荒木探偵事務所

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事件簿2:山麓大学第一学生寮下着盗難事件

9.鹿島の誘い

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 霧島は、鹿島の部屋の扉をノックした。

「いるよー」

 扉を開けると、鹿島は柔らかな布でコンピューターのホコリを拭っているところだった

「どうしたの?」
「コレ、見てくれないか」

 持っていた写真を差し出すと、鹿島は素直に受け取りそれを見た。

「これはこの間の飲み会の時、平塚クンが写した写真じゃないの。どしたの、この荒木クン」
「やっぱりそれ、荒木か」
「こんな格好してる人、他にいないでしょう。それはともかく、もうちょっと芸術的にしてほしかったなぁ。山羊ヒゲを描くとか、丸眼鏡をかけるとか。あっ、色マーカーでお化粧って言うのもオモロイんじゃない?」
「俺が描いた訳じゃないから、リクエストをされても困る」
「じゃあ、誰の作品かな? この真っ黒は」
「…川崎…、だと思う」
「……………」

 鹿島は顔を上げ、黙って霧島の顔を見た。

「川崎クンが、何でこんな事するの?」
「解らないから、聞きに来たんだ」
「なるほど」

 二人は視線を写真に落とした。マーカーのラインは乱暴な軌跡を描いていたが、一分の隙も残らないように真っ黒に塗り潰されている。
 まるで、荒木の顔だけが見たくないかのように。

「よっぽど、荒木クンの事がイヤなんですかね~?」
「川崎の性格じゃあ、好きになれって方が無理だろう」
「それで、川崎クンはまだ帰って来てないのかな?」
「外泊するって言って、出かけたぞ」

 鹿島は少し意外な顔で霧島を見た。

「川崎クンが、外泊届もナシに? らしくないですね~。う~ん、霧島クンは、どう思います?」
「どうって…、良くわかんねえよ。俺と話をしていたら、急に今日は外泊するって出かけたんだぜ」
「変ですねえ…」

 机の上に置かれた写真を、鹿島が指でコツコツと叩く。

「…霧島クン、今晩おヒマ?」
「何だよ急に薄気味悪ィな…」
「あのねェ、荒木クンじゃあるまいし、デートのお誘いじゃないから安心して」
「じゃあなんだって急に…、あっ、そういえば川崎が出かける前に同じ会話をしたな」

 霧島はポンと手を叩いた。

「同じって?」
「下着の盗み方が目茶苦茶だから、荒木に濡れ衣を着せるためにとにかく盗んでいて、犯人は他にいるんじゃないかって言ったのさ。…例えば、川崎とかって」
「そしたら?」
「俺にそんな趣味は無い。って今の鹿島みたいに言われて、その後出かけた」

 鹿島は気味が悪くなるほどニンマリと笑った。

「霧島クン、今夜はぜぇったいつき合って。脱衣所の張り番は、一人じゃ結構ツライんよ」
「…張り番…?」

 鹿島はニコニコ笑っているばかりである。
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