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事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
33.男の戦乙女と不死身の英雄
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「ゴールインっ!」
屋敷の外に飛び出した荒木に駆け寄り、無郎は二人に抱きついた。
「荒木さんっ! 霧島さんっ!」
「お~ととと、あっ、ヤバい!」
荒木は霧島を担いだまま、無郎をも抱えて、そそくさと屋敷から距離を取る。
抱きついた格好のまま持ち上げられた無郎は、完全に崩れ落ちる屋敷の、その最後の様子を見た。
二人を完全に安全圏だと思える場所まで運んだところで、荒木は手を離す。
「ご無事で、なによりです…」
「だから、なんにも心配いらないって言ったでしょ? タキオちゃん、タキオちゃん、起きてってばっ!」
荒木が霧島の頬をベチベチと叩く。
「…荒木…? 荒木かっ!」
意識を取り戻した霧島は、目の前の相棒の頬をつかみ両方に強く引っ張った。
「痛い、痛い、痛い…、ヒドイよ」
「お前、どうして…」
「ボクの方が聞きたいね。爆風に吹っ飛ばされた拍子に気を失っちゃって。目が覚めたらみィんな燃えてて驚いたよ。タキオちゃんはブリュンヒルデになってるし…」
ようやく放してもらえた頬を撫でながら、荒木が事情を話す。
「なんですか、ブリュンヒルデって?」
「炎の山に閉じ込められてるお姫様だヨ。差し詰めボクはジークフリート♡」
「なら、俺はお前をブッ殺してイイって事になるよな?」
「あれ~? そんなお話だったっけ?」
荒木はケラケラと笑った。
「ところで荒木。俺の傍に、他には誰が居た?」
「人見さんが亡くなってたけど、後は誰も…」
「そうか…」
霧島はしばらく俯き、一つため息をついてから無郎の顔を見た。
「坊ちゃん、兄貴を連れ戻せなくて、すまん」
「いいんです、霧島さん…」
無郎の微笑みを、霧島は気丈だと思った。
「坊っちゃん、別に俺を恨んでも良いんだぞ?」
「いいえっ! いいえっ! 僕は……」
無郎は霧島に抱きつくと、ワッと泣き出した。
記憶の中の兄は、優しく無郎を気遣ってくれている。
だが、聡明な無郎は、どちらの有郎が真実なのか、解ってしまっていたのだ。
「…タキオちゃん、ズルイ…」
無郎にしがみつかれている霧島を、荒木が指をくわえたポーズで妬ましげに見る。
霧島は無郎の頭を撫でてやりながら、チラッと荒木を睨んだ。
「ンな事より、これからどうすんだ?」
「東京帰るしかないんじゃないの?」
「だからどうすんだって聞いてんだろ。荷物から何から、みんな燃えちまったんだぞ」
「ん~、そっかぁ……」
三人がそんな風に話し合っていると、遠くからサイレンの音が聞こえた。
「タキオちゃん。ボクらがどうこうする以前に、消防士サンが来ちゃったっぽくない?」
「だからって、マッドサイエンティストが造った生きた死体に襲われて、造った本人が家に火を付けたので何もかも燃えましたなんて話、信じてもらえると思ってんのかよっ?」
「そこは無理でも、お巡りさんに捕まったとこで、弁護士呼ぶフリして美人サンに電話すればよくない?」
間違いなく悪手だと感じる。
「却下だ」
「じゃあ、タキオちゃんに別の案があるの?」
「いや、それとは別に、森にも火が移ってる。此処に居たら、遅かれ早かれ蒸し焼きになるぞ」
「えっ?」
「霧島さん、あそこに車があります!」
駐車場を生きた死体を集めるための罠に使うために、チェロキーは離れた場所に移してあったのだ。
三人はチェロキーに飛び乗ると、慌ててエンジンを掛けてその場を離れた。
屋敷の外に飛び出した荒木に駆け寄り、無郎は二人に抱きついた。
「荒木さんっ! 霧島さんっ!」
「お~ととと、あっ、ヤバい!」
荒木は霧島を担いだまま、無郎をも抱えて、そそくさと屋敷から距離を取る。
抱きついた格好のまま持ち上げられた無郎は、完全に崩れ落ちる屋敷の、その最後の様子を見た。
二人を完全に安全圏だと思える場所まで運んだところで、荒木は手を離す。
「ご無事で、なによりです…」
「だから、なんにも心配いらないって言ったでしょ? タキオちゃん、タキオちゃん、起きてってばっ!」
荒木が霧島の頬をベチベチと叩く。
「…荒木…? 荒木かっ!」
意識を取り戻した霧島は、目の前の相棒の頬をつかみ両方に強く引っ張った。
「痛い、痛い、痛い…、ヒドイよ」
「お前、どうして…」
「ボクの方が聞きたいね。爆風に吹っ飛ばされた拍子に気を失っちゃって。目が覚めたらみィんな燃えてて驚いたよ。タキオちゃんはブリュンヒルデになってるし…」
ようやく放してもらえた頬を撫でながら、荒木が事情を話す。
「なんですか、ブリュンヒルデって?」
「炎の山に閉じ込められてるお姫様だヨ。差し詰めボクはジークフリート♡」
「なら、俺はお前をブッ殺してイイって事になるよな?」
「あれ~? そんなお話だったっけ?」
荒木はケラケラと笑った。
「ところで荒木。俺の傍に、他には誰が居た?」
「人見さんが亡くなってたけど、後は誰も…」
「そうか…」
霧島はしばらく俯き、一つため息をついてから無郎の顔を見た。
「坊ちゃん、兄貴を連れ戻せなくて、すまん」
「いいんです、霧島さん…」
無郎の微笑みを、霧島は気丈だと思った。
「坊っちゃん、別に俺を恨んでも良いんだぞ?」
「いいえっ! いいえっ! 僕は……」
無郎は霧島に抱きつくと、ワッと泣き出した。
記憶の中の兄は、優しく無郎を気遣ってくれている。
だが、聡明な無郎は、どちらの有郎が真実なのか、解ってしまっていたのだ。
「…タキオちゃん、ズルイ…」
無郎にしがみつかれている霧島を、荒木が指をくわえたポーズで妬ましげに見る。
霧島は無郎の頭を撫でてやりながら、チラッと荒木を睨んだ。
「ンな事より、これからどうすんだ?」
「東京帰るしかないんじゃないの?」
「だからどうすんだって聞いてんだろ。荷物から何から、みんな燃えちまったんだぞ」
「ん~、そっかぁ……」
三人がそんな風に話し合っていると、遠くからサイレンの音が聞こえた。
「タキオちゃん。ボクらがどうこうする以前に、消防士サンが来ちゃったっぽくない?」
「だからって、マッドサイエンティストが造った生きた死体に襲われて、造った本人が家に火を付けたので何もかも燃えましたなんて話、信じてもらえると思ってんのかよっ?」
「そこは無理でも、お巡りさんに捕まったとこで、弁護士呼ぶフリして美人サンに電話すればよくない?」
間違いなく悪手だと感じる。
「却下だ」
「じゃあ、タキオちゃんに別の案があるの?」
「いや、それとは別に、森にも火が移ってる。此処に居たら、遅かれ早かれ蒸し焼きになるぞ」
「えっ?」
「霧島さん、あそこに車があります!」
駐車場を生きた死体を集めるための罠に使うために、チェロキーは離れた場所に移してあったのだ。
三人はチェロキーに飛び乗ると、慌ててエンジンを掛けてその場を離れた。
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