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事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
25.己の尾を追う獣のように
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屋敷から逃れた霧島は、とにかく森の中へと進んだが、いくらもいかないところで再び倒れ、しばし気を失っていた。
命の危険を感じて、薬物に汚染された意識のままになんとか逃亡はしたが、屋外に逃れて道から逸れて、木々の間に身を隠した事で緊張の糸が切れたのだ。
ために霧島は、屋敷から生きた死体達が出てきたところを目撃する事も無く、また泥のように眠っていたために、彼らに気付かれる事も無く、運良く彼らをやりすごしたのだ。
意識を取り戻したのは、彼らのうめき声と足音が通り過ぎた後だった。
頭はフラフラするものの、屋敷から逃れた時ほどには霞んでいない。
それが証拠に、全身の打撲の痛みが酷いと感じていた。
起き上がり、自分のGパンの裾が裂けている事に気付き、更に裂傷を負っている事にも気付く。
ポケットを探ると、無郎に貸したハンカチが、返された形で入っていたのでそれを広げ、裾と裂傷を覆って縛った。
昨晩同様、場所が解らない。
更に昨晩と違って、七つ道具も持っていない。
どうしたものかと思案に暮れかけた霧島の耳に、異様な叫びのような音が聞こえた。
足元は未だしっかりしておらず、木の根に足を取られまくったものの、霧島はその音の方向へと進んだ。
「霧島さんっ!」
頭の上から声がして、立ち止まった霧島が見上げると、木の上から無郎が降りてきた。
「坊っちゃん? どうした?」
「僕達、霧島さんが戻っていらっしゃらないものだから、捜しに出たんです。そうしたら、何か恐ろしい物が走ってきて、荒木さんは僕を庇ってそれを引き付ける囮になって行ったんです。僕は荒木さんに言われて、木の上に避難していたんです。霧島さん! 荒木さんを助けてください。荒木さんがどんなに強くても、相手はいっぱいいたんです。やられちゃいます!」
先程の生きた死体達を思い出し、恐怖に怯えた無郎は霧島にしがみついた。
「恐ろしい物って、何だよ」
「何って、良く解りません。…多分人間だろうと思うんですけど、体や顔がぐにゃぐにゃに崩れていて、髪の毛も変な形に抜け落ちたりしてて、…あれが本当に人間なのかどうか、自信無いです」
「体や顔がぐにゃぐにゃ…?」
霧島はその言葉に覚えがあった。聞き覚えではない。
ごく最近、見たような…。
「ああっ!」
瞬間、頭に閃いた。
朦朧とした意識の中で見た、あの洋館。
崩れかけた体を持つ生きた死体。
教授の "作品" と思われる使用人。
霧島の持っているいくつかのヒント達が、今まで以上にはっきりと答えに向かって浮き上がってくる。
「無郎クン! 君、この先に何があるか知ってるかい!?」
思わず無郎の肩をつかみ、大きく揺さぶるようにして霧島は尋ねた。
「ええっ? この先って、霧島さんの後ろですか?」
「ああ、そうだ。この先に何がある?」
「僕達の家がありますけど…」
「僕達の家って、高見沢邸かっ!?」
「そうです」
「いや…だが……、俺が出てきた屋敷は廊下が腐っていたし、建物も廃墟みたいに崩れていたはずなんだが…」
「それは、裏です」
「裏? じゃああの屋敷は、左右対称なだけじゃなくて、表裏も反転…と言うか、同じなのか?」
「はい、そうです」
「もしかして、屋敷内で表と裏は繋がってないのか?」
「いえ、繋がっていない訳じゃありませんけど、全部施錠されています。お父さんは時々、とても危険な実験をするのだと仰っていて、子供の僕達が過って研究室に来ては危ないからと、屋敷を表と裏に分けたんです」
「なんてこったい…」
霧島は、己に呆れたような気持ちで溜息を吐いた。
自分は必死になって、自分が寝泊まりしている建物を探していたのだ。
「霧島さん、どういう事なのか、僕にも説明してください」
「説明つっても、俺にも良くはワカラン。だが、今は謎解きよりも荒木だ」
「そうですね……、無事だと良いのですが」
「そうだな」
心配をする無郎に同意するような返事をしたが、しかし内心、荒木が困る事などこの世にありえないだろうな…と、霧島は考えていた。
命の危険を感じて、薬物に汚染された意識のままになんとか逃亡はしたが、屋外に逃れて道から逸れて、木々の間に身を隠した事で緊張の糸が切れたのだ。
ために霧島は、屋敷から生きた死体達が出てきたところを目撃する事も無く、また泥のように眠っていたために、彼らに気付かれる事も無く、運良く彼らをやりすごしたのだ。
意識を取り戻したのは、彼らのうめき声と足音が通り過ぎた後だった。
頭はフラフラするものの、屋敷から逃れた時ほどには霞んでいない。
それが証拠に、全身の打撲の痛みが酷いと感じていた。
起き上がり、自分のGパンの裾が裂けている事に気付き、更に裂傷を負っている事にも気付く。
ポケットを探ると、無郎に貸したハンカチが、返された形で入っていたのでそれを広げ、裾と裂傷を覆って縛った。
昨晩同様、場所が解らない。
更に昨晩と違って、七つ道具も持っていない。
どうしたものかと思案に暮れかけた霧島の耳に、異様な叫びのような音が聞こえた。
足元は未だしっかりしておらず、木の根に足を取られまくったものの、霧島はその音の方向へと進んだ。
「霧島さんっ!」
頭の上から声がして、立ち止まった霧島が見上げると、木の上から無郎が降りてきた。
「坊っちゃん? どうした?」
「僕達、霧島さんが戻っていらっしゃらないものだから、捜しに出たんです。そうしたら、何か恐ろしい物が走ってきて、荒木さんは僕を庇ってそれを引き付ける囮になって行ったんです。僕は荒木さんに言われて、木の上に避難していたんです。霧島さん! 荒木さんを助けてください。荒木さんがどんなに強くても、相手はいっぱいいたんです。やられちゃいます!」
先程の生きた死体達を思い出し、恐怖に怯えた無郎は霧島にしがみついた。
「恐ろしい物って、何だよ」
「何って、良く解りません。…多分人間だろうと思うんですけど、体や顔がぐにゃぐにゃに崩れていて、髪の毛も変な形に抜け落ちたりしてて、…あれが本当に人間なのかどうか、自信無いです」
「体や顔がぐにゃぐにゃ…?」
霧島はその言葉に覚えがあった。聞き覚えではない。
ごく最近、見たような…。
「ああっ!」
瞬間、頭に閃いた。
朦朧とした意識の中で見た、あの洋館。
崩れかけた体を持つ生きた死体。
教授の "作品" と思われる使用人。
霧島の持っているいくつかのヒント達が、今まで以上にはっきりと答えに向かって浮き上がってくる。
「無郎クン! 君、この先に何があるか知ってるかい!?」
思わず無郎の肩をつかみ、大きく揺さぶるようにして霧島は尋ねた。
「ええっ? この先って、霧島さんの後ろですか?」
「ああ、そうだ。この先に何がある?」
「僕達の家がありますけど…」
「僕達の家って、高見沢邸かっ!?」
「そうです」
「いや…だが……、俺が出てきた屋敷は廊下が腐っていたし、建物も廃墟みたいに崩れていたはずなんだが…」
「それは、裏です」
「裏? じゃああの屋敷は、左右対称なだけじゃなくて、表裏も反転…と言うか、同じなのか?」
「はい、そうです」
「もしかして、屋敷内で表と裏は繋がってないのか?」
「いえ、繋がっていない訳じゃありませんけど、全部施錠されています。お父さんは時々、とても危険な実験をするのだと仰っていて、子供の僕達が過って研究室に来ては危ないからと、屋敷を表と裏に分けたんです」
「なんてこったい…」
霧島は、己に呆れたような気持ちで溜息を吐いた。
自分は必死になって、自分が寝泊まりしている建物を探していたのだ。
「霧島さん、どういう事なのか、僕にも説明してください」
「説明つっても、俺にも良くはワカラン。だが、今は謎解きよりも荒木だ」
「そうですね……、無事だと良いのですが」
「そうだな」
心配をする無郎に同意するような返事をしたが、しかし内心、荒木が困る事などこの世にありえないだろうな…と、霧島は考えていた。
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