イルン幻想譚

RU

文字の大きさ
上 下
70 / 122
ep.2:追われる少年

16.喰らいつくす【5】

しおりを挟む
「アンリー! 手伝え!」
「ちっ!」

 クロスに命令されたのが気に入らない様子で、アンリーは舌打ちをしたが。
 しかし自分だけで、師匠に太刀打ち出来ないことも解っていた。
 アンリーは、そこに倒れている自身の使い魔スレイブに触れ、回復ヒール詠唱チャントする。
 蒼のオーラに包みこまれると、サンドウォームは息を吹き返して身を起こし、アンリーの命令のままにドラゴンへと突進した。
 大人のルミギリスとカービンが、口にすっぽりと入るほどのサンドウォームは、アルバーラのドラゴンよりも大きい。
 床を這って進んだサンドウォームは、まるで蛇のようにドラゴンの体に巻き付き、全身を締め上げた。

「アンリー、忠誠を捧げよ!」

 幻覚のアルバーラが叫ぶ。
 ドラゴンの全身から、再び魔気ガルドレートが放たれ、サンドウォームは無惨にも千切れとんだ。

「くそっ!」

 アンリーが次の手を考える隙もなく、千切れたサンドウォームの体が、まるで時間が巻き戻るように元の姿に戻る。

「なんだっ?」

 使い魔スレイブは、なんらかの方法で相手を屈服させた上で、絶対服従サブミッションじゅつを掛ける。
 屈服、もしくは心酔させていればじゅつの効力はいつまでも続くため、完全に支配下においた使い魔スレイブが、自身に歯向かうことを想像出来る魔導士セイドラーはいない。
 アンリーのような、自分の魔力ガルドルに自信があるものは、特にそう盲信しているだろう。
 故にアンリーは、姿形が元通りになったサンドウォームが、自分に向かって襲いかかってきた時に、事態が理解できずに対処が遅れた。

「逃げろっ!」

 クロスの叫びは届かず、アンリーは、一瞬にしてサンドウォームに飲み込まれてしまう。
 しかもよく見ると、サンドウォームの下半身は、そのままドラゴンの腕に繋がっていた。
 ドラゴンは大きな咆哮を上げ、当然のように全身から魔気ガルドレートを放ち、体の大きさが一段と大きくなった。
 ジェラートに傷つけられたはずの鱗はすっかり元通りになり、更に硬度を増しているのか、黒みがかった銀色に変わっていく。
 ドラゴンの一部と化していたサンドウォームは、今度はクロス目掛けて伸び上がってきた。
 クロスは新たなサークルを描いて火炎ファイアを放ち、こちらに伸びてきたサンドウォームを焼き払う。

「クロスーッ!」

 ジェラートの叫びを耳にして、クロスは自分への攻撃が、注意を引き付けるための罠だったと気付いた。

「ジェラートッ!」

 助けを求めるジェラートを追って、力の限りに追い縋ったクロスの手が、伸ばされたジェラートの手に届く…、その、ほんの僅か一歩のところでジェラートの姿はドラゴンの口の中に消える。
 ショックに凍りついたクロスは、更なる獲物とばかりにドラゴンが自分に目掛けて一層大きく口を開いてきても、そこに棒立ちになっていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...