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事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
27.マッド・サイエンティストも裸足で逃げる
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有郎に案内されたガレージの前に立ち、荒木は感嘆の声をあげた。
「うわ~! デッカイなぁ」
駐車場は、車十台分のスペースがあった。
全体の造りは、まるで屋敷に合わせた厩のようにも見えるが、車庫らしく跳ね上げ式の扉が五枚付いており、一枚だけ開いていて奥にチェロキーが見える。
「ふぅん…このお屋敷って、裏から見ても同じカッコなんだねぇ」
しみじみとした口調で言ってはいるが、その事を深くは考えていない荒木だった。
少しでも考えていれば、霧島が言っていた "もう一つの洋館" の可能性を疑ったかもしれない。
「奥にガソリンタンクがありますから、使いましょう」
「そーいうチカラ仕事は、僕がやっちゃうよっ! でもこの程度の板の厚みだったら、ちょっと力入れて蹴っ飛ばせば、逃げられちゃうんじゃないの?」
「荒木さん、死体が思考すると思いますか? 逃げるという発想は、生存本能からくる恐怖と、そこから逃れるための創意工夫から導き出される結論でしょう?」
「なるほど、なるほど。あ、中に薪があるね! アレを外側に運び出して、残りの扉を開きにくくしておこうか。あんなアブナイ連中、さっさと準備してさっさと片付けちゃわないとね。迷子のタキオちゃんや逃げてるコネコちゃんに、ゾンビさん達がちょっかいを出す前に…」
「逃げている?」
突然有郎は、荒木の腕をつかんで無理に振り向かせた。
「どーしたのオ二ーサン?」
「無郎は逃げているだけなんですか?」
問いつめるように迫る有郎の表情は、異様なまでの逼迫感があり、さすがの荒木も驚いてたじろぐ。
「だ、だって、ゾンビさん達は思いの外素早かったし、いくらボクが無敵でも、コネコちゃんはフツーのカワイコちゃんじゃん。木の上に避難させて、ゾンビさん達は僕が引き付けるのが精一杯だったんだよ」
「引き付けた後、あなたはどうしたんです!?」
有郎は、ほとんどつかみ掛からんばかりの勢いで、荒木に迫る。
「そりゃ、あの数を相手には出来ないから、まいてきた…って言ったじゃん」
荒木の答えを聞いた有郎の顔は、見る見るうちに蒼白に変わっていった。
「ゆっくり燻してる場合じゃない。早急に奴等をまとめて処分してしまわねば…。ああ、そうだ! 確か研究室に以前教授の使っていたダイナマイトがあったはずだ。あれを使えば一瞬のうちに全部を始末できる」
あまりにも今までと態度を変えた有郎に、荒木も少々呆れ顔である。
「あのさ、オ二ーサン」
「何をしているんです。さぁこっちにきて一緒にダイナマイトを運ぶのを手伝ってください。そうだ導火線とスイッチが必要だが、どこにしまってあったか…」
有郎は荒木の腕をつかんだまま、どんどん屋敷に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっとオニイサン。痛い痛い」
「あ、ああ。そうでしたね」
荒木に悲鳴を上げられて、有郎はようやく我に帰った様子で手を放した。
「まァ~ったくゥ。オニイサンときたらコネコちゃんの事となると別人だねェ」
荒木の腕を放した後も歩みを止めない有郎の後を追い、荒木はニヤニヤとした笑いを浮かべて見せる。
「そんなつもりは少しもありませんが、無郎は世間知らずですから。気づかないうちに過保護になっているのかもしれませんね」
冷めた笑みを浮かべ、有郎は答える。
「いーね、いーねェ。コネコちゃんの愛らしー笑顔も良いけど、やっぱオニイサンの笑みは大人だね。謎めいててしびれちゃうなァ」
「はあ?」
荒木の反応に、さすがの有郎も何かフツウではないモノを感じ、怪訝な顔をした。
「いつもはクールビューティーなのに、コネコちゃんの事となると別人みたいに熱血しちゃうんだもん。先刻の『奴等をまとめて処分してしまわねば』って台詞もカッコ良いよね。聞きようによっては、ゾンビさん達とお知り合いみたいだったケド。あっ、もしかしてオニイサン造ったンじゃないのォ? ゾンビさんをさァ」
「何を言っているんです、馬鹿馬鹿しい。そんなに簡単に、神の領域に踏みこめるのならば、苦労はありませんよ」
「それもそーかァ。アハハハハ」
荒木の笑いに、有郎の空々しい笑い声が交じり廊下にこだまする。
しかし有郎は心中穏やかでなかった。
有郎にとって荒木という存在は、霧島的な言い方をすれば『ナメて』いた相手である。
まさかその荒木が、冗談とは言え生きた死体達の存在と自分を結び合わせて考えるとは思ってもみなかったのだ。
「さあ、この箱を持って下さい。重いですし、中身はダイナマイトですから気をつけて下さいね。私は起爆用のスイッチと導火線を運びますから。ああそれと、この道具箱を持っていきましょう。扉を念の為、釘付けしておいた方が良い」
「道具箱もボクが持つよ。スリムなオニイサンに重い荷物は似合わないからね」
「大丈夫ですか?」
「まっかせっなさ~い。言ったでしょ、ボクは無敵の荒木クンだって。ダイナマイトが爆発したって、アフロヘアーになるだけよ。ボクが壊れるなんてコト、ありっこ無いんだからね。さ、早く戻って準備準備」
大きなリンゴの箱程もあるダイナマイトの箱を軽々と持ち上げ、その上にペンチや金槌の入った道具箱まで抱えて、荒木はスタスタと歩いて行く。持たせてしまった有郎の方が、逆にハラハラと後をついていく始末である。
「でもさァ、ゾンビさんがお肉が好きって言ってたけど、そんなら生きの良い僕らが脇っちょに居たら、そっちに寄って来るんじゃないの?」
「それなら、血を撒きましょう。父が血液のサンプルを保管していますから、匂いに釣られてそちらに向かいますよ」
「おおっ♡ さっすがオニイサン! あったまイイ~♡ ねえねえ、オニイサン。東京出てきて、ボクの探偵助手にならない?」
「私は父の研究を手伝わなければなりませんからね。東京なんてとても…。それにね、あまり都会には興味が無いんですよ。父の研究の方が、よほど面白い」
冗談半分の軽口をたたく荒木に、つい本音が漏れる。
「そーゆーモンかなァ? ボクの実家は新潟の方だけど、小さい頃から東京は憧れたよ。やっぱ便利だし、面白いし、田舎には時々帰るけど、住みたくは無いなァ」
「そうですか? 神の造りたもうた芸術とも言うべき、人類のまだ見ぬ未知の世界を垣間見ようとしていれば、退屈など感じてる暇はありませんよ」
一瞬ではあるが、有郎の瞳が生き生きと輝く。
送電線の神経をもつ荒木は気付かなかったが、その輝きは、狂気すら帯びていた。
「カッコ良いコト言うねェ。でもさ、一応大学は卒業してるけど、タキオちゃんみたく真面目に講義に出ていた訳じゃないボクなんかに言わせてもらうと、オニイサンのやってる研究って、さっぱり解らないンだよなァ」
「ハハハ、それはそうでしょうね。さて、ダイナマイトが置いてあった部屋の奥に、大きな冷蔵庫があるんです。そこに血液のサンプルがあるので、取ってきていただけますか? その間に、私はダイナマイトを設置してしまいますから」
「ま~かして」
持っていたダイナマイトの箱をそっと地面に下ろすと、荒木は疲れた様子も無く屋敷にとって返した。
「うわ~! デッカイなぁ」
駐車場は、車十台分のスペースがあった。
全体の造りは、まるで屋敷に合わせた厩のようにも見えるが、車庫らしく跳ね上げ式の扉が五枚付いており、一枚だけ開いていて奥にチェロキーが見える。
「ふぅん…このお屋敷って、裏から見ても同じカッコなんだねぇ」
しみじみとした口調で言ってはいるが、その事を深くは考えていない荒木だった。
少しでも考えていれば、霧島が言っていた "もう一つの洋館" の可能性を疑ったかもしれない。
「奥にガソリンタンクがありますから、使いましょう」
「そーいうチカラ仕事は、僕がやっちゃうよっ! でもこの程度の板の厚みだったら、ちょっと力入れて蹴っ飛ばせば、逃げられちゃうんじゃないの?」
「荒木さん、死体が思考すると思いますか? 逃げるという発想は、生存本能からくる恐怖と、そこから逃れるための創意工夫から導き出される結論でしょう?」
「なるほど、なるほど。あ、中に薪があるね! アレを外側に運び出して、残りの扉を開きにくくしておこうか。あんなアブナイ連中、さっさと準備してさっさと片付けちゃわないとね。迷子のタキオちゃんや逃げてるコネコちゃんに、ゾンビさん達がちょっかいを出す前に…」
「逃げている?」
突然有郎は、荒木の腕をつかんで無理に振り向かせた。
「どーしたのオ二ーサン?」
「無郎は逃げているだけなんですか?」
問いつめるように迫る有郎の表情は、異様なまでの逼迫感があり、さすがの荒木も驚いてたじろぐ。
「だ、だって、ゾンビさん達は思いの外素早かったし、いくらボクが無敵でも、コネコちゃんはフツーのカワイコちゃんじゃん。木の上に避難させて、ゾンビさん達は僕が引き付けるのが精一杯だったんだよ」
「引き付けた後、あなたはどうしたんです!?」
有郎は、ほとんどつかみ掛からんばかりの勢いで、荒木に迫る。
「そりゃ、あの数を相手には出来ないから、まいてきた…って言ったじゃん」
荒木の答えを聞いた有郎の顔は、見る見るうちに蒼白に変わっていった。
「ゆっくり燻してる場合じゃない。早急に奴等をまとめて処分してしまわねば…。ああ、そうだ! 確か研究室に以前教授の使っていたダイナマイトがあったはずだ。あれを使えば一瞬のうちに全部を始末できる」
あまりにも今までと態度を変えた有郎に、荒木も少々呆れ顔である。
「あのさ、オ二ーサン」
「何をしているんです。さぁこっちにきて一緒にダイナマイトを運ぶのを手伝ってください。そうだ導火線とスイッチが必要だが、どこにしまってあったか…」
有郎は荒木の腕をつかんだまま、どんどん屋敷に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっとオニイサン。痛い痛い」
「あ、ああ。そうでしたね」
荒木に悲鳴を上げられて、有郎はようやく我に帰った様子で手を放した。
「まァ~ったくゥ。オニイサンときたらコネコちゃんの事となると別人だねェ」
荒木の腕を放した後も歩みを止めない有郎の後を追い、荒木はニヤニヤとした笑いを浮かべて見せる。
「そんなつもりは少しもありませんが、無郎は世間知らずですから。気づかないうちに過保護になっているのかもしれませんね」
冷めた笑みを浮かべ、有郎は答える。
「いーね、いーねェ。コネコちゃんの愛らしー笑顔も良いけど、やっぱオニイサンの笑みは大人だね。謎めいててしびれちゃうなァ」
「はあ?」
荒木の反応に、さすがの有郎も何かフツウではないモノを感じ、怪訝な顔をした。
「いつもはクールビューティーなのに、コネコちゃんの事となると別人みたいに熱血しちゃうんだもん。先刻の『奴等をまとめて処分してしまわねば』って台詞もカッコ良いよね。聞きようによっては、ゾンビさん達とお知り合いみたいだったケド。あっ、もしかしてオニイサン造ったンじゃないのォ? ゾンビさんをさァ」
「何を言っているんです、馬鹿馬鹿しい。そんなに簡単に、神の領域に踏みこめるのならば、苦労はありませんよ」
「それもそーかァ。アハハハハ」
荒木の笑いに、有郎の空々しい笑い声が交じり廊下にこだまする。
しかし有郎は心中穏やかでなかった。
有郎にとって荒木という存在は、霧島的な言い方をすれば『ナメて』いた相手である。
まさかその荒木が、冗談とは言え生きた死体達の存在と自分を結び合わせて考えるとは思ってもみなかったのだ。
「さあ、この箱を持って下さい。重いですし、中身はダイナマイトですから気をつけて下さいね。私は起爆用のスイッチと導火線を運びますから。ああそれと、この道具箱を持っていきましょう。扉を念の為、釘付けしておいた方が良い」
「道具箱もボクが持つよ。スリムなオニイサンに重い荷物は似合わないからね」
「大丈夫ですか?」
「まっかせっなさ~い。言ったでしょ、ボクは無敵の荒木クンだって。ダイナマイトが爆発したって、アフロヘアーになるだけよ。ボクが壊れるなんてコト、ありっこ無いんだからね。さ、早く戻って準備準備」
大きなリンゴの箱程もあるダイナマイトの箱を軽々と持ち上げ、その上にペンチや金槌の入った道具箱まで抱えて、荒木はスタスタと歩いて行く。持たせてしまった有郎の方が、逆にハラハラと後をついていく始末である。
「でもさァ、ゾンビさんがお肉が好きって言ってたけど、そんなら生きの良い僕らが脇っちょに居たら、そっちに寄って来るんじゃないの?」
「それなら、血を撒きましょう。父が血液のサンプルを保管していますから、匂いに釣られてそちらに向かいますよ」
「おおっ♡ さっすがオニイサン! あったまイイ~♡ ねえねえ、オニイサン。東京出てきて、ボクの探偵助手にならない?」
「私は父の研究を手伝わなければなりませんからね。東京なんてとても…。それにね、あまり都会には興味が無いんですよ。父の研究の方が、よほど面白い」
冗談半分の軽口をたたく荒木に、つい本音が漏れる。
「そーゆーモンかなァ? ボクの実家は新潟の方だけど、小さい頃から東京は憧れたよ。やっぱ便利だし、面白いし、田舎には時々帰るけど、住みたくは無いなァ」
「そうですか? 神の造りたもうた芸術とも言うべき、人類のまだ見ぬ未知の世界を垣間見ようとしていれば、退屈など感じてる暇はありませんよ」
一瞬ではあるが、有郎の瞳が生き生きと輝く。
送電線の神経をもつ荒木は気付かなかったが、その輝きは、狂気すら帯びていた。
「カッコ良いコト言うねェ。でもさ、一応大学は卒業してるけど、タキオちゃんみたく真面目に講義に出ていた訳じゃないボクなんかに言わせてもらうと、オニイサンのやってる研究って、さっぱり解らないンだよなァ」
「ハハハ、それはそうでしょうね。さて、ダイナマイトが置いてあった部屋の奥に、大きな冷蔵庫があるんです。そこに血液のサンプルがあるので、取ってきていただけますか? その間に、私はダイナマイトを設置してしまいますから」
「ま~かして」
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