イルン幻想譚

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ep.2:追われる少年

20.万年生きるカメの秘密【1】

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「どう、なったんだ…?」

 ドラゴンの全てを吹き飛ばし、一瞬でそこに何も無くなるような爆発に、呆然としているマハトの前を、何かが駆け抜けて行った。

「ヘタレっ! しっかりせぇ!」

 今までずっと頭の中に響いていたのと同じ声が、初めて耳に響いた。
 見ると力強い足運びで走る青年の姿があり、力尽きて倒れ込んでいるクロスに呼びかけている。

「おい…」
「マハ! これを飲んでおけ!」

 透けることなくはっきりとした存在感のあるタクトは、クロスの合切袋の中から何かを取り出して、ポイッとマハトに投げて寄越した。

「これは…なんだ?」
「粉末魔法薬ポーションと書いてある。ヘタレのほうが重傷じゃからおヌシ・・・の傷は後回しだ、それで応急処置をしておけい! 必ずあのご先祖の、霊験あらたかな水と一緒に飲むのだぞ!」

 魔法薬ポーションのことはマハトも知っているし、致命傷でない負傷になら、それなりの効果があることも知っている。
 だがマハトの知っている魔法薬ポーションは、常に液体だった。
 だからアクティブな者が合切袋に入れて持っていると、すぐにガラス瓶が割れて、使い物にならなくなる。

「粉なら、瓶が割れなくて、便利だな…」

 感心したように呟いて、マハトは薬包を開き、その粉を口の中に入れたのだが。

「う、うう、ぐっはぁっ!」

 あの戦いの最中もあまり声をあげなかったマハトが、一体どんな攻撃を受けたのかとビックリして振り返ったタクトは、大急ぎで水筒の水を飲んでいるマハトの様子を見て、攻撃ではないらしいと理解した。

「どうした?」
「なんなんだこれは! 酷い味だ! これ、本当に、人が飲んで大丈夫なものなのか!」
「ほう、声に張りが戻ったな。顔色も、格段に良くなったぞよ」
「え?」

 言われてみれば、立っているのが辛いほどの痛みが、拭われたように無くなっている。

「酷い味だが凄い薬だな。軟膏と同じ、隠者の秘薬だったんだろうか?」
「隠者の効果かご先祖の効果かわからぬが、大した効き目だな。その様子なら、儂が不得手な回復ヒールを掛けてやる必要もなさそうじゃの」
「なんだ、おまえも回復ヒールが苦手なのか?」
「も、とは、なんじゃ?」
「クロスさんも、そう言っていたから」
「ふん。白光輝石フィルトスヴァリンでは、当然じゃろうな。おヌシ・・・とて、斧や槍より剣が得意とかあるであろう?」
「そういうことか、なるほどな。とにかくおかげで動けるようになった。俺に出来ることがあれば言ってくれ」
「ならば、適当な大きな布地を探してきてくれぬか?」
「わかった」

 マハトは言われるまま、屋敷の中を探して回った。
 アルバーラがいたと思われる場所には、なにもない。
 タクトがなんらかのじゅつを使って、変容してしまったアルバーラの体を吹き飛ばしたことはなんとなく想像がつくが、その残骸が全く残っていないのが、マハトには理解できなかった。

「全く、この世には、俺の知らんことがまだまだ多いのだな」

 奇妙な感心をしつつ奥へと進み、マハトはゲージに掛けられていた布を集めて戻ってきた。
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