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事件簿2:山麓大学第一学生寮下着盗難事件
7.疑惑の川崎
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数日は、それでも何事もなく過ぎた。
105号室は狭かったが、荒木は霧島がどこをどういじっても文句を言わなかったし、もう一人の住人である川崎とも気があった。
講義を終えて部屋に戻ると、室内を掃除するのが、最近の霧島の日課になっている。
「霧島君もマメだね。いくら掃除をしたところで、あの荒木に散らかされてしまうのに」
少し遅れて部屋に戻ってきた川崎が、室内に掃除機をかけている霧島に声をかけた。
「これでも一応居候だからな。それに俺は、俺の目に見える範囲が散らかっているのが我慢できない性格だし、幸い荒木は俺が片付けた事を怒るような奴じゃないしさ」
「これは驚いた。君はずいぶん彼に好意的なんだな」
川崎は、本当に驚いたような顔をして見せた。
「そう…だな。根は悪い奴じゃないと思うし。まあ、無神経は無神経だけど」
霧島は掃除機を止めると、今度は出かけに干したふとんを取り込み始めた。
「その調子だと、君は彼の言った事を信じてるんだ」
「何が?」
室内に運び込まれる布団の山を、川崎がたたんで荒木のベッドの上に積み上げる。
一応クローゼットがついてはいるが、"荒木の巣" 状態で物の入る余地は無い。
本当は、ここもすっかり整理してしまいたいのだが、何日暮らすのかも解らないこの部屋に、それほど手を掛けたくないのもあって、霧島は見て見ぬフリをしていた。
「下着泥棒の一件だよ」
「ああ、あれか。…確かに俺はあいつと会って間もないし、この寮の連中に比べれば、あの男の事はよく知らないが、あまり嘘をつける人間には見えないからなァ…」
「と言う事は、君は荒木の味方なんだな」
室内が一通り片付くと、川崎が冷たい麦茶を入れてくれた。
「味方、なんて言い方をされると困るけど、あまり疑ってもいないな」
「こんなところに理解者がいるとは思わなかった。でも君、彼が美少年趣味を持っている事、知っているのかい?」
「……………」
霧島は黙って首を横に振った。
しかし考えてみれば、思い当たるフシはある。
荒木は好みのタイプが同室になるかもしれないといっていたし、一人暮らしの男のところならば、寮を追い出された後転がり込んでも、見咎められる事もないだろう。
「みんなが、彼が盗ったと思うのは当然コトさ。そう思わないかい?」
「それは…、そうかもしれないが…」
どうやら川崎は、荒木に対してあまり好意を抱いてないらしい。
彼が疑われている事を、むしろ喜んでいるように見える。
「日々の行いが良くないから、まあ疑われても仕方がないよ。君もあまり彼を庇うと、同類だと思われちゃうよ」
そこはあまり、思われたくない。
「しかし、自分の趣味で盗むんなら、もう少し考えて盗るんじゃないのか? 顔が好みだったとか、パンツの柄が好きだったとか…。どうも話を聞いていると、ずいぶん無差別に盗っていってるようだしな、この犯人は」
「何だか探偵みたいだね。でも普通の下着泥棒だって、結構無差別に盗っているもんじゃないの? まあ普通の人間には解らない心理だけどさ」
「そりゃあ、解らないさ。俺は犯罪心理学者じゃないし。だけど、今現在ある証拠といえば、盗品である下着がこの部屋から出てきたって言うだけだろう? 荒木の言っていたように、荒木をハメる為に誰かが置いていったのかもしれないし、意外にも君が盗んでいたのかもしれない。いくらでも仮説は立てられるさ」
冗談半分に言った霧島の言葉に、川崎はかなり驚いたような顔をして見せた。
「やめてくれよ、僕は男の下着を集めるような趣味は無い」
「当然だろう。そんなヤツがそうそういてたまるか」
「あっ、そうだ、僕は今晩外泊するから、何なら僕のベッドを使ってもいいよ」
「外泊? 彼女の家にでも?」
「まさか、実家だよ。何か親父の具合が悪いって言ってね。大した事はないんだろうけどさ」
「そうか、お大事にな」
「君こそ、荒木に気をつけて」
あの会話の後では、冗談にもならないと霧島は思った。
105号室は狭かったが、荒木は霧島がどこをどういじっても文句を言わなかったし、もう一人の住人である川崎とも気があった。
講義を終えて部屋に戻ると、室内を掃除するのが、最近の霧島の日課になっている。
「霧島君もマメだね。いくら掃除をしたところで、あの荒木に散らかされてしまうのに」
少し遅れて部屋に戻ってきた川崎が、室内に掃除機をかけている霧島に声をかけた。
「これでも一応居候だからな。それに俺は、俺の目に見える範囲が散らかっているのが我慢できない性格だし、幸い荒木は俺が片付けた事を怒るような奴じゃないしさ」
「これは驚いた。君はずいぶん彼に好意的なんだな」
川崎は、本当に驚いたような顔をして見せた。
「そう…だな。根は悪い奴じゃないと思うし。まあ、無神経は無神経だけど」
霧島は掃除機を止めると、今度は出かけに干したふとんを取り込み始めた。
「その調子だと、君は彼の言った事を信じてるんだ」
「何が?」
室内に運び込まれる布団の山を、川崎がたたんで荒木のベッドの上に積み上げる。
一応クローゼットがついてはいるが、"荒木の巣" 状態で物の入る余地は無い。
本当は、ここもすっかり整理してしまいたいのだが、何日暮らすのかも解らないこの部屋に、それほど手を掛けたくないのもあって、霧島は見て見ぬフリをしていた。
「下着泥棒の一件だよ」
「ああ、あれか。…確かに俺はあいつと会って間もないし、この寮の連中に比べれば、あの男の事はよく知らないが、あまり嘘をつける人間には見えないからなァ…」
「と言う事は、君は荒木の味方なんだな」
室内が一通り片付くと、川崎が冷たい麦茶を入れてくれた。
「味方、なんて言い方をされると困るけど、あまり疑ってもいないな」
「こんなところに理解者がいるとは思わなかった。でも君、彼が美少年趣味を持っている事、知っているのかい?」
「……………」
霧島は黙って首を横に振った。
しかし考えてみれば、思い当たるフシはある。
荒木は好みのタイプが同室になるかもしれないといっていたし、一人暮らしの男のところならば、寮を追い出された後転がり込んでも、見咎められる事もないだろう。
「みんなが、彼が盗ったと思うのは当然コトさ。そう思わないかい?」
「それは…、そうかもしれないが…」
どうやら川崎は、荒木に対してあまり好意を抱いてないらしい。
彼が疑われている事を、むしろ喜んでいるように見える。
「日々の行いが良くないから、まあ疑われても仕方がないよ。君もあまり彼を庇うと、同類だと思われちゃうよ」
そこはあまり、思われたくない。
「しかし、自分の趣味で盗むんなら、もう少し考えて盗るんじゃないのか? 顔が好みだったとか、パンツの柄が好きだったとか…。どうも話を聞いていると、ずいぶん無差別に盗っていってるようだしな、この犯人は」
「何だか探偵みたいだね。でも普通の下着泥棒だって、結構無差別に盗っているもんじゃないの? まあ普通の人間には解らない心理だけどさ」
「そりゃあ、解らないさ。俺は犯罪心理学者じゃないし。だけど、今現在ある証拠といえば、盗品である下着がこの部屋から出てきたって言うだけだろう? 荒木の言っていたように、荒木をハメる為に誰かが置いていったのかもしれないし、意外にも君が盗んでいたのかもしれない。いくらでも仮説は立てられるさ」
冗談半分に言った霧島の言葉に、川崎はかなり驚いたような顔をして見せた。
「やめてくれよ、僕は男の下着を集めるような趣味は無い」
「当然だろう。そんなヤツがそうそういてたまるか」
「あっ、そうだ、僕は今晩外泊するから、何なら僕のベッドを使ってもいいよ」
「外泊? 彼女の家にでも?」
「まさか、実家だよ。何か親父の具合が悪いって言ってね。大した事はないんだろうけどさ」
「そうか、お大事にな」
「君こそ、荒木に気をつけて」
あの会話の後では、冗談にもならないと霧島は思った。
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