クロスオーバーKAGURAZAKA

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Untitled:バーテンダーとの会話

6.

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「そこまで思ってるなら、オヤジさんにハッキリ言えばいいんじゃないの?」

 奇妙な感傷に惑わされた気がして、到流はわざと突き放すような言葉を選んだ。

「ちょっと前に、脚立から落ちたんだよ、オヤジ。オフクロがそのコトを気にしてて…。オヤジももう年齢としだし…」

 俯いたままの文雄を眺め、到流は「ああ、このヒトは、家族を愛しているのだな」と思った。
 そう思った自分に、驚いた。
 自分は、祖母に育てられたために、他人から「おばあちゃん子」と言われる。
 しかし祖母のために仕送りをしたいとか、祖母の体を心配して共に暮らそうとか、考えた事は無い。
 祖母に対する気持ちは、単なる ”情” のみで、それは愛情とは違う気がする。
 母の顔は覚えていないし、父に対しては言わずもがなだ。
 血縁者に対して、相応の愛情を持っているのか? と自問すれば、返ってくる答えは「否」だ。

「先刻、殺人犯の息子って、言ったよね?」
「いや、言ってません」
「口調が変わったよ? そういうのは、だいたい自分を守ろうとか、嘘をこうとしている人間の反応なんだ。別に例え話でもいいじゃないか。俺は単なる行きずりの客なんだし、バーテンダーは時に、嘘を言っても客の満足する話をするモンだろ?」
「そうなんすか?」
「だから、バーテンダーはカウンセラーなんだよ。はい、続きをどうぞ」

 なんとなく、丸め込まれた気がするが。
 しかし、なぜか到流は、文雄に自分の胸の内を吐露しても良いような気になっていた。
 これが文雄の言う、バーテンダーはカウンセラーなのだろうか?

「面白い話じゃ、ないっすよ」

 殺人事件なんて、都会であってもセンセーショナルだが、到流の故郷は小さな漁村の田舎町だ。
 父は漁師で、母は専業主婦だった。
 夏休みに、父の船に乗せてもらえるのが楽しみだったし、そこで漁師の仲間達から魚のさばき方なども教えてもらった。
 母は、父の仕事が深夜から早朝になる事や、昼過ぎに戻ってきて酒を飲んでいる事など、快く思っていなかった。
 小学生の到流が船に乗る事も、包丁で魚をさばく事も、良く思っていなかった。
 というより、母はあの村の全てが嫌で、本当は村から出て都会の暮らしに憧れていたのだ。
 母がそれをしなかったのは、到流に取って母方の祖父にあたる、母の父が亡くなったためだ。
 祖父が生きていたら、母は都会の学校に進学をして、そのまま都会での生活をするつもりだった…と言うのが、母の口癖だった。
 そんな鬱憤を常に抱えていた母は、漁村を訪れた若い男…それが旅行者だったのか、仕事でやってきたサラリーマンだったか、知らないが…とにかくその ”相手” との出会いにより、父を、村を、息子を捨てて、都会に行く決心をした…らしい。
 父がどういった経緯で、母の逃避行の計画を知ったのか、到流は知らない。
 ただ、逃げ出そうとしていた母を引き留めようとして口論になり、カッとなって首を絞めたと言うのが、到流の知っている事実である。
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