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事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
32.名探偵再び
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霧島に待てと言われ、そのままそこに留まった無郎は、なす術もなくジッと屋敷を見つめていた。
既に火の手は屋敷中に回り、天をも焦がす程の猛火に包まれている。
「霧島さん…」
無郎は祈るような気持ちで呟いた。
屋敷を包む炎は、かなり離れた場所に立っている無郎でさえも熱いと感じる程の熱気を放っている。
中にいる霧島達の安否を気遣い、無郎は不安をますます募らせた。
「お兄さん…、霧島さんを連れて行かないで下さい…」
少なくとも昨日まで…、いや、今朝までの有郎は、無郎が最大の信頼を置く兄だった。
だが、霧島から聞かされた恐ろしい研究の話や、先程の狂気に取り憑かれたような顔は、無郎の全く知らない有郎の姿だった。
元の兄に戻って欲しいと願っている反面、むしろ平素のあの姿こそが偽りで、有郎は言葉通り、無郎の存在を『大事な実験体』としか見ていなかったのかもしれない。
そう考えると、色々腑に落ちなかった部分に納得が出来てしまう。
微妙にソリが合わないにも関わらず、仕事の話は無郎の介入を絶対に許さなかった父と兄。
有郎は、むしろ無郎から全てを奪い去ってしまおうとしているのかもしれない。
「なにしてるの? コネコちゃん」
「えっ!?」
聞き覚えのあるとぼけた声に振り向き、無郎は自分の目を疑った。
消し炭の中にでも飛び込んだような真っ黒な顔と、これからコントでもするのかと思えるような蓬髪のソレは、確かに死んだと思われた荒木なのである。
「あ、荒木さん!」
驚きのあまり、無郎は荒木に抱きついていた。
「どうしたの? コネコちゃん。なに泣いてるのさ。タキオちゃんとオニイサンはどこ行ったの? どうしてお家が燃えてるのさ?」
「お兄さんが、お父さんを殺していたんです! お兄さんは荒木さんまでを殺そうとしたんです! 霧島さんは逃げたお兄さんを追って、あの屋敷の中に!」
「ええっ! タキオちゃん出てこないの!?」
「お兄さんを追って行ったままなんです。荒木さん! 霧島さんを助けて!」
「もちろん助けに行くよ。なんたってタキオちゃんは、僕の最愛のヒトだからね!」
言うが早いか、荒木は上着を脱ぐとそこにあったバケツの水に浸し、それから全身に水を被る。
「荒木さん、ボクは…」
「ココで待ってて。名探偵を信じて待ってなさいって。ネっ」
荒木は無郎に微笑んでから、燃え盛る屋敷の中に飛び込んだ。
「タキオちゃ~ん!」
当然だが、返事は無い。
ついでに言えば、燃え盛る屋敷の中は、建物が燃える音の他に、燃え尽きた梁や柱が壊れる音などもしている。
「迷子の迷子のタキオちゃ~ん! いるなら返事ぐらいしてよ~!」
屋敷は表裏がそっくりに造られているので、家の構造はこの数日を過ごした物と同じだが、いかんせんかなり壊れているために、覚えている配置はほぼ役に立たない。
荒木は、濡れた上着で炎を払うようにしながら、少し前に進んだ。
「この辺、階段だったと思うんだけどなぁ」
既に崩れ落ちた階段は、瓦礫の山となっている。
「あ、人見さん!」
見た事のあるせむしの背中を認め、荒木は駆け寄った。
「タキオちゃん知りませんかァ~? って、うわァ、もうお亡くなりになってるぅ…」
抱き起こした人見に既に息の無い事を確認した荒木は、人見を元の場所に戻した。
「タキオちゃ~ん。ボク怖くなってきちゃったから、早く見つかってよぉ~」
人見を跨ぎ越え、荒木は情けない声で呼びかけた。
事情が何であれ、死体に触れたという事実が、荒木の意気を消沈させたらしい。
「あーっ! タキオちゃん見ーっけ♡」
瓦礫の山に半分埋もれるような形で、うつ伏せに倒れている相棒を見つけ、荒木は喜々として駆け寄った。
「やだなぁ、もう。こんなに埋まっちゃってさぁ。掘じくり出すのが手間じゃんかぁ。タキオちゃん! タキオちゃんってば…」
瓦礫の山を足で乱暴に退けて、荒木は霧島を抱き起こし、頬をかなり強く叩いてみる。
「…う、ん」
「良かった、生きてる♡」
霧島の生を確認すると、荒木は霧島を抱えて立ち上がり、そのまま今来た道を走り出す。
屋敷は、それを待っていたかのように、炎を纏った柱や梁が荒木の頭上から落ちてきた。
「この程度の障害物で、名探偵の足は止まらないよ~! てか、ここで心中したら、タキオちゃんに魂を握りつぶされちゃうもんねっ!」
髭面の配管工さながらに走り、飛んで、荒木は見事に玄関から外へと飛び出した。
既に火の手は屋敷中に回り、天をも焦がす程の猛火に包まれている。
「霧島さん…」
無郎は祈るような気持ちで呟いた。
屋敷を包む炎は、かなり離れた場所に立っている無郎でさえも熱いと感じる程の熱気を放っている。
中にいる霧島達の安否を気遣い、無郎は不安をますます募らせた。
「お兄さん…、霧島さんを連れて行かないで下さい…」
少なくとも昨日まで…、いや、今朝までの有郎は、無郎が最大の信頼を置く兄だった。
だが、霧島から聞かされた恐ろしい研究の話や、先程の狂気に取り憑かれたような顔は、無郎の全く知らない有郎の姿だった。
元の兄に戻って欲しいと願っている反面、むしろ平素のあの姿こそが偽りで、有郎は言葉通り、無郎の存在を『大事な実験体』としか見ていなかったのかもしれない。
そう考えると、色々腑に落ちなかった部分に納得が出来てしまう。
微妙にソリが合わないにも関わらず、仕事の話は無郎の介入を絶対に許さなかった父と兄。
有郎は、むしろ無郎から全てを奪い去ってしまおうとしているのかもしれない。
「なにしてるの? コネコちゃん」
「えっ!?」
聞き覚えのあるとぼけた声に振り向き、無郎は自分の目を疑った。
消し炭の中にでも飛び込んだような真っ黒な顔と、これからコントでもするのかと思えるような蓬髪のソレは、確かに死んだと思われた荒木なのである。
「あ、荒木さん!」
驚きのあまり、無郎は荒木に抱きついていた。
「どうしたの? コネコちゃん。なに泣いてるのさ。タキオちゃんとオニイサンはどこ行ったの? どうしてお家が燃えてるのさ?」
「お兄さんが、お父さんを殺していたんです! お兄さんは荒木さんまでを殺そうとしたんです! 霧島さんは逃げたお兄さんを追って、あの屋敷の中に!」
「ええっ! タキオちゃん出てこないの!?」
「お兄さんを追って行ったままなんです。荒木さん! 霧島さんを助けて!」
「もちろん助けに行くよ。なんたってタキオちゃんは、僕の最愛のヒトだからね!」
言うが早いか、荒木は上着を脱ぐとそこにあったバケツの水に浸し、それから全身に水を被る。
「荒木さん、ボクは…」
「ココで待ってて。名探偵を信じて待ってなさいって。ネっ」
荒木は無郎に微笑んでから、燃え盛る屋敷の中に飛び込んだ。
「タキオちゃ~ん!」
当然だが、返事は無い。
ついでに言えば、燃え盛る屋敷の中は、建物が燃える音の他に、燃え尽きた梁や柱が壊れる音などもしている。
「迷子の迷子のタキオちゃ~ん! いるなら返事ぐらいしてよ~!」
屋敷は表裏がそっくりに造られているので、家の構造はこの数日を過ごした物と同じだが、いかんせんかなり壊れているために、覚えている配置はほぼ役に立たない。
荒木は、濡れた上着で炎を払うようにしながら、少し前に進んだ。
「この辺、階段だったと思うんだけどなぁ」
既に崩れ落ちた階段は、瓦礫の山となっている。
「あ、人見さん!」
見た事のあるせむしの背中を認め、荒木は駆け寄った。
「タキオちゃん知りませんかァ~? って、うわァ、もうお亡くなりになってるぅ…」
抱き起こした人見に既に息の無い事を確認した荒木は、人見を元の場所に戻した。
「タキオちゃ~ん。ボク怖くなってきちゃったから、早く見つかってよぉ~」
人見を跨ぎ越え、荒木は情けない声で呼びかけた。
事情が何であれ、死体に触れたという事実が、荒木の意気を消沈させたらしい。
「あーっ! タキオちゃん見ーっけ♡」
瓦礫の山に半分埋もれるような形で、うつ伏せに倒れている相棒を見つけ、荒木は喜々として駆け寄った。
「やだなぁ、もう。こんなに埋まっちゃってさぁ。掘じくり出すのが手間じゃんかぁ。タキオちゃん! タキオちゃんってば…」
瓦礫の山を足で乱暴に退けて、荒木は霧島を抱き起こし、頬をかなり強く叩いてみる。
「…う、ん」
「良かった、生きてる♡」
霧島の生を確認すると、荒木は霧島を抱えて立ち上がり、そのまま今来た道を走り出す。
屋敷は、それを待っていたかのように、炎を纏った柱や梁が荒木の頭上から落ちてきた。
「この程度の障害物で、名探偵の足は止まらないよ~! てか、ここで心中したら、タキオちゃんに魂を握りつぶされちゃうもんねっ!」
髭面の配管工さながらに走り、飛んで、荒木は見事に玄関から外へと飛び出した。
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