荒木探偵事務所

RU

文字の大きさ
上 下
14 / 49
事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト

14.現実は思い通りにならないものだ

しおりを挟む
 街灯のような物が全く存在せず、館も寝静まって明かりの灯っている部屋は無い。
 今夜の月はかなり明るいが、それも木立の中に入るとあまり頼れなくなる。
 だが、この暗闇で懐中電灯を使ったら、それは此処に "部外者" がいる事を相手に教えるようなものだ。
 あまりがさがさと枝葉をかき分ける訳にもいかないが、それをしなければ前進も出来ない。
 目を凝らして、霧島はじわじわと先に進んだ。

「ああ、クソ。タバコ吸いてぇ……」

 苛立ちを紛らわせるための気晴らしは、懐中電灯と同じ理由で使う訳にはいかない。
 そもそも、こんな木立の中でタバコなど吸ったら、始末の仕方によっては森林火災を呼びかねない。
 霧島はウェストバックのポケットから、禁煙用のミントキャンディを取り出して、口に入れる。
 少し進むと、木立の向こうに建物が見えた。

「廃屋?」

 一瞬そう思ったが、考えてみたらあっちの西洋館だって見方によっては廃屋に見えなくもない。
 だが、ひと目見てそう感じた理由は、こちらの方がより惨状が酷いからだろう。
 窓ガラスが割れたりはしていないが、お義理のように下げてあるカーテンは半開きだったり、破れて垂れ下がっていたりする。

「さて、どうするかな…」

 順当に考えるなら、この建物の位置を把握して、明日になったら有郎を始めとする屋敷の面々に話を聞き、出来れば荒木と共に調査をするべきだろう。
 だが、そもそも此処を見つけたきっかけは、カンテラを持って歩く有郎らしき人物を見かけた事であったし、彼が霧島達に協力的だとは微塵も考えられない。
 聴き込みはするだけ無駄だろうし、有郎がこの場所で何をしているのかも気になる。
 結局、どんなに反省をしても、猫を殺す好奇心には勝てないのだ。
 建物に近付き、霧島は入り込める場所を探した。
 丁度良く、二階の窓へと伸びている枝を見つけ、暗闇の中で幹にしがみつき登る。

「くっそ、本格的に運動不足だな…」

 ガサガサと枝葉をかき分けて、窓に近付く。
 窓枠には出っ張りもあるので、枝から身を乗り出しても手掛かりや足掛かりには困らなそうだ。
 とりあえず枝に殆ど身を横たえるような姿勢で、出っ張りに手を掛け、体を更に窓に近付けて様子を見る。
 体を支えているのとは違う方の手を伸ばして、音を立てないようにそっと窓枠に触れてみたが、どうやら内側で施錠されているらしく、窓は動かなかった。
 屋内は当然暗闇だが、月明かりで窓まわりは見て取れる。
 他の窓と違って内側に厚手のカーテンが掛かっており、退色はしているけれど破れてはいない。
 ただきちんと閉められておらず、隙間があった。
 薄暗いその隙間に、あまり期待は出来ないか…と思いつつ、霧島は首を伸ばして隙間から室内を見ようと試みた。
 予想通り、中は良く見えない。
 だが、なんとなく "ナニカ" がいるような気配を感じて、霧島は更に身を乗り出した。

「っ!!!」

 その瞬間、霧島は驚きのあまり、声も出なかった。
 ただ、見た "モノ" があまりに衝撃的だったために、悲鳴は上げなかったが、枝からは落ちた。
 かなり強く背中を打ったが、窓の施錠が外される音に気付き、慌てて建物の壁に這い寄る。
 壁は全体に白っぽい造りだが、土台の部分は黒っぽい素材で出来ているし、建物の周りにはあまり手入れのされていない生け垣がある。
 本当は痛みのあまりに呻きたいほどだが、それを両手で無理矢理抑え、先程まで覗き込んでいた窓の方を伺ってみた。
 開いた窓からカンテラが差し出され、白っぽい顔が突き出されたように見えたが、この距離では顔の判別もつかない。
 チラチラと下を伺っているようにも見えたが、幸いにして顔はすぐに引っ込み、その後は特に変化も無い。
 やれやれと息をき、それでも数分、様子を伺ってみたが、やはりこれといった声も音もしなかった。
 そこで霧島はソロソロと、匍匐前進で移動する。
 屋敷の端まで行き、角を曲がって、霧島はもう一度確認するように顔を覗かせて、先程の窓の辺りを伺った。
 相変わらず、館はしんと静まり返っている。
 霧島は、あたふたとその場を逃げ出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

SERTS season 1

道等棟エヴリカ
キャラ文芸
「自分以外全員雌」……そんな生態の上位存在である『王』と、その従者である『僕』が、長期バカンスで婚活しつつメシを食う! 食文化を通して人の営みを学び、その心の機微を知り、「人外でないもの」への理解を深めてふたりが辿り着く先とは。そして『かわいくてつよいおよめさん』は見つかるのか? 近未来を舞台としたのんびりグルメ旅ジャーナルがここに発刊。中国編。 ⚠このシリーズはフィクションです。作中における地理や歴史観は、実在の国や地域、団体と一切関係はありません。 ⚠一部グロテスクな表現や性的な表現があります。(R/RG15程度) ⚠環境依存文字の入った料理名はカタカナ表記にしています。ご了承ください。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...