80 / 122
ep.2:追われる少年
19.戦いの行方【1】
しおりを挟む
ドラゴンへの牽制のための攻撃の呪文を詠唱しながら、マハトを保護する陣を空に描く。
それらを同時にこなしながら、向こうの攻撃をかわすのは、かなり骨の折れる作業だ。
それでもクロスは、その難しい課題をこなし続けていた。
アルバーラの失踪は、偽装だった。
ほとほと自分は目先の事にばかり囚われて、裏を読み、その先を読むのが下手だと痛感する。
というかその言葉がそのまま、自分の人生の集大成にすら思えた。
目先の事にばかり囚われて、間接的とはいえアルバーラの欲望に加担した。
その結果、無関係な神耶族を欲の餌食にしてしまうのかと考えた時に「それだけは、絶対に嫌だ!」と思った。
自分がマトモな何かを掴めるチャンスは、きっとこれが最後だ。
クロスはマハトを援護する防御の詠唱をしながら、右手で雷撃と分散を組み合わせた陣を描く。
放った雷撃が、四方に散開して金色の獣を形作る。
雷獣は、床や壁を身軽に走り、ドラゴンの注意を引き付け惑わしながら、取り込ドウォームといった、攻撃が通る箇所で電撃に変わった。
『解っとるなマハ! アレはドラゴンのカタチをしてはいても、本物ではない! 貴様がしっかり仕事をすれば、この儂が彼奴のウロコを叩き割ってくれる! 渾身の力を込めて、背中まで貫くつもりで叩きこむのじゃ!』
「おまえのそれって、本当に人にものを頼んでる態度じゃないなあ」
命令口調で指示をするタクトに、マハトが思わず呆れた声を返す。
『そんなだらけた声を出しおって、ヘマをするでないぞ! この作戦の "キモ" は、貴様の立ち回りに掛かっておるのじゃからな!』
「それは、重々判っている」
タクトが見抜いたマハトの特殊技能は、巫が意図せず呼び出してしまった幻獣族などからの攻撃から身を守るための、特殊耐性である。
それは人間を遥かに上回る相手からの、容赦のない魔法攻撃を去なす能力だ。
故に、アルバーラからの攻撃に対して、本来ならクロスの防御や耐性といったアシスタントは不必要だ。
それを、クロスに無理をさせてまで行使させているのは、マハトがその特殊技能持ちで有ることを、アルバーラに隠すためなのだ。
ドラゴンの上に立つ幻影のアルバーラが、電撃を放ったクロスを憤怒の形相で睨みつけた、その隙をマハトは見逃さなかった。
「やあっ!」
気合一閃、両手で握りしめた長剣を、深々と透晶珠の左下の際に打ち込んだ。
こちらが接近戦に持ち込みたい意図を隠すのが、クロスのアシスタントに拘っていた最大の理由だった。
特殊技能持ちのマハトがアルバーラのウロコにタクトの刃を突き立て、引き裂いて、進退窮まってしまったジェラートを取り戻す。
それがタクトの立てた作戦なのだ。
胸を深く突かれたドラゴンが、咆哮を上げる。
空気がビリビリと振動するその咆哮にも、マハトは動じなかった。
ドラゴンの胴体をがっしりと踏みしめて、左手でジェラートの透晶珠をしっかりと掴む。
『よおしっ! そのまま透晶珠を抉り取るのじゃっ! 儂の魔力は使いきり、二度目は無いと肝に銘じてなっ!』
突き刺さっていた長剣が、厚みのある鎌状へと刃の形に変える。
マハトは掴んでいる柄に力を込めて、その片刃をグイと動かした。
「私の邪魔をするなぁあああっ!」
激しい咆哮を上げながら、ドラゴンが鋭く硬い爪の生えた両腕でマハトの肩を掴む。
鋼の肩当も貫いて、ドラゴンの爪がマハトの肩に食い込んだ。
それでもマハトは剣に込めた力を緩めようとしないので、ドラゴンはマハトを引き剥がさんと、めきめき力を増してくる。
マハトの肩の辺りから、骨が軋むような鈍く不穏な音がした。
「オマエの相手は、俺だろうっ!」
クロスの描いた陣から、青白いオーラを纏ったスノーバードが飛び立った。
それらを同時にこなしながら、向こうの攻撃をかわすのは、かなり骨の折れる作業だ。
それでもクロスは、その難しい課題をこなし続けていた。
アルバーラの失踪は、偽装だった。
ほとほと自分は目先の事にばかり囚われて、裏を読み、その先を読むのが下手だと痛感する。
というかその言葉がそのまま、自分の人生の集大成にすら思えた。
目先の事にばかり囚われて、間接的とはいえアルバーラの欲望に加担した。
その結果、無関係な神耶族を欲の餌食にしてしまうのかと考えた時に「それだけは、絶対に嫌だ!」と思った。
自分がマトモな何かを掴めるチャンスは、きっとこれが最後だ。
クロスはマハトを援護する防御の詠唱をしながら、右手で雷撃と分散を組み合わせた陣を描く。
放った雷撃が、四方に散開して金色の獣を形作る。
雷獣は、床や壁を身軽に走り、ドラゴンの注意を引き付け惑わしながら、取り込ドウォームといった、攻撃が通る箇所で電撃に変わった。
『解っとるなマハ! アレはドラゴンのカタチをしてはいても、本物ではない! 貴様がしっかり仕事をすれば、この儂が彼奴のウロコを叩き割ってくれる! 渾身の力を込めて、背中まで貫くつもりで叩きこむのじゃ!』
「おまえのそれって、本当に人にものを頼んでる態度じゃないなあ」
命令口調で指示をするタクトに、マハトが思わず呆れた声を返す。
『そんなだらけた声を出しおって、ヘマをするでないぞ! この作戦の "キモ" は、貴様の立ち回りに掛かっておるのじゃからな!』
「それは、重々判っている」
タクトが見抜いたマハトの特殊技能は、巫が意図せず呼び出してしまった幻獣族などからの攻撃から身を守るための、特殊耐性である。
それは人間を遥かに上回る相手からの、容赦のない魔法攻撃を去なす能力だ。
故に、アルバーラからの攻撃に対して、本来ならクロスの防御や耐性といったアシスタントは不必要だ。
それを、クロスに無理をさせてまで行使させているのは、マハトがその特殊技能持ちで有ることを、アルバーラに隠すためなのだ。
ドラゴンの上に立つ幻影のアルバーラが、電撃を放ったクロスを憤怒の形相で睨みつけた、その隙をマハトは見逃さなかった。
「やあっ!」
気合一閃、両手で握りしめた長剣を、深々と透晶珠の左下の際に打ち込んだ。
こちらが接近戦に持ち込みたい意図を隠すのが、クロスのアシスタントに拘っていた最大の理由だった。
特殊技能持ちのマハトがアルバーラのウロコにタクトの刃を突き立て、引き裂いて、進退窮まってしまったジェラートを取り戻す。
それがタクトの立てた作戦なのだ。
胸を深く突かれたドラゴンが、咆哮を上げる。
空気がビリビリと振動するその咆哮にも、マハトは動じなかった。
ドラゴンの胴体をがっしりと踏みしめて、左手でジェラートの透晶珠をしっかりと掴む。
『よおしっ! そのまま透晶珠を抉り取るのじゃっ! 儂の魔力は使いきり、二度目は無いと肝に銘じてなっ!』
突き刺さっていた長剣が、厚みのある鎌状へと刃の形に変える。
マハトは掴んでいる柄に力を込めて、その片刃をグイと動かした。
「私の邪魔をするなぁあああっ!」
激しい咆哮を上げながら、ドラゴンが鋭く硬い爪の生えた両腕でマハトの肩を掴む。
鋼の肩当も貫いて、ドラゴンの爪がマハトの肩に食い込んだ。
それでもマハトは剣に込めた力を緩めようとしないので、ドラゴンはマハトを引き剥がさんと、めきめき力を増してくる。
マハトの肩の辺りから、骨が軋むような鈍く不穏な音がした。
「オマエの相手は、俺だろうっ!」
クロスの描いた陣から、青白いオーラを纏ったスノーバードが飛び立った。
10
扉絵:葵浩サマ:AK-studio
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説



半神の守護者
ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。
超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。
〜概要〜
臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。
実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。
そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。
■注記
本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。
他サイトにも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる