荒木探偵事務所

RU

文字の大きさ
上 下
10 / 49
事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト

10.テンプレートな不気味屋敷

しおりを挟む
 駐車場を出た車は、国道334号線を山の方へと向かった。
 道沿いには、ところどころに観光案内の店や、食事処の案内看板などがあるが、基本的には一般家屋の方が多い印象だ。

「見て見て、タキオちゃん! 熊の湯だって!」
「無料の天然温泉ですよ」

 はしゃぐ荒木に、有郎がそっけない返事をした。
 そこから少し行ったところで、車は側道に入る。

「へえ、こんな道でも車が入ってイイのかぁ!」

 荒木の言う通り、側道は舗装もされておらず、下手に喋ったら舌を噛みそうな揺れ具合になった。
 だが、有郎はその荒木の言葉に返事をせず、更に車を進める。
 どんなに酷くとも、それなりに轍の後が残っていた道を強引に進むと、目の前が急に開けた。
 と言っても、北海道らしい広々とした牧草地…と言う訳では無く、視界の先には道路の左右に見えていた森林がある。
 地面には轍が無くなり、ところどころに水が流れている。
 どうやらそこは道ではなく、川の合流地点のようだ。
 何本もの支流が集まっているような場所だが、浅瀬であるためジープ仕様のチェロキーならば問題なく走る。
 有郎は、わざと水流のある部分を選んで走っているらしく、水しぶきを上げながら車は進み、流れに逆らいながら細い支流の一つに突っ込んでいった。

「タキオちゃん、これってみち?」

 荒木がコソッと、耳打ちしてきた。
 霧島は、黙ったまま首を横に振る。

「だよねぇ…」

 呟くように、荒木が言った。
 その間も車は水しぶきを上げながらどんどんと進み、川がうねって先程の浅瀬がほとんど見えなくなったところで、川から上がって森に入った。
 上った岸の反対側は樹木がびっしりと生えていて、例えその向こう側に人が行き交う道があったとしても、全く見えないだろう。
 林道と言うよりは、むしろ登山道に近い、チェロキーの両脇を頻繁に伸びた枝や葉が叩くような狭さで、しかも上を樹木に覆われているので暗い。
 そのくねくねした傾斜の厳しい道を、有郎はかなりのスピードで車を走らせた。
 しばらく走ったところで、無郎が後ろ座席の二人に振り返った。

「あれが、僕達の家です」

 森の中に忽然と現れた屋敷は、B級ホラー映画にでも出てきそうな、古式ゆかしい建築様式をした西洋館であった。
 佇まいは、なんともいえない陰湿な印象がある。
 白い外壁は全体に灰色っぽく汚れ、屋根と窓枠は同じ緑色をしていたのだろうと思われるが、すっかり黒ずんでいた。
 表から見た感じは左右対称で、窓の様子から二階建てらしい。
 玄関前にはポーチがあり、車寄せのためのエントランスになっている。

「兄さん、お二人を客間に案内してもいいですか?」

 車は、エントランスの前に停められ、荒木と霧島が降りたところで、無郎が有郎に確認を取った。

「一番奥の部屋にな」

 有郎は指示を出すと、車を動かして屋敷の裏手に行ってしまう。

「遠慮しないで、あがってください」
「裏に、駐車場でもあるの?」
「別棟のガレージがあるんです」

 土地柄的に、冬場は雪が深くなるのだろう。
 となれば、車を野外に駐車する訳にもいかないのかもしれないな…と霧島は考えて、先に立って案内をする無郎の後に続いて屋敷に入った。
 B級ホラーな西洋館は、中もお約束通り古びていて陰気だが、豪華な造りだ。
 エントランスから玄関を潜り、中に入るとホールになっている。
 ホールの正面には階段があり、天井からはシャンデリアが下がっていて、壁際には大きな振り子時計が置かれていた。
 シャンデリアにろうそくが無かったので、どうやら内容的には文明的な生活が出来ているようだが、此処に至るまでの道程を考えると、自家発電だろうな…と霧島は思った。
 屋内は薄暗く、夏の屋外から入ってきた明暗の差に瞳孔が追いつかない。
 荒木ですら、室内の暗さにパチパチと瞬きをしているのに、無郎は屋内の配置を知っているからか、どんどん奥へと進んでいく。
 階段に至る手前で、左右に廊下が伸びていた。

「どうぞ、こちらへ」

 先を行く無郎は、階段を登り始める。
 階段は踊り場で折り返す形になっていたが、それもまた左右対称になっていて、無郎は右側へと進んだ。
 二階に上がると、下と同じく廊下が真っ直ぐに一本通っている。
 そこをまた、右へと進む無郎の後を追いながら、霧島はなんとなく振り返った。

「なぁ、坊っちゃん。あっちには何があるんだ?」

 廊下には常夜灯が付いているが、それもまた薄暗く、長い廊下の向こうを見通す事は出来なかった。

「お父さんが使っているので、僕は良く知りません。お兄さんに、お父さんの邪魔をしてはいけないから、あまり見て回ってはいけないと言われています」
「ふうん」
「この、階段の傍の部屋がお兄さんと僕の部屋です」
「ええ~、ひっろいお屋敷なのに、コネコちゃんの一人部屋じゃないんだ?」
「いえ、一応それぞれに部屋を与えて貰っているんですが、なんとなくいつも一緒にいますし、それに部屋も広いのでそういう形に落ち着いちゃったんです」

 廊下の一番奥まで進み、無郎は客室の扉を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

警視庁怪異対策室

浦井らく
キャラ文芸
警視庁には、怪異が起こしたであろうという事件を担当する、怪異対策室という特別な捜査部署がある。 そこに所属する、ベテランだが怪異から発せられる瘴気の耐性が極端に低い嘉内が、新入りだが居るだけで怪異を浄化することができる能力の持ち主である麻倉と共に、一般的には解決できない事件の捜査に奔走する。 カクヨム、小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...