でも…神田サンはセイ氏が立ち上がった時に、態と席に戻らなかったんじゃないだろうか?
 セイ氏が蹌踉めいて転倒する事を予想し、支えになる事を前提に立っていたんじゃないのか?
 なんだか、そんな気がしてきてしまったのだ。
 ふとそんな事を考えてしまったら、俺はなんだか神田サンとセイ氏から目が離せなくなって…。
 神田サンの言動一つ一つが、ものすごく意味深に思えてきて…。
 バスを降りて会場に入った後も、それはずっと俺の頭にこびりついて離れなかった。
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