38 / 49
事件簿2:山麓大学第一学生寮下着盗難事件
2.寮生の荒木
しおりを挟む
蝉しぐれに溢れる昼下がり、一人の学生が寮の玄関前に立った。
「ごめんください」
返事はない。仕方なく学生は荷物を抱えたまま奥へと進んだ。
「どなたかいませんか!?」
先ほどより大きな声で呼びかけてみるが、やはり返事はない。
ただ自分の声が、薄暗い廊下に響くだけである。
学生は少し困った様子で、足下に荷物を下ろし、ため息を付いた。
「出直すか…」
外でしばらく時間を潰し、出直してくる方が得策に思え、彼は荷物に手を掛けた。
「どちら様?」
「うわあ!」
振り向いた先に人が立っており、学生は驚いて飛び退いた。
「そんなに驚くこたぁナイでしょ。確かに『バケモノ館』だの『妖怪屋敷』だの呼ばれちゃってるけどサ、実際ユーレイだのヨーカイだのの類いは出たコト無いンよ」
いやに馴れ馴れしい態度と笑顔のその人物は、たいそう大きな紙袋を両手に抱えている。
袋の口からのぞいて見える中身から察するに、どうやらパチンコ帰りらしい。
しかも、彼の格好はどっから見ても外出するに相応しくないもので、初夏だというのに半纏を着こみ、裸足にゴム草履を履いている。頭髪はどう見ても寝起きのまま放ってあり、履いているGパンは、既に自分がGパンである事を忘れているとしか思えない程ヨレヨレで、膝の部分はパックリと裂けている。
「ところでどーしたの? 寮生でも無いのにヨーカイ屋敷に用事があるとも思えないけど…」
とりあえず他に人影は無い。あまりにもアヤシゲな人物ではあるが、選択の余地は無かった。
「…あの、…今日からこの寮に住む事になってるハズなんですけど…」
「そーなんだ。じゃ、鹿島クンに会えばイイよ」
「鹿島さんには、どこに行けば会えるんでしょう?」
「う~ん、3時頃になれば帰ってくるんじゃないかなぁ?」
「そうですか。じゃあ、時間を潰して、出直して…」
「ええ~? ボクの部屋で待ってればいいよ~。あすこなら、鹿島クンは必ず顔出すし。捕まえるのもカンタンだよ」
大変愛想よく誘ってくれているのはありがたいが、彼がアヤシゲな事に変わりは無い。学生は顔を引き釣らせている。
「あのねェ、先刻から言ってるけど、ボク別にヨーカイじゃ無いし。ボクは寮生の荒木。ココの連中は、みんなボクんトコにたまってるから、遠慮するコト無いよ。これはね、今夜の宴会用」
両手に抱えた紙袋を揺すり、彼は非常に自慢そうである。
「そう…なのか…?」
相槌とも、納得とも言えない返事を返し、学生は相変わらず顔を引き釣らせている。どうやら、こういった強引なタイプの人間が、苦手らしい。
「そーそー。サァこんなところでぼやぼやしていないで、狭いけど寮内一のパラダイスに行きましょー」
有無を言わさない強引さで、荒木と名乗る男は、引き釣った顔の学生をズルズルと部屋に連れて行ってしまった。
「ごめんください」
返事はない。仕方なく学生は荷物を抱えたまま奥へと進んだ。
「どなたかいませんか!?」
先ほどより大きな声で呼びかけてみるが、やはり返事はない。
ただ自分の声が、薄暗い廊下に響くだけである。
学生は少し困った様子で、足下に荷物を下ろし、ため息を付いた。
「出直すか…」
外でしばらく時間を潰し、出直してくる方が得策に思え、彼は荷物に手を掛けた。
「どちら様?」
「うわあ!」
振り向いた先に人が立っており、学生は驚いて飛び退いた。
「そんなに驚くこたぁナイでしょ。確かに『バケモノ館』だの『妖怪屋敷』だの呼ばれちゃってるけどサ、実際ユーレイだのヨーカイだのの類いは出たコト無いンよ」
いやに馴れ馴れしい態度と笑顔のその人物は、たいそう大きな紙袋を両手に抱えている。
袋の口からのぞいて見える中身から察するに、どうやらパチンコ帰りらしい。
しかも、彼の格好はどっから見ても外出するに相応しくないもので、初夏だというのに半纏を着こみ、裸足にゴム草履を履いている。頭髪はどう見ても寝起きのまま放ってあり、履いているGパンは、既に自分がGパンである事を忘れているとしか思えない程ヨレヨレで、膝の部分はパックリと裂けている。
「ところでどーしたの? 寮生でも無いのにヨーカイ屋敷に用事があるとも思えないけど…」
とりあえず他に人影は無い。あまりにもアヤシゲな人物ではあるが、選択の余地は無かった。
「…あの、…今日からこの寮に住む事になってるハズなんですけど…」
「そーなんだ。じゃ、鹿島クンに会えばイイよ」
「鹿島さんには、どこに行けば会えるんでしょう?」
「う~ん、3時頃になれば帰ってくるんじゃないかなぁ?」
「そうですか。じゃあ、時間を潰して、出直して…」
「ええ~? ボクの部屋で待ってればいいよ~。あすこなら、鹿島クンは必ず顔出すし。捕まえるのもカンタンだよ」
大変愛想よく誘ってくれているのはありがたいが、彼がアヤシゲな事に変わりは無い。学生は顔を引き釣らせている。
「あのねェ、先刻から言ってるけど、ボク別にヨーカイじゃ無いし。ボクは寮生の荒木。ココの連中は、みんなボクんトコにたまってるから、遠慮するコト無いよ。これはね、今夜の宴会用」
両手に抱えた紙袋を揺すり、彼は非常に自慢そうである。
「そう…なのか…?」
相槌とも、納得とも言えない返事を返し、学生は相変わらず顔を引き釣らせている。どうやら、こういった強引なタイプの人間が、苦手らしい。
「そーそー。サァこんなところでぼやぼやしていないで、狭いけど寮内一のパラダイスに行きましょー」
有無を言わさない強引さで、荒木と名乗る男は、引き釣った顔の学生をズルズルと部屋に連れて行ってしまった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる