荒木探偵事務所

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事件簿2:山麓大学第一学生寮下着盗難事件

5.下着発見

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「じゃあ俺、これを片付けてきちゃいますね」
「悪いけど頼むよ。僕は布団を干して、掃除機をかけておくからさ。あっ、洗濯場はここを出て左に行って、突き当たりを右に行った所だから」

 部屋のそこここに隠されていた大量の洗濯物の山を抱え、霧島は部屋を出た。
 川崎に言われた通りに進むと、床に "洗濯場↑" と書かれた紙が、緑色の養生テープで貼り付けてある。
 矢印の先には、床がタイル張りになっている部屋があり、二層式の洗濯機が2台と家庭用の乾燥機が1台置かれていた。
 洗濯機の前に学生が1人立っていて、中から洗濯物を取り出しているところだった。

「あ、こんにちわ」
「やあ、君も洗濯? ちょっと待ってね、今オレの方、終わるから」
「え、こっち空いてますから、急がなくても…」
「そっちの壊れてんだよ。使うと服が全部、バラバラになるんだ。…ずいぶんあるなぁ、何日ため込んだんだよ」

 抱えている洗濯物を見て、学生が冷やかした。

「俺じゃないです。荒木さんの…」
「えーっ、荒木が洗濯すンのぉー!? 雪でも降るンじゃないのかぁ?!」

 やはり一筋縄ではいかない妖怪らしい。
 霧島は苦笑いを浮かべる他に、返事のしようがなかった。

「どーれどれ、どんな新種のキノコが生えているか、この浦和クンが見てあげましょう」

 浦和は霧島から洗濯物を取り上げると、何やら見聞しながら洗濯物を洗濯槽に入れていった。
 霧島にしてみれば、何やらアヤシイ香りのする男物の下着などに触らなくて済んだのだから、これはむしろありがたい。

「あーっ!」
「!?」

 突然莫迦でかい悲鳴を上げたかと思うと、浦和は洗濯室を飛び出していった。

「なんだったんだ…」

 浦和の突飛な行動にかなり驚き、霧島はしばらく茫然としていたが、気を取り直して浦和が散らかしていった洗濯物を拾い集めた。

「うぎゃ~!!」

 拾い集めた洗濯物を洗濯槽に入れていると、遠くの方から、男の悲鳴が聞こえてくる。

「なんだ…?」

 気にはなったが、やりかけの作業を途中で止める気にもならず、とりあえずそこにとどまっていると、今度は数人の激しい足音が聞こえてきた。

「コラァ、荒木ィ! 観念しろォ!!」
「観念も何も、ボクは取ってないよォ」
「取ってねーモンが、何でお前の部屋から出てくんだよ!」
「だって、取って無いモンは、取って無いもん!」
「じゃあこっち来てみろよ、ほらァ!」

 更に激しい足音がドタドタとこちらに近付いてきて、荒木を連れて浦和が入ってくる。

「こちらさんが持ってきた、お前の部屋の大量の洗濯モンに、オレのパンツが入ってたんだぞ! お前が取ったっていう、証拠だろ!」
「そぉんなコト言ったって、ボクの部屋はみんなの溜り場になってるんだしィ、誰かが置いて行ったって、ぜぇんぜん解んないじゃん」
「お前以外にこんなモン集める奴がいるかよ!」
「でも知らないモンは知らないんだってば」
「ちょっと、ちょっと、どーしたの。寮内で暴力沙汰なんか起こさないでくれよ~」

 騒ぎが聞こえたのか、鹿島が二人の間に割り入った。

「ハイハイハイ、事情をこの寮長サンに話してごらん。まずは浦和クンからね」
「俺が風呂場で盗まれたパンツが、荒木の部屋にあったんだ」

 浦和は洗濯機に手を突っ込むと、自分の下着を取り出し鹿島に突きつけた。

「で、荒木クンの言い分は?」
「記憶にございません」
「ふざけるな!」
「ふぎゃあ」

 怒りのあまり殴りかかろうとした浦和を、咄嗟に止めようとした霧島だったが、タイミングを外して逆に浦和のパンチを顔面に受けてしまった。

「タキオちゃん!?」
「霧島クン!」

 鼻の奥からツーンと嫌な臭いがしてきたかと思うと、鼻の上あたりが熱くなってくる。

「あっ、タキオちゃん、鼻血」

 ポタポタと鮮やかな鮮血が滴り落ちる。

「あ~あ。マジで暴力沙汰はカンベンしてくれよ~。しょーがないなぁ、浦和クンは食堂に行って、保冷剤もらってきて。霧島クンは鼻を摘んで、顔を仰向けにして。荒木で霧島クンを、部屋に誘導してあげて。後のヤジウマクン達は、ココの掃除手伝って
!」
 落ち着いた調子で鹿島がテキパキと指示を出す。
 血に仰天していた浦和は、言われるままに飛び出していった。

「さすが寮長。冷静沈着ぅ~」
「トラブルのたんびに慌ててたら、この寮長なんてやってらんないの」
「でも鹿島クンがタキオちゃんの顔押さえてるの、浦和クンのパンツだよ」
「げえっ!」

 落ち着いているようでも、見慣れぬモノを見た所為で、やはり逆上していたようである。
 霧島は黙ってポケットからハンカチを出し、自分の鼻にあてがった。
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