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事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
28.退屈は霧島をも殺す
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「僕達は、どう動いたらいいんでしょう?」
無郎は、気持ちばかりが焦っている様子で、そわそわしている。
「どっちにしろ、一度屋敷に戻るべき…だろうな」
「えっ? でもそれじゃあ荒木さんが…」
「坊っちゃんは先刻から、荒木が困ってるって言ってるが、正直アイツが困るコトなんて、アリエナイよ」
「霧島さんは、あの怪物達を見てないから、そんな事が言えるんですっ! すごい数なんですよっ!」
「だが、そこらで誰かが争ってるような、音も声も聴こえないだろ? ってコトは、猪突猛進しか知らないラグビーバカが、珍しく引いた…ってコトさ」
「それは、僕を庇うために、囮になってくれたからでは?」
「まぁ、最初はな。だが大人数を相手にした大立ち回りなんて、ここいらじゃ屋敷の傍ぐらいしか、場所は無いだろ? だけど屋敷の傍でそんな騒ぎが起きてたら、この場所なら聴こえておかしくない。つまり、荒木はその怪物達と対戦してないってコトになるのさ」
順を追って説明されると、無郎はなるほどと納得した。
「でも、まだ逃げ続けているとか…」
「それも無いな。アイツの逃げ足の速さは、尋常じゃない。並みの人間程度の速度なら、振り切るのは簡単なんだ。坊っちゃんの話と、俺が見た動く死体の様子から想像するに、あの怪物達に思考力は無いと思う。先回りだの、囲い込みだのって戦略は、思考しなきゃ出来ないだろ?」
「じゃあ、荒木さんは早々に逃げ延びている…と考えているんですね。でも、それならなぜ、戻ってこないのでしょう?」
「アレはバカだが、思考はしてる。大量の怪物を一人で退治する方法…なんてくだらないコトを、考えてるのかもな」
流石に霧島は、伊達にバディを組んでいない。
荒木の行動パターンを、ある程度は先読みしていた。
「屋敷に戻ったら、荒木さんと合流出来るでしょうか?」
「荒木は屋敷から怪物が出てきたコトは知らんだろうが、今のトコロ戻る場所はそこしかないからな」
「待ってください。それじゃあ霧島さんは、あの怪物達が屋敷に閉じ込められていたって考えているんですか?」
「考え…じゃない。事実さ」
「まさかっ!?」
「坊っちゃんの親父サンの研究は、無機物から有機物を造る…古典的な表現をするなら "錬金術" ってヤツだぁな。水神氏が寄越した資料を読んだ時には、意味がサッパリ解らなかったが、現ブツをこの目で見て、ようやく解った」
「錬金術…?」
「石っころを金塊に変え、デク人形に生命を吹き込み、死体を生き返らせる。それが錬金術さ」
霧島の説明に、無郎は少し怯えたような様子になり、微かに震えているように見えた。
思わず、霧島は視線を逸らし、無郎を視界から外す。
可能性の一つではあるが、しかしほぼ確実に、無郎はその "錬金術" の賜物として誕生した生命体だろうと思ったからだ。
その技術に恐怖し、嫌悪している様子の者に、オマエはそれによって生み出されたのだと告げる勇気は、霧島には無かった。
「…坊ちゃんの親父さんの研究室に行けば、それに関する資料も見つかるだろう。そうすれば親父さんの行き先も解るかもしれない…」
「それなら家に戻りましょう!」
無郎は強く頷いた。
そんな無郎を見て、霧島は心が痛んだ。
屋敷に戻るとはすなわち、有郎と対峙しなければならないということである。
そうなれば、無郎は兄と探偵の間で苦しむだろう。
霧島が心を痛めている理由はそれだけではない。
父親の研究に傾倒している有郎にとって、無郎はかけがえの無い存在だろう。
それはつまり、今の霧島は有郎に対して絶対の "人質" を持っている事になる。
だがそう考えながらも、霧島の思考の中に "逃げる" の選択肢は無かった。
ここに至るまでに知り得た情報と、この先にあるであろう情報が、霧島の抱いている疑念への答えにたどり着くキーになる。
その多大なる好奇心を前にして、退屈に殺される探偵が、逃げ出すはずもなかったからだ。
無郎は、気持ちばかりが焦っている様子で、そわそわしている。
「どっちにしろ、一度屋敷に戻るべき…だろうな」
「えっ? でもそれじゃあ荒木さんが…」
「坊っちゃんは先刻から、荒木が困ってるって言ってるが、正直アイツが困るコトなんて、アリエナイよ」
「霧島さんは、あの怪物達を見てないから、そんな事が言えるんですっ! すごい数なんですよっ!」
「だが、そこらで誰かが争ってるような、音も声も聴こえないだろ? ってコトは、猪突猛進しか知らないラグビーバカが、珍しく引いた…ってコトさ」
「それは、僕を庇うために、囮になってくれたからでは?」
「まぁ、最初はな。だが大人数を相手にした大立ち回りなんて、ここいらじゃ屋敷の傍ぐらいしか、場所は無いだろ? だけど屋敷の傍でそんな騒ぎが起きてたら、この場所なら聴こえておかしくない。つまり、荒木はその怪物達と対戦してないってコトになるのさ」
順を追って説明されると、無郎はなるほどと納得した。
「でも、まだ逃げ続けているとか…」
「それも無いな。アイツの逃げ足の速さは、尋常じゃない。並みの人間程度の速度なら、振り切るのは簡単なんだ。坊っちゃんの話と、俺が見た動く死体の様子から想像するに、あの怪物達に思考力は無いと思う。先回りだの、囲い込みだのって戦略は、思考しなきゃ出来ないだろ?」
「じゃあ、荒木さんは早々に逃げ延びている…と考えているんですね。でも、それならなぜ、戻ってこないのでしょう?」
「アレはバカだが、思考はしてる。大量の怪物を一人で退治する方法…なんてくだらないコトを、考えてるのかもな」
流石に霧島は、伊達にバディを組んでいない。
荒木の行動パターンを、ある程度は先読みしていた。
「屋敷に戻ったら、荒木さんと合流出来るでしょうか?」
「荒木は屋敷から怪物が出てきたコトは知らんだろうが、今のトコロ戻る場所はそこしかないからな」
「待ってください。それじゃあ霧島さんは、あの怪物達が屋敷に閉じ込められていたって考えているんですか?」
「考え…じゃない。事実さ」
「まさかっ!?」
「坊っちゃんの親父サンの研究は、無機物から有機物を造る…古典的な表現をするなら "錬金術" ってヤツだぁな。水神氏が寄越した資料を読んだ時には、意味がサッパリ解らなかったが、現ブツをこの目で見て、ようやく解った」
「錬金術…?」
「石っころを金塊に変え、デク人形に生命を吹き込み、死体を生き返らせる。それが錬金術さ」
霧島の説明に、無郎は少し怯えたような様子になり、微かに震えているように見えた。
思わず、霧島は視線を逸らし、無郎を視界から外す。
可能性の一つではあるが、しかしほぼ確実に、無郎はその "錬金術" の賜物として誕生した生命体だろうと思ったからだ。
その技術に恐怖し、嫌悪している様子の者に、オマエはそれによって生み出されたのだと告げる勇気は、霧島には無かった。
「…坊ちゃんの親父さんの研究室に行けば、それに関する資料も見つかるだろう。そうすれば親父さんの行き先も解るかもしれない…」
「それなら家に戻りましょう!」
無郎は強く頷いた。
そんな無郎を見て、霧島は心が痛んだ。
屋敷に戻るとはすなわち、有郎と対峙しなければならないということである。
そうなれば、無郎は兄と探偵の間で苦しむだろう。
霧島が心を痛めている理由はそれだけではない。
父親の研究に傾倒している有郎にとって、無郎はかけがえの無い存在だろう。
それはつまり、今の霧島は有郎に対して絶対の "人質" を持っている事になる。
だがそう考えながらも、霧島の思考の中に "逃げる" の選択肢は無かった。
ここに至るまでに知り得た情報と、この先にあるであろう情報が、霧島の抱いている疑念への答えにたどり着くキーになる。
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