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ep.2:追われる少年
19.戦いの行方【2】
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『おいっ、ヘタレ! あまり無理をするでない! 今の此奴に、貴様如きの術では歯が立たぬぞ!』
クロスが、防御から攻撃へと転じたことに気付いたタクトが叫ぶ。
「ホント、気遣ってんだか、貶してんだか…」
タクトの言葉に、クロスは思わず苦笑する。
二羽のスノーバードは、舞い上がったところから一気に急降下してドラゴンに攻撃をかけるかに見えた。
気付いたドラゴンがスノーバードに向けて、ブレスを吐く。
『だから言っただろうに』
「まだ撃墜はされてない」
呟くタクトに、視線を透晶珠に向けたままマハトが一言返す。
ブレスをギリギリで躱したスノーバードはドラゴンの背後に回り、鋭利な翼を煌めかせると、ドラゴンの両脇を一気に急上昇する。
一際激しいドラゴンの咆哮と同時に、その両腕がボトリと地面に落ちた。
『うむっ、あのヘタレもやる時はやるな! ちゃんと儂のアドバイスを覚えておったようじゃ』
「だからそう思うなら、ヘタレと呼ぶのをやめろよ」
地面に落ちた両腕は、切り口から広がった氷で真っ白に凍結する。
肩の拘束を解かれたマハトは、また力を込めて片刃を進め、透晶珠の周りを半周させて、握った柄を真上まで回した。
両腕を失ったドラゴンは、怒りに燃えた一つの瞳でマハトを睨みつけている。
『マハ、来るぞ!』
ドラゴンは大きく口を開くと、真正面からマハトの頭上目掛けてブレスを浴びせかけた。
マハトがドラゴンの懐に飛び込んだ時点で、クロスの術は全て解かれて無くなっている。
「確かにおまえの言う通りだが、ひどい格好にされたなあ」
タクトの見越した通り、マハトはドラゴンのブレスを浴びても無事だった。
ちょっと熱い湯を浴びせられた程度にしか感じなかったことに、マハト自身が一番驚いていたし、自分は無事でも装備の類いが燃えて無くなるとは考えていなかったので、ブレスを浴びた上半身が裸になってしまったことにも驚いた。
肩当も手甲も留め具は革だったので燃え落ちてしまい、炎を浴びた部分は本当に、マハトを残して無くなっている。
ギリギリでズボンのベルトと剣帯の部分にまで掛からなかったので、素っ裸になることだけは免れた。
『ははっ、色っぽいの』
「冗談じゃないぞ、こんな格好にされたら、あとが困る」
マハトにブレスが通用しないことに気付いたドラゴンは、地団駄を踏むような動きをしたあとに、尾を大きく振り回した。
そのまま、今までと同じように尾で薙ぎ払ってくるかと思われたが、クロスの予想に反して尾は数百本に分かれ、鋭い槍となって本体を離れて飛散する。
その槍が一斉にマハトの背を目掛けて殺到した直後、まるでマハトの背中から青く透けた翼が生えたかと錯覚するように、クロスのスノーバードが四方から迫り来る大小の槍を凍てつかせ、失速した槍はバラバラと地面へ落ちていった。
『クロス!』
タクトの叫びと、クロスの背中から腹に掛けて鋭い痛みが走ったのはほぼ同時だった。
「くっそ、また目先に騙された……」
喉の奥から錆臭いニオイが込み上げ、咳き込む口元から血液が溢れ出た。
ドラゴンの槍はマハトの背中に集中した。
だがその多数の槍は、本当に狙った相手を突き刺すための一本を、クロスに気付かせぬための囮だったのだ。
『クロスっ!』
血を吐いて膝を折ったクロスに向かって、再びタクトが叫ぶ。
「タクト! こっちに集中しろ!」
意識を逸らしたタクトを、マハトが一喝した。
クロスが、防御から攻撃へと転じたことに気付いたタクトが叫ぶ。
「ホント、気遣ってんだか、貶してんだか…」
タクトの言葉に、クロスは思わず苦笑する。
二羽のスノーバードは、舞い上がったところから一気に急降下してドラゴンに攻撃をかけるかに見えた。
気付いたドラゴンがスノーバードに向けて、ブレスを吐く。
『だから言っただろうに』
「まだ撃墜はされてない」
呟くタクトに、視線を透晶珠に向けたままマハトが一言返す。
ブレスをギリギリで躱したスノーバードはドラゴンの背後に回り、鋭利な翼を煌めかせると、ドラゴンの両脇を一気に急上昇する。
一際激しいドラゴンの咆哮と同時に、その両腕がボトリと地面に落ちた。
『うむっ、あのヘタレもやる時はやるな! ちゃんと儂のアドバイスを覚えておったようじゃ』
「だからそう思うなら、ヘタレと呼ぶのをやめろよ」
地面に落ちた両腕は、切り口から広がった氷で真っ白に凍結する。
肩の拘束を解かれたマハトは、また力を込めて片刃を進め、透晶珠の周りを半周させて、握った柄を真上まで回した。
両腕を失ったドラゴンは、怒りに燃えた一つの瞳でマハトを睨みつけている。
『マハ、来るぞ!』
ドラゴンは大きく口を開くと、真正面からマハトの頭上目掛けてブレスを浴びせかけた。
マハトがドラゴンの懐に飛び込んだ時点で、クロスの術は全て解かれて無くなっている。
「確かにおまえの言う通りだが、ひどい格好にされたなあ」
タクトの見越した通り、マハトはドラゴンのブレスを浴びても無事だった。
ちょっと熱い湯を浴びせられた程度にしか感じなかったことに、マハト自身が一番驚いていたし、自分は無事でも装備の類いが燃えて無くなるとは考えていなかったので、ブレスを浴びた上半身が裸になってしまったことにも驚いた。
肩当も手甲も留め具は革だったので燃え落ちてしまい、炎を浴びた部分は本当に、マハトを残して無くなっている。
ギリギリでズボンのベルトと剣帯の部分にまで掛からなかったので、素っ裸になることだけは免れた。
『ははっ、色っぽいの』
「冗談じゃないぞ、こんな格好にされたら、あとが困る」
マハトにブレスが通用しないことに気付いたドラゴンは、地団駄を踏むような動きをしたあとに、尾を大きく振り回した。
そのまま、今までと同じように尾で薙ぎ払ってくるかと思われたが、クロスの予想に反して尾は数百本に分かれ、鋭い槍となって本体を離れて飛散する。
その槍が一斉にマハトの背を目掛けて殺到した直後、まるでマハトの背中から青く透けた翼が生えたかと錯覚するように、クロスのスノーバードが四方から迫り来る大小の槍を凍てつかせ、失速した槍はバラバラと地面へ落ちていった。
『クロス!』
タクトの叫びと、クロスの背中から腹に掛けて鋭い痛みが走ったのはほぼ同時だった。
「くっそ、また目先に騙された……」
喉の奥から錆臭いニオイが込み上げ、咳き込む口元から血液が溢れ出た。
ドラゴンの槍はマハトの背中に集中した。
だがその多数の槍は、本当に狙った相手を突き刺すための一本を、クロスに気付かせぬための囮だったのだ。
『クロスっ!』
血を吐いて膝を折ったクロスに向かって、再びタクトが叫ぶ。
「タクト! こっちに集中しろ!」
意識を逸らしたタクトを、マハトが一喝した。
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