イルン幻想譚

RU

文字の大きさ
上 下
49 / 122
ep.2:追われる少年

8.努力と才能

しおりを挟む
 互いをかばい合うように抱き合っていたルミギリスとカービンは、地面の鳴動が止み、辺りが静かになったところで目を開ける。

「ビンちゃん! 生きてる?!」
「ルミ~、ドジっちゃってゴメン~。あんな真っ暗の中で追っかけてくるやつがいるなんて、思わなくってぇ~」
「ビンちゃんが無事だったから、それはもうイイよ~」
「アタシがもっと、大きなルフ鳥を捕まえられてたら、一緒に逃げられたんだけど…」
「なに言ってんのさ! あれでさえ、維持するのが難しくて放っちゃったんだよ? あれより大きかったら、仮契約も出来なかったってば!」
「でもぉ、ルミーなら時間掛ければ…」
「あれすら、結局絶対服従サブミッションさせられなかったんだもん。たられば言っても仕方ないよぅ」
「でもぉ~」
「ビンちゃんが無事だったことが、一番だよぉ~。ヘタレたクロスは逃がしたけど、戦士フェディンにはボクのスペシャル雷撃サンダーを浴びせて、ビンちゃんのカタキを取ったよ! どんなデッカイ奴だって、イチコロさっ!」

 伏して動かぬマハトを横目で見て、ルミギリスはフフンと鼻先で笑った。

「次はにっくきアンリーをやってやるっ! ボクらのスイートキャンディーを横取りしやがって! カッコツケばっかのスカスカ野郎!」

 カービンの縄を解きながら、ルミギリスが苛立たしげに吐き捨てた。

神耶族イルンを獲ったのは、アンリーの鳥なの?」
「アイツがピッピちゃんとか呼んでる、トンスラハゲ鳥だよ! いつからボク達の秘密基地アイドルワイルドの地下に、サンドウォームを潜ませてたんだろ。ホントにヤなヤツ! あのデッカイ芋虫に落とし穴を掘らせて、こっちがビックリしてる間に、上からトンスラハゲがスイートキャンディーをっ攫ってったんだ! ドロボー使い魔スレイブ! 焼き鳥にして食ってやる!」
「ピーちゃんは焼き鳥だけど、サンドウォームは焼き芋なんじゃない?」
「あっはっは、ビンちゃん、さっすが~!」

 縄を解き終えると、ルミギリスはカービンの服に付いた砂も綺麗にハラい落としてやった。

「じゃ、さっさとあとを追っかけよ! どうせアンリーの行き先は、ババアが研究に使ってた屋敷に決まってる! 神耶族イルンを取り込む方法は、アンリーだってまだ解ってないンだからね! それじゃあビンちゃん、こっから脱出しよう!」
「任せて、ルミー!」

 カービンは自分の服のポケットに手を入れると、一粒の種子を取り出した。
 クロスが疑問に思った程度に、カービンは魔導士セイドラーとしての実力はさほど高くない。
 彼女の持つ魔力ガルドルでは、使い魔スレイブを持つのは非常に難しいレベルだ。
 だがカービンには、植物に感応出来る特殊技能スキルがあった。

 特殊技能スキルとは、生まれ持った能力である。
 あとから修行などで身に付けることは不可能であり、しかも魔力ガルドルの有無も関係ない。
 カービンの特殊技能スキルは、触れた植物の成長を、ある程度操ることが出来るものだ。
 子供の頃に魔力持ちセイズとして迫害を受け、魔導士セイドラーとしては大したことがないと言われた彼女は、自身の特殊技能スキルを徹底的に鍛え上げた。
 ただ少しだけ成長を促し、早くに芽を出させる…程度の特殊技能スキルを、魔力ガルドルを込めて自在に操れるようになるまで研鑽したのだ。

 門戸を大きく開いて、魔力ガルドルの低いものでも構わずに迎え入れてくれるアルバーラ一門に加わった時に、カービンは心の友・・・とも言えるルミギリスと出会った。
 以後、一門の中で目覚ましい出世をするルミギリスに尽くしてきたが、カービンの努力は師匠の目にも留まり、弟子の序列の映えある四番を与えられたのだ。

 砂の上に落ちた種子は、カービンのじゅつで蛇のようにうねりながら、穴の外へと繋がるツタを這わせた。
 二人が伸びたツタの一部に手を掛けると、植物はスルスルと二人の体を保護して、穴の外にまで運び出す。
 そしてカービンに指示された仕事をこなし終えたところで、ツタはあっという間に枯れて、砂の上に散っていった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】後妻は承認したけど、5歳も新しく迎えるなんて聞いてない

BBやっこ
恋愛
ある侯爵家に後妻に入った。私は結婚しろと言われなくなり仕事もできる。侯爵様様にもたくさん後妻をと話が来ていたらしい。 新しいお母様と慕われうことはないだろうけど。 成人した跡取り息子と、寮生活している次男とは交流は少ない。 女主人としての仕事を承認したけど、突然紹介された5歳の女の子。新しく娘うぃ迎えるなんて聞いてない!

魔女を求めて今日も彼らはやって来る。

まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の曽祖母だ。 私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。 昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。 魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。 そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。 見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。 さて、今回はどんな人間がくるのかしら? ※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。 ダークファンタジーかも知れません…。 10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。 今流行りAIアプリで絵を作ってみました。 なろう小説、カクヨムにも投稿しています。 Copyright©︎2021-まるねこ

処理中です...