クロスオーバーKAGURAZAKA

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Untitled:バーテンダーとの会話

3.

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「なら、なんで辞めたんすか?」

 文雄の様子に苛立って、到流はいつも以上につっけんどんな言い方で問うた。

「そりゃ…、オフクロに ”お父さんのコト、心配で” って言われたら、断れないだろ…」
「俺、オフクロいないんで、良くワカラナイっす」

 到流の答えに、文雄はようやく目の前にいるバーテンダーを、単なるバーテンではなく、一人の人間として捕らえた。

「仕事、辛いの?」
「別に、ツライとかってコトはないっすけど…」

 この職場は、文雄の言う通り、居心地は良い。
 前述の通り、自分の履歴を知ってもなお雇ってくれた穂刈はもちろん、なにやらワケアリの到流の事を、他の従業員は特に詮索もしないで分け隔てなく接してくれる。
 なんの資格も無い到流には、支払える時給が最低賃金のみのために、店の奥にある小部屋を、部屋代を取らずに貸してくれた。

「俺は、こういう店を持つのが夢だったんだ…」
「飲食店は、今、ムズカシイっしょ」

 かくいう王様の涙も、都からの要請で営業時間を時短している。
 穂刈が営業時間中に店を空けていたのも、商店街加盟店が時短営業に関する話し合いをするためだ。
 同じ商店街に加盟している文雄の父もその話し合いに参加しており、そのために今日は営業時間を切り上げたので、文雄が気晴らしに出掛ける時間が出来たとも言える。

「そうだね。だけど、結局は夢に過ぎないから、難しいもなにも無いけど」
「俺は別に、店を持ちたいとかは無いっすから」
「夢は、あるかい?」
「俺に? いや…特には…と言うか、夢なんて、腹が膨れてなきゃ考えられないんじゃないんですか?」

 なんとも突き放すような言葉に、文雄はむしろ興味を持った。

「それじゃあまるで、キミは腹が膨れてないみたいじゃないか?」
「実際、カツカツの生活してますから」
「でも、穂刈サンは親切だろ?」
「確かに、お人好しってぐらい親切っすね。殺人犯の息子を厨房の奥に住み込みさせるなんて、フツーじゃな…」

 言ってしまってから、到流はハッとなる。

「殺人犯の息子?」
「いや…、なんでもないっす…」
「なんでもなくはないだろう? バーのカウンターはカウンセリングって、聞いたコトないかい?」
「そっちが客ですよね?」

 返されて、文雄は以前、カウンターに立っていた時のクセで、つい言ってしまった事に気付いた。
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