イルン幻想譚

RU

文字の大きさ
上 下
51 / 90
ep.2:追われる少年

9.古代の遺跡【2】

しおりを挟む
 マハトはハッと、目を開いた。

「なんだ? 今のは…?」

 マハトが意識を取り戻したところで、タクトの姿は一瞬にして消えた。

『遅いぞ、残念サウルス! 時間が無いのじゃ、とにかく立ていっ!」

 自分の腹の上で怒鳴っている短剣を掴むと、マハトは砂の上に立ち上がる。

「ここはなんだ? 地面が動いてるのか?」
『砂が動いておるのじゃ。貴様には見えぬだろうが、地下で色々と面倒が起きておる。此処も直ぐに崩れ始めるであろう。だが問題は、その次にる陥没じゃ。此処から這い登って逃げても、意味が無いほどの大穴になるぞ』
「それは困ったな」
『まず言っておく。貴様のような愚鈍なサウルスは、魔導士セイドラーを相手に立ち回るためには、儂のサポートが絶対に必要なんじゃ! 良いか、以後は何があっても決して儂を身辺から離すでないぞ! 次に、陥没が起きる直前に、儂が貴様の体を穴の外に弾き飛ばすから、衝撃に備えよ』
「そんなことが出来るのか?」
『チャンスは一度きり。ただし、そのあと儂はしばらく沈黙する、そこも了承しておけい』
「沈黙? なぜ?」
『今の儂は魔力ガルドルを消耗すると、疲労困憊して戻るのに時間が掛かるのじゃ。口がきければいいが、多分数日眠った状態になるじゃろう。よって貴様は此処からの脱出に成功したのち、とにかく手段を見つけてクロスのあとを追うのじゃ』
「じゃあ結局あの連中に、ジェラートを奪われたのか?」
『やつらではないが、攫われてしもうた。今、クロスがあとを追っているので、貴様はその加勢にってくれ』
「解った。だが、意外だな。タクトがクロスさんを頼るとは思わなかった」
『あのヘタレの他に選択肢が無かったのじゃ、仕方なかろう!』

 悪態をいているが、タクトの怒鳴り声には今までほどの刺々しさを感じない。

『そろそろるぞよ』

 ひときわ大きく、上のほうの砂が崩れ始めた時だった。
 マハトは不思議な気配を感じて、辺りを見回した。

「おいタクト、妙な感じがしてきたんだが、何なんだ。これで俺を穴の外へ弾き出すのか?」
『これは、なんじゃ? この気配は、儂とは関係ない。変に遠くて…、いや、上からか…?』

 上と言われ、マハトは空を仰いだ。
 すると不意に足元の感覚が無くなったので、下を見ると、マハトは宙に浮かび上がっていた。
 地上ではすり鉢の底が抜けたように穴が大きく広がっている。
 その様子を見下ろしているマハトの身体は、タクトの言っていた "弾き飛ばす" という表現からは掛け離れた、まるでだれかの大きな手に掬い上げられて、上空へ避難しているような感じだった。

「すごいな、これが神耶族イルンの能力なのか」
『…儂は何もしとらん』
「ええ?」
『貴様こそ、一体どういうチカラを使っておるのだ?』
「どういうって…こっちが聞きたい。タクトのやってることじゃないとしたら、俺はどうやって浮かんでる? 着地はどうしたらいいんだ?」

 宙に浮かんだマハトの身体は、大きく広がっていく陥没から離れ、古びたストーンサークルのある丘の上までると、浮かび上がった時と同じように、すんなりと地上に降ろされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...