恋の対価は安寧な夜

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第1夜

2-1

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 移動のバスの中で、俺はいつものようにタブレットを取り出した。
 そして昨夜の打ち上げで出された料理の画像をいじっていると、横から神田サンがのぞき込んでくる。

「リンタロー君ってマメだよねぇ。それ、ブログにアップするんでしょ?」
「そうッスよ」

 スマホで撮った画像はクラウドで同期されていて、一覧に並んだ中から見栄え良く撮れた数枚をピックアップし、それらを丁度良い大きさに加工する。

「俺も一応SNSのアカウント持ってるけど、色々考えると事務所にお任せ一択だよ~」

 神田サンの言葉にひかれて、一緒になって高輪サンものぞき込んできた。

「下手うって、炎上案件になっても困るしねぇ」
「炎上しないコツは、本音を書かないコトっすね。それに、俺が自分で撮ったプライベートネタを上げる方が、アクセス伸びるんスよ」
「え、これ、日付昨日? いや、その前は一昨日? うわっ! 毎日更新してるの? スッゲェマメだな、リンタロー君!」
「ひえ~、俺そんなコト、絶対出来ない!」

 神田サンと高輪サンは、まるで宇宙人を見つけたみたいな目で俺を見る。

「だって日記って言うくらいだから、出来るだけマメにやらなきゃじゃないッスか?」
「夏休みの宿題じゃないんだからさ~」
「やっ、セイさんのツアサポ始めてから、アクセス数が伸びてるんすよ! ここは頑張り時ってもんでしょ!」
「それで、それをどうやってブログにくっつけるの?」

 座席の後ろ側から、いつの間にかセイ氏が俺の手元をのぞき込んでいた。
 俺はかなりビックリして、一瞬膝の上からタブレットを取り落としそうになる。

「フツーに、画像アイコンクリックすれば、アップロード用の画面になるから。そこで画像を選ぶだけ。方法は簡単だけど、画像を用意したりするのは面倒って話だよ」

 焦って咄嗟に返事が出来なかった俺に代わり、神田サンが説明してくれた。

「そーなんだ。…あ、みんなで飯食いに行った画像とかもあるんだ。おもしれェ~」

 どんどん身を乗り出してくるセイ氏に、俺はタブレットを差し出した。

「もう文章書いてあるから、画像のアップロードやってみます?」
「いや、リンタロー君がやるトコ見てるだけでイイ」

 神田サンが場所を空けるとセイ氏はそれがごく当たり前みたいな感じで俺の隣に腰を降ろし、興味津々の態度を隠しもせずにタブレットの画面に見入っている。
 俺のタブレットはそれほど大きくないので、俺の手元まで観察するには、物理的な距離がどんどん近くなる。
 体温も伝わりそうな程接近されて、仄かに香る柑橘系のコロンの匂いになんだか酷くドキドキした。

「うわー、ホントに簡単だなぁ!」

 子供みたいに大喜びではしゃぎながら、セイ氏はまるで自分がなにかを成し遂げたみたいに神田サン達に振り返っている。
 そうして、イイニオイをまき散らしながらはしゃぎ続けるセイ氏を間近に見ていたら、俺はもうアップロードした画面を確認する事も忘れてしまいそうだった。
 後ろ座席にいる高輪サンに話しかけようと振り返った瞬間に、襟と髪の隙間から見えたうなじ。
 たったそれだけの事なのに、妙に印象に残って…。

「リンタロー君、気分でも悪いの?」

 神田サンに声を掛けられ、俺はハッとなった。

「いえ、別に大丈夫ですよ」
「画面の見過ぎだよ、リンタロー君。ブログの更新なんかしてるから!」
「ヒロってば、なんなのそれ?」
「否定出来ないかも…。液晶の画面って結構目にくるから…」

 苦笑いを浮かべる神田サンに、俺は辛うじて笑みを返す。

「なぁ、そんでスマホからこっちにどうやって画像移すの?」

 ようやく取り戻した筈の平常心が、瞬時に粉砕されかねないほど側に近づかれ、俺は再び凍り付いた。

「簡単だよ~。クラウドの同期を設定して置けば、アクセスするだけ。ほら、ね」

 ひょいと手を伸ばして、神田サンが何気なく説明をしてくれた。

「ああ、ゴメンねリンタロー君、勝手にいじっちゃって…」
「いいえ、神田サンからの方が位置的に見やすかったから…」

 適当な事を言ってごまかし、俺はそそくさとタブレットを片づけ始める。
 これ以上セイ氏を至近距離で見ていたら、俺はどうにかなってしまいそうだった。
 どうにか…ってのは、自分でもよく解らない感覚だったけど。
 なんていうか、セイ氏相手に不埒な事を考えてしまいそう……な気がしたんだ。
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