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事件簿2:山麓大学第一学生寮下着盗難事件
6.モテ男
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結局パンツ泥棒の真犯人が荒木であるか否かの結論は出なかったが、ほとんどの寮生が荒木に対し不信を抱いたらしい。
なぜかと言えば、毎晩のように荒木の部屋に集まっていた学生達が、今夜は鹿島以外顔を出さなかったのである。
「酷いよなァ。みんなボクのコト疑ってるんだ」
「まァ、仕方がないでしょう。いっそしばらく、実家にでも帰っていたら?」
「ゴジョーダンでしょう! 実家と鬼門は同義語のボクに、シネとっ?!」
「そうは言っても、この部屋から浦和の下着が発見されたのは事実なんだし、常日頃の行いの悪さが祟ったな」
酒盛りには一切参加せず、自分の机に向かっていた川崎が、むしろいい気味だとでも言いたげな顔で言う。
「寮長として、中立を守らなきゃならないから、今夜はこの辺でお暇するよ」
しかし鹿島は、立ち上がっても部屋から出て行こうとはせず、奥のベッドに歩み寄った。
「鼻血、止まった?」
「おかげさまで…」
霧島の顔にはタオルを巻いた保冷剤が乗っており、表情は見えない。
「君もタイミング最悪の時にきちゃったね。まあ、もうしばらくすれば、落ち着くだろうから我慢してね」
「はあ…」
「じゃ、オヤスミ」
鹿島は手を振ると、部屋を出ていった。
「鹿島君は冷たいなァ。もう三年もお付き合いしてるのにサ。困った時はお互い様とか言って、缶ビール三本で人のコト買収して、寮長選で無理やり一票入れさせたクセにさ」
「そんな事してたのか、お前ら…」
川崎があきれ返った顔でこちらを見ている。
「…三年…? でも、一年生って?」
アイスノンの下から、霧島が尋ねた。
「ああ、ボクは留年してるから。いつも単位の計算を間違えて、足りなくなっちゃうんだよね」
朗らかな返事に、霧島は思わず起き上がって相手の顔を見てしまった。
「付き合いが三年で、留年していて、一年生って事は…」
「ううん違うよ。ボクは鹿島クンより年上だから、え~と…、………ねえ川崎クン、ボク何年ココにいるんだっけか?」
「知ってる訳ないだろう。僕が来た時には、君は既にココのヌシだったんだから」
「そうか…。そうだね、アハハハハ…」
さすがにあきれ返って声も出ない。
いったいどういう家庭で育つと、こういう人格が形成されるのか、霧島は疑問に思った。
「君って人は、こういう時でも逼迫感ってモノに欠けるね。明日にでも袋叩きにされて、ココを追い出されるかもしれないって言うのに」
「そん時はそん時で、コネコちゃん達の家にでも転がり込むよ。一人暮らしで寂しいから来てネって言ってるコ、何人かいるもん」
この雑巾のような男がモテるのだろうか? と思うが、本人が何も困った様子もなく、ニコニコと発言している様子から、転がり込む先はあるのだろう。
そもそも、女性というのは霧島の理解の範疇からかなり越えた奇妙なモノを、カワイイと言う一言で愛でてしまうイキモノだ。
「ま、何にせよ、ボクは取ってないんだから、そのうち濡れ衣も晴れるでしょう。どうせボクのこのあふれる知性と才能を妬んだ誰かが、ボクをハメたに違いないんだし!」
アイスノンを顔に乗せ、ぼんやりと荒木の話を聞きながら、霧島は下着泥棒は荒木の言う通り、別に存在するのではないかと思いはじめていた。
なぜかと言えば、毎晩のように荒木の部屋に集まっていた学生達が、今夜は鹿島以外顔を出さなかったのである。
「酷いよなァ。みんなボクのコト疑ってるんだ」
「まァ、仕方がないでしょう。いっそしばらく、実家にでも帰っていたら?」
「ゴジョーダンでしょう! 実家と鬼門は同義語のボクに、シネとっ?!」
「そうは言っても、この部屋から浦和の下着が発見されたのは事実なんだし、常日頃の行いの悪さが祟ったな」
酒盛りには一切参加せず、自分の机に向かっていた川崎が、むしろいい気味だとでも言いたげな顔で言う。
「寮長として、中立を守らなきゃならないから、今夜はこの辺でお暇するよ」
しかし鹿島は、立ち上がっても部屋から出て行こうとはせず、奥のベッドに歩み寄った。
「鼻血、止まった?」
「おかげさまで…」
霧島の顔にはタオルを巻いた保冷剤が乗っており、表情は見えない。
「君もタイミング最悪の時にきちゃったね。まあ、もうしばらくすれば、落ち着くだろうから我慢してね」
「はあ…」
「じゃ、オヤスミ」
鹿島は手を振ると、部屋を出ていった。
「鹿島君は冷たいなァ。もう三年もお付き合いしてるのにサ。困った時はお互い様とか言って、缶ビール三本で人のコト買収して、寮長選で無理やり一票入れさせたクセにさ」
「そんな事してたのか、お前ら…」
川崎があきれ返った顔でこちらを見ている。
「…三年…? でも、一年生って?」
アイスノンの下から、霧島が尋ねた。
「ああ、ボクは留年してるから。いつも単位の計算を間違えて、足りなくなっちゃうんだよね」
朗らかな返事に、霧島は思わず起き上がって相手の顔を見てしまった。
「付き合いが三年で、留年していて、一年生って事は…」
「ううん違うよ。ボクは鹿島クンより年上だから、え~と…、………ねえ川崎クン、ボク何年ココにいるんだっけか?」
「知ってる訳ないだろう。僕が来た時には、君は既にココのヌシだったんだから」
「そうか…。そうだね、アハハハハ…」
さすがにあきれ返って声も出ない。
いったいどういう家庭で育つと、こういう人格が形成されるのか、霧島は疑問に思った。
「君って人は、こういう時でも逼迫感ってモノに欠けるね。明日にでも袋叩きにされて、ココを追い出されるかもしれないって言うのに」
「そん時はそん時で、コネコちゃん達の家にでも転がり込むよ。一人暮らしで寂しいから来てネって言ってるコ、何人かいるもん」
この雑巾のような男がモテるのだろうか? と思うが、本人が何も困った様子もなく、ニコニコと発言している様子から、転がり込む先はあるのだろう。
そもそも、女性というのは霧島の理解の範疇からかなり越えた奇妙なモノを、カワイイと言う一言で愛でてしまうイキモノだ。
「ま、何にせよ、ボクは取ってないんだから、そのうち濡れ衣も晴れるでしょう。どうせボクのこのあふれる知性と才能を妬んだ誰かが、ボクをハメたに違いないんだし!」
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