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事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
24.鈍った意識には痛みが効く
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部屋に一人取り残されていた霧島は、ようやく少しだが思考を取り戻していた。
「…くっ…そぉ…」
薬の効果は、確かに即効性で現れたが、どうやら抜けるのも即効らしい。
ベッドにただ寝かされているだけで、拘束は無い。
この様子では、有郎は効果がすぐに抜ける事を知らないのだろう。
とは言え、完全に回復した訳では無い。
全身が気だるく、まるで鉛の拘束具でも着せられているようだし、手足の感覚も鈍い。
視野も狭く、屋内が暗く感じるのが実際の明るさの所為なのか、視力の所為なのかの判別もつかない。
当然、思考も平常のそれよりも遥かに鈍い。
ただ、このままこの場所に居るのはまずい…という事を理解しているだけだ。
それでもそれが理解出来ていれば、やるべき事も明らかで。
霧島は、重い体を引きずるようにして身を起こした。
だが、すぐにもバランスを崩し、スローモーションのような動きでベッドから床へと落ちる。
「…うう…」
体を打った痛みで、一瞬思考が閃きはしたが、それもすぐに霞みが掛かったような状態へと戻ってしまう。
ズルズルと手足を縮め、側にあった何かを掴み、体を起こそうと努力を続けた。
掴んだそれは、移動をしやすくするためのキャスターが付いており、力を加えると容易に動いてしまう。
埒が明かないと手放すと、動いた拍子に上に乗っていた物が落ちて、金属的な音を立てながら床に散らばった。
「ああ…、くそ…」
再び手を伸ばし、今度は今まで寝かされていたベッドのパイプを掴んだ。
なんとか体を起こし一歩を踏み出すが、やはり思うように力が入らず無様に転ぶ。
「……………」
逃げなければならない…と言う思考のみで動いているために、そのために立ち上がらなければという気持ちに囚われていて、霧島はそこでしばらく倒れては立ち上がる行為を繰り返した。
そのために何度か体を打ちつけ、その刺激で薬物の効果から抜け出していた…とも言える。
何度か転倒し、何かに縋って立ち上がり、ようやく部屋の扉にたどり着く。
幸いにして、有郎も人見も、扉を締める事に気が回らなかったらしく、遮るものは何もなかった。
しかし、視野も狭く視力にも問題が出ている霧島は、薄暗い廊下をほとんどなにも見えないに等しい状態で進まなければならない。
霧島は気付かなかったが、その廊下の床は所々が腐っていた。
通常の視力があれば、見るからに異変が生じている床を避ける事が出来たが、今の霧島は自分が思った通りに歩く事さえままならない。
当然、さほども進まないところで何度か床を踏み抜きかけた。
そしてとうとう、本当に床を踏み抜き、まるで落とし穴に片足が嵌ったような状態になって、転ぶ。
「…いてぇっ!」
手足が思うように動かない霧島は、踏み抜いた床の一部からかなりの勢いをつけて足を引き抜いたのだが、破れた床板の尖った部分でGパンを引き裂いてしまい、当然皮膚も傷付いた。
「…ああ、そっか…」
転倒時の鈍い打撃の痛みと違い、裂傷の痛みは連続的に鋭く脳に送り込まれてくる。
その強い痛みがむしろ、霧島に思考力を維持させる原動力となった。
「…這いずってきゃ、いいんだ…」
立ち上がって転倒を繰り返す事の無意味さに気付いた霧島は、そのまま這いつくばって廊下を進んだ。
廊下の行き当たりに階段がある。
霧島は、回らぬ頭でしばらく下を見つめていた。
「このままいったら、落ちる……よな?」
自分に言い聞かせるように声に出し、それから向きを変えて足を階段側に向けた。
ズルズルと足を階段に降ろし、それからにじるようにして膝、腿、腹と下がり、一息吐いてから胸を段差に降ろしたところで、自分の腕から先がじんわりと痺れていて、繊細なバランス維持など出来ない事に気付く。
が、気付いた時には階段を転げ落ちていた。
「下につく前に…、死ぬかもしれん…」
仰向けに床に転がった霧島は、天井を見上げてポツリと呟いた。
だが、後遺症が残るかもしれない薬物…以上に危なげな薬品を投与されたり、手足や内臓をバラバラにされる事を考えたら、階段落ちぐらいは大した事が無いような気もする。
そもそも件の薬物の所為か、全身をくまなく打ったと思うのに、脳が痛いと認識しているのは、裂傷だけだ。
再びうつ伏せに姿勢を戻し、顔を上げると外の景色が見える。
どうやら有郎と人見は、外への扉も開け放ったまま、この屋敷を飛び出していったようだ。
これ幸いと、霧島は屋外に逃れ出た。
もしこの時、霧島の思考が平常程度の冷静さを保っていたり、身体的に痺れなどの不調が無い状態であったならば、逃れ出た屋敷を振り返って見たかもしれない。
少なくとも、有郎が怪しげな研究に使っていた、昨晩見たあの "建物" だと認識する事が出来れば、この中に "生きた死体" がいる事も思い出せただろう。
しかし何の余裕も残っていなかった霧島は、扉を閉めずにそこから去った。
数十分後に、その扉から生きた死体達がゾロゾロと出てくる事も知らずに…。
「…くっ…そぉ…」
薬の効果は、確かに即効性で現れたが、どうやら抜けるのも即効らしい。
ベッドにただ寝かされているだけで、拘束は無い。
この様子では、有郎は効果がすぐに抜ける事を知らないのだろう。
とは言え、完全に回復した訳では無い。
全身が気だるく、まるで鉛の拘束具でも着せられているようだし、手足の感覚も鈍い。
視野も狭く、屋内が暗く感じるのが実際の明るさの所為なのか、視力の所為なのかの判別もつかない。
当然、思考も平常のそれよりも遥かに鈍い。
ただ、このままこの場所に居るのはまずい…という事を理解しているだけだ。
それでもそれが理解出来ていれば、やるべき事も明らかで。
霧島は、重い体を引きずるようにして身を起こした。
だが、すぐにもバランスを崩し、スローモーションのような動きでベッドから床へと落ちる。
「…うう…」
体を打った痛みで、一瞬思考が閃きはしたが、それもすぐに霞みが掛かったような状態へと戻ってしまう。
ズルズルと手足を縮め、側にあった何かを掴み、体を起こそうと努力を続けた。
掴んだそれは、移動をしやすくするためのキャスターが付いており、力を加えると容易に動いてしまう。
埒が明かないと手放すと、動いた拍子に上に乗っていた物が落ちて、金属的な音を立てながら床に散らばった。
「ああ…、くそ…」
再び手を伸ばし、今度は今まで寝かされていたベッドのパイプを掴んだ。
なんとか体を起こし一歩を踏み出すが、やはり思うように力が入らず無様に転ぶ。
「……………」
逃げなければならない…と言う思考のみで動いているために、そのために立ち上がらなければという気持ちに囚われていて、霧島はそこでしばらく倒れては立ち上がる行為を繰り返した。
そのために何度か体を打ちつけ、その刺激で薬物の効果から抜け出していた…とも言える。
何度か転倒し、何かに縋って立ち上がり、ようやく部屋の扉にたどり着く。
幸いにして、有郎も人見も、扉を締める事に気が回らなかったらしく、遮るものは何もなかった。
しかし、視野も狭く視力にも問題が出ている霧島は、薄暗い廊下をほとんどなにも見えないに等しい状態で進まなければならない。
霧島は気付かなかったが、その廊下の床は所々が腐っていた。
通常の視力があれば、見るからに異変が生じている床を避ける事が出来たが、今の霧島は自分が思った通りに歩く事さえままならない。
当然、さほども進まないところで何度か床を踏み抜きかけた。
そしてとうとう、本当に床を踏み抜き、まるで落とし穴に片足が嵌ったような状態になって、転ぶ。
「…いてぇっ!」
手足が思うように動かない霧島は、踏み抜いた床の一部からかなりの勢いをつけて足を引き抜いたのだが、破れた床板の尖った部分でGパンを引き裂いてしまい、当然皮膚も傷付いた。
「…ああ、そっか…」
転倒時の鈍い打撃の痛みと違い、裂傷の痛みは連続的に鋭く脳に送り込まれてくる。
その強い痛みがむしろ、霧島に思考力を維持させる原動力となった。
「…這いずってきゃ、いいんだ…」
立ち上がって転倒を繰り返す事の無意味さに気付いた霧島は、そのまま這いつくばって廊下を進んだ。
廊下の行き当たりに階段がある。
霧島は、回らぬ頭でしばらく下を見つめていた。
「このままいったら、落ちる……よな?」
自分に言い聞かせるように声に出し、それから向きを変えて足を階段側に向けた。
ズルズルと足を階段に降ろし、それからにじるようにして膝、腿、腹と下がり、一息吐いてから胸を段差に降ろしたところで、自分の腕から先がじんわりと痺れていて、繊細なバランス維持など出来ない事に気付く。
が、気付いた時には階段を転げ落ちていた。
「下につく前に…、死ぬかもしれん…」
仰向けに床に転がった霧島は、天井を見上げてポツリと呟いた。
だが、後遺症が残るかもしれない薬物…以上に危なげな薬品を投与されたり、手足や内臓をバラバラにされる事を考えたら、階段落ちぐらいは大した事が無いような気もする。
そもそも件の薬物の所為か、全身をくまなく打ったと思うのに、脳が痛いと認識しているのは、裂傷だけだ。
再びうつ伏せに姿勢を戻し、顔を上げると外の景色が見える。
どうやら有郎と人見は、外への扉も開け放ったまま、この屋敷を飛び出していったようだ。
これ幸いと、霧島は屋外に逃れ出た。
もしこの時、霧島の思考が平常程度の冷静さを保っていたり、身体的に痺れなどの不調が無い状態であったならば、逃れ出た屋敷を振り返って見たかもしれない。
少なくとも、有郎が怪しげな研究に使っていた、昨晩見たあの "建物" だと認識する事が出来れば、この中に "生きた死体" がいる事も思い出せただろう。
しかし何の余裕も残っていなかった霧島は、扉を閉めずにそこから去った。
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