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第19話
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少なくとも柊一は、巷に溢れる薄っぺらな洋楽ファン……邦楽であるというだけで内容を聴きもせず、真っ向から否定しているだけ、というような輩じゃない。
それが解るにつれ、多聞は次第に柊一の言葉に耳を傾けてしまうのだった。
「だからアンタのアルバムの中には、邦楽ロックにありがちな『どっかで聞いたフレーズ』なんて粗悪なものはなかった。ストレートで解りやすい音づくりをしてるのも、悪くない。でも、アンタには欠けてるモンがある。だから、悪かねェって以上の言葉は言えないのさ」
「…じゃあ、なにが欠けてるって言うんだよ?」
「それは言えねェよ。俺は、一人の聴衆に過ぎないんだから」
多聞はベッドの上に飛び乗ると、柊一の側にまでにじり寄った。
「その一人の聴衆の意見を、ぜひ聞きたいって言ってるんだよ。そのオマエの結論を、俺が取り合うかどうは俺の勝手なんだから、言うだけ言ってみろって」
柊一は、言っていいものかどうか迷っているみたいに視線を外し、それから改めて多聞を見た。
「じゃあハッキリ言うけど。アンタ、ヴォーカル雇った方が良いよ」
柊一の一言に、多聞は咄嗟になにも言い返せなかった。
「でもそれは、あくまで俺の意見だから。俺はアンタがどれくらい売れているか知らねェけど、もう既にこのスタイルで充分商品になってるなら、このままでもいーのかもしんないし。先刻も言ったように、アンタのセンスは悪くないんだから…」
「いーよ。…判ってるから」
それ以上、柊一が蛇足のようなフォローをしてくれないように、多聞は言葉を遮った。
自分の歌の実力くらい、自分が一番解っている。
少なくとも多聞は、そこまで自分を見失ってはいなかった。
「後は、そうだな。…勝手な感想を言わせてもらうなら、二枚組のヤツは、アレだったけど。後はそこそこ良かったと思う」
「二枚組の、どの辺が不味かったんだよ。…ヴォーカル部分を除いて」
嫌みっぽい多聞の一言に苦笑いを浮かべ、柊一はポリポリと頭を掻いた。
「長ェよ」
「……………それ、だけ?」
「うん」
簡素な答えになんだか一気に脱力して、多聞はうなだれた。
「オマエ、もしかして感想を求められるの、苦手か?」
「どうかな? 俺は真面目に答えてるつもりだけど。…でもそういえば、みんなあんまり俺にはそーゆーの聞かねェな。なんでかな?」
真顔で訊ねる柊一に、多聞は思わず笑ってしまった。
「なんとなく、判ったよ。最初は貶されてんのかと思ったけど、どーもそーゆーつもりじゃないみたいだし。結局アレだろ、嫌いじゃなかったんだろ?」
「最初から、そー言ってるじゃん。それに俺、アンタのギター好きだぜ。スゴク、気持ち良い」
「なに言ってンだよ。先刻だって、特別気持ちヨクしてやっただろ?」
不意に柊一は多聞の鼻をつまむと、グッと力を込めてねじ曲げた。
「アンタさ、CD聞いてるだけの方がイイ男だな。話してると、ただの変態おやじみてェ」
「痛ってェなぁ。オマエ、実はスゲェ乱暴なヤツだよな。先刻の蹴りも、アレ本気だったろ?」
「大したコトねェだろ」
「そんなに手が早くちゃ、危なくって連れ歩けねェじゃん」
多聞の台詞に、柊一はポカンとした顔になる。
「連れ歩く?」
「そうだよ。オマエ、明日の昼間空いてるか? 俺、今レコーディングの最中だから、スタジオに連れてってやるよ。音楽に興味があるなら、結構面白いと思うぜ」
「…俺がこれから夜勤で、終わるの深夜だって、判っててそーゆー発言してるのか?」
呆れ顔の柊一に、多聞は笑みを浮かべたままの唇を押しつける。
「終わるの、何時? 迎えに行くよ」
「冗談だろ。仕事が終わった後で、変態の相手なんか出来るかよ」
ソフトなキスを繰り返す多聞を、振り払うようにして柊一は立ち上がろうとした。
しかし多聞はそれを許さず、右手を捕まえて柊一を無理矢理抱き寄せる。
「俺だって、夜は寝るよ。ただ、一緒のベッドで並んで寝るのも悪くないだろ。どうせオマエ、部屋帰ったってセンベイ布団しかねェじゃんか。たまにはスプリングの効いた柔らかいベッドで、ぐっすり寝るのも良いモンだぜ」
「アンタの場合、本当に寝るだけって台詞が一番信用出来ねェよ」
そんな柊一の嫌みさえ、多聞には楽しく聞こえるのだった。
それが解るにつれ、多聞は次第に柊一の言葉に耳を傾けてしまうのだった。
「だからアンタのアルバムの中には、邦楽ロックにありがちな『どっかで聞いたフレーズ』なんて粗悪なものはなかった。ストレートで解りやすい音づくりをしてるのも、悪くない。でも、アンタには欠けてるモンがある。だから、悪かねェって以上の言葉は言えないのさ」
「…じゃあ、なにが欠けてるって言うんだよ?」
「それは言えねェよ。俺は、一人の聴衆に過ぎないんだから」
多聞はベッドの上に飛び乗ると、柊一の側にまでにじり寄った。
「その一人の聴衆の意見を、ぜひ聞きたいって言ってるんだよ。そのオマエの結論を、俺が取り合うかどうは俺の勝手なんだから、言うだけ言ってみろって」
柊一は、言っていいものかどうか迷っているみたいに視線を外し、それから改めて多聞を見た。
「じゃあハッキリ言うけど。アンタ、ヴォーカル雇った方が良いよ」
柊一の一言に、多聞は咄嗟になにも言い返せなかった。
「でもそれは、あくまで俺の意見だから。俺はアンタがどれくらい売れているか知らねェけど、もう既にこのスタイルで充分商品になってるなら、このままでもいーのかもしんないし。先刻も言ったように、アンタのセンスは悪くないんだから…」
「いーよ。…判ってるから」
それ以上、柊一が蛇足のようなフォローをしてくれないように、多聞は言葉を遮った。
自分の歌の実力くらい、自分が一番解っている。
少なくとも多聞は、そこまで自分を見失ってはいなかった。
「後は、そうだな。…勝手な感想を言わせてもらうなら、二枚組のヤツは、アレだったけど。後はそこそこ良かったと思う」
「二枚組の、どの辺が不味かったんだよ。…ヴォーカル部分を除いて」
嫌みっぽい多聞の一言に苦笑いを浮かべ、柊一はポリポリと頭を掻いた。
「長ェよ」
「……………それ、だけ?」
「うん」
簡素な答えになんだか一気に脱力して、多聞はうなだれた。
「オマエ、もしかして感想を求められるの、苦手か?」
「どうかな? 俺は真面目に答えてるつもりだけど。…でもそういえば、みんなあんまり俺にはそーゆーの聞かねェな。なんでかな?」
真顔で訊ねる柊一に、多聞は思わず笑ってしまった。
「なんとなく、判ったよ。最初は貶されてんのかと思ったけど、どーもそーゆーつもりじゃないみたいだし。結局アレだろ、嫌いじゃなかったんだろ?」
「最初から、そー言ってるじゃん。それに俺、アンタのギター好きだぜ。スゴク、気持ち良い」
「なに言ってンだよ。先刻だって、特別気持ちヨクしてやっただろ?」
不意に柊一は多聞の鼻をつまむと、グッと力を込めてねじ曲げた。
「アンタさ、CD聞いてるだけの方がイイ男だな。話してると、ただの変態おやじみてェ」
「痛ってェなぁ。オマエ、実はスゲェ乱暴なヤツだよな。先刻の蹴りも、アレ本気だったろ?」
「大したコトねェだろ」
「そんなに手が早くちゃ、危なくって連れ歩けねェじゃん」
多聞の台詞に、柊一はポカンとした顔になる。
「連れ歩く?」
「そうだよ。オマエ、明日の昼間空いてるか? 俺、今レコーディングの最中だから、スタジオに連れてってやるよ。音楽に興味があるなら、結構面白いと思うぜ」
「…俺がこれから夜勤で、終わるの深夜だって、判っててそーゆー発言してるのか?」
呆れ顔の柊一に、多聞は笑みを浮かべたままの唇を押しつける。
「終わるの、何時? 迎えに行くよ」
「冗談だろ。仕事が終わった後で、変態の相手なんか出来るかよ」
ソフトなキスを繰り返す多聞を、振り払うようにして柊一は立ち上がろうとした。
しかし多聞はそれを許さず、右手を捕まえて柊一を無理矢理抱き寄せる。
「俺だって、夜は寝るよ。ただ、一緒のベッドで並んで寝るのも悪くないだろ。どうせオマエ、部屋帰ったってセンベイ布団しかねェじゃんか。たまにはスプリングの効いた柔らかいベッドで、ぐっすり寝るのも良いモンだぜ」
「アンタの場合、本当に寝るだけって台詞が一番信用出来ねェよ」
そんな柊一の嫌みさえ、多聞には楽しく聞こえるのだった。
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