イルン幻想譚

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ep.2:追われる少年

21.旅立ち【2】

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 そこで色々なことを思い返していたクロスが、急に焦ったように振り返る。

「じゃあもしかして、見たくもない変なモノが、これからは更に見えるようになっちゃったりすんのっ?!」
「えーと、なんだったっけ、見鬼眼フォルセティつったっけ?」

 首を傾げてタクトに問うたジェラートの言葉に、クロスは顔をしかめた。

「それ、なに?」
「貴様、やはり知らなんだのか。見鬼眼フォルセティをきちんと使いこなしておれば、そこの弟子に化けてた毒まんじゅうを、すぐにも看破出来ていたろうに」
「待って、待って、待って! マジ、待って! じゃあ俺が魔導士セイドラーだから、視えてるんじゃないの?」
「言っておくがの。貴様の知識は人間フォルクのかなり間違ったものに偏っておる。宴の食卓フリムニルと言ったかの? アレなぞがいい例じゃ。多分贄の食卓フューゼスクを再現しようとしたのだろうが、失われた術式を無理矢理つなげ合わせたんじゃろ」
「そうなのっ?」
贄の食卓フューゼスクは、相手の全てを奪い取る禁忌のじゅつじゃが。破片を集めて、得られるか得られまいかの博打のようなじゅつになったのだろうて」
「え…ええええ~」

 クロスは、いろいろな意味で脱力した声を上げた。
 自身が必死に調べ学んだ知識が、トンデモ偽学だと言われたのだ。
 ショックでないわけがない。

「その見鬼眼フォルセティにしても、そうじゃ。人間フォルクには珍しいとはいえ、それほど稀な特殊技能スキルでもない。今後は、ペテン師の幻像術ブリンディ程度、すぐにも見抜けるように精進するがよかろうよ」

 自分の長年の悩みを一言で流されて、クロスは愕然となった。
 タクトの姿が自分以外の、アルバーラにすら視えていなかったのは、そういう理由わけだったのか。
 とすると、カービンやルミギリスに抱いた苛立ちは、完全に八つ当たりだった。

「屋敷ごと研究を焼き払っておいて、この弟子達は元に戻して、どうするつもりなんだ?」

 マハトが足元の、四人の弟子を見遣る。

「別にどうもしない。クロスがこいつらのコト、すっげぇ心配してたから助けてやっただけだもん」
「こら小僧、それを一人でやり遂げたかのように、威張るんじゃない」

 タクトに物言いをされたジェラートは、タクトに背を向けて小さくあかんべをして見せる。

「しかし、それではまた、神耶族イルンに対して悪さをするんじゃないのか?」
「ん~、そっか。じゃ、俺の小微羽スキルニルでも……、うーん、それもめんどっちぃしなぁ」
「ああ、また古代語フォニルオロか? そのスキレットとかいうのはなんだ?」
小微羽スキルニルは、まあ神耶族イルン専用の使い魔スレイブ…みたいなモンだな。クロスの虫と同じで、相手を服従させられればなんでもオッケーだぜ」
人間リオンが虫扱いになるのか?」
「んー、そー言われると、こいつらが虫になったみてーで、更に気持ちわりーな」
「いや、そこじゃなくて…」
「これ以上の説明はめんどっちぃから、タクトにでも聞きなよ」
「このものぐさ小僧! なんでも端折るなと言っておろうがっ!」

 タクトに両頬を引っ張られて、ジェラートは逃れようとジタバタした。

「ひゃめろよー! 俺はもう小僧じゃねェってー!」
「見た目がどれほど大きくなろうと、頭がカボチャのままなら、中身は小僧で間違っとらんっ!」
「ジェムってば、あんなに大人になっても、やってるコト同じだなあ…」

 幻影のタクトと小さなジェラートの様子を思い出して、クロスが呟いた。

「あの二人、ずっとあんなことをしてたのか?」
「うん。まぁ、大体あんな感じだったよ」

 マハトは呆れ顔で二人を眺めた。
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