48 / 90
ep.2:追われる少年
7.おかしなコンビ【3】
しおりを挟む
クロスは、意を決したように口元を引き結ぶ。
「タクト。アンタ、ホントは物理的に何も出来ないワケじゃないんだよな?」
『いきなり何じゃ?』
「アンタにマハさんを任せられるなら、俺がジェラートを追う!」
『なにぃ!? この状態の儂に、あのサウルスをどうせいとっ!?』
「今の状況は、それぞれがそれぞれに心配している相手の面倒は見られないケド、仕事を交換すれば対応出来る…って、ワカッテるんでしょ」
タクトは、その美しい顔にとんでもなく不快な表情をのせて、クロスの顔を見上げていたが、数秒の後に諦めたように大きな溜息を吐いた。
『よかろう。あの残念サウルスの身柄は儂が預かる。だが! そこまで言うのだから、そちらもきちんと責任を持ってもらうぞっ! ジェラートの身になにかあったら、貴様の身を八裂きにしてくれるから、そう思え!』
「解ってる、絶対に取り戻す!」
『では、儂を上手くあの残念サウルスのところへ投げるのじゃ! それと、ジェラートには、狙われたのは儂が迂闊だったという話で、最後まで押し通すのだぞ!』
「うん、それはもちろん…」
答えて、それからクロスはなにか物言いたげな顔で黙り込んだ。
『なんじゃ? 時間が惜しいのじゃ、言いたいことがあるなら早く言え』
「…うん…、あの、俺がアルバーラと組合でしのぎを削ってた…とかいう話のことだけど…」
言いかけたクロスに対して、タクトは『てっ!』と一言で黙らせる。
『貴様、自分で言い訳しておったではないか。おおかた、その性格で本当に "奉り上げられて" しまったんじゃろ?』
「ホントに、信じてくれてるの?」
『なんらかの下心が全く無かった…とは言えないといった顔じゃな。だが、儂は正直、人間如きの微細な権力闘争なぞ、どうでもいい。こちらに迷惑を及ぼさない限りは、殺し合いでもなんでも好きにせえ』
「アンタから見たら、俺とアルバーラは同類なんだろうけど…」
『そんなことは、思っておらんと言っておるに。貴様が "高慢ちきでめちゃめちゃ" な儂に力を貸すと言った時から、ヘタレの小心者だが性根は善良と見極めておるわ』
「なんか、めっちゃけなされてるようにしか聞こえない…」
口の中でブツブツと文句を言うクロスを、タクトはチラッと見やった。
『ではこちらも、ひとつだけ訊きたいんじゃが…?』
「え、なに?」
『貴様、本当に人間なのだよな?』
タクトの問いに、クロスは微かに顔を歪めた。
「なんで、そんなこと聞くのさ?」
『禁忌の術を紐解いたからと言って、そうそう簡単に結界が使える人間がおるとは思えぬ』
諦めたように、クロスはため息と共に言った。
「正真正銘、そんじょそこらの人間だよ。ただ、魔力が少々多めってだけで…」
『少々…とは?』
「気量計が、白光輝石になるぐらい?」
『それはちょっとではなく、ケタハズレじゃろ』
タクトの返しに、クロスはもう一度深々とため息を吐く。
「言っとくけど、ホントのホントに骨の髄まで生粋の人間だから! そりゃ親の顔は知らないけど、魔導士らしく馬鹿げた身長なだけで、他に身体的特徴は無いし。魔力の量のことは昔から色々言われたけど、マジでそれ以外無いから!」
『ふーむ。先祖返り…と言うこともあるからの。まぁ、とりあえずはそういうことにしておくほかに、なさそうじゃな』
納得しかねる顔をしつつも、タクトは頷いた。
『あいわかった。では、時間もない。儂をあのサウルスの元へと投げ、貴様はジェラートの後を追ってくれい』
「判った」
力の限りにタクトを放り投げ、クロスは怪鳥が飛び去った方角に向かう。
『このノーコン非力のヘタレ野郎めがー!』
後ろからタクトの苦情が聞こえたが、今はそれに構っている余裕は無い。
クロスは自分の合切袋の中から、ビンを取り出した。
飛翔能力を持たない人間が、砂漠で空を飛んで行く怪鳥を見失わずに追い続けることなど出来るはずもない。
それは分かりきっていたから、クロスは使い魔のカマキリに命令を与えて空へと放った。
「タクト。アンタ、ホントは物理的に何も出来ないワケじゃないんだよな?」
『いきなり何じゃ?』
「アンタにマハさんを任せられるなら、俺がジェラートを追う!」
『なにぃ!? この状態の儂に、あのサウルスをどうせいとっ!?』
「今の状況は、それぞれがそれぞれに心配している相手の面倒は見られないケド、仕事を交換すれば対応出来る…って、ワカッテるんでしょ」
タクトは、その美しい顔にとんでもなく不快な表情をのせて、クロスの顔を見上げていたが、数秒の後に諦めたように大きな溜息を吐いた。
『よかろう。あの残念サウルスの身柄は儂が預かる。だが! そこまで言うのだから、そちらもきちんと責任を持ってもらうぞっ! ジェラートの身になにかあったら、貴様の身を八裂きにしてくれるから、そう思え!』
「解ってる、絶対に取り戻す!」
『では、儂を上手くあの残念サウルスのところへ投げるのじゃ! それと、ジェラートには、狙われたのは儂が迂闊だったという話で、最後まで押し通すのだぞ!』
「うん、それはもちろん…」
答えて、それからクロスはなにか物言いたげな顔で黙り込んだ。
『なんじゃ? 時間が惜しいのじゃ、言いたいことがあるなら早く言え』
「…うん…、あの、俺がアルバーラと組合でしのぎを削ってた…とかいう話のことだけど…」
言いかけたクロスに対して、タクトは『てっ!』と一言で黙らせる。
『貴様、自分で言い訳しておったではないか。おおかた、その性格で本当に "奉り上げられて" しまったんじゃろ?』
「ホントに、信じてくれてるの?」
『なんらかの下心が全く無かった…とは言えないといった顔じゃな。だが、儂は正直、人間如きの微細な権力闘争なぞ、どうでもいい。こちらに迷惑を及ぼさない限りは、殺し合いでもなんでも好きにせえ』
「アンタから見たら、俺とアルバーラは同類なんだろうけど…」
『そんなことは、思っておらんと言っておるに。貴様が "高慢ちきでめちゃめちゃ" な儂に力を貸すと言った時から、ヘタレの小心者だが性根は善良と見極めておるわ』
「なんか、めっちゃけなされてるようにしか聞こえない…」
口の中でブツブツと文句を言うクロスを、タクトはチラッと見やった。
『ではこちらも、ひとつだけ訊きたいんじゃが…?』
「え、なに?」
『貴様、本当に人間なのだよな?』
タクトの問いに、クロスは微かに顔を歪めた。
「なんで、そんなこと聞くのさ?」
『禁忌の術を紐解いたからと言って、そうそう簡単に結界が使える人間がおるとは思えぬ』
諦めたように、クロスはため息と共に言った。
「正真正銘、そんじょそこらの人間だよ。ただ、魔力が少々多めってだけで…」
『少々…とは?』
「気量計が、白光輝石になるぐらい?」
『それはちょっとではなく、ケタハズレじゃろ』
タクトの返しに、クロスはもう一度深々とため息を吐く。
「言っとくけど、ホントのホントに骨の髄まで生粋の人間だから! そりゃ親の顔は知らないけど、魔導士らしく馬鹿げた身長なだけで、他に身体的特徴は無いし。魔力の量のことは昔から色々言われたけど、マジでそれ以外無いから!」
『ふーむ。先祖返り…と言うこともあるからの。まぁ、とりあえずはそういうことにしておくほかに、なさそうじゃな』
納得しかねる顔をしつつも、タクトは頷いた。
『あいわかった。では、時間もない。儂をあのサウルスの元へと投げ、貴様はジェラートの後を追ってくれい』
「判った」
力の限りにタクトを放り投げ、クロスは怪鳥が飛び去った方角に向かう。
『このノーコン非力のヘタレ野郎めがー!』
後ろからタクトの苦情が聞こえたが、今はそれに構っている余裕は無い。
クロスは自分の合切袋の中から、ビンを取り出した。
飛翔能力を持たない人間が、砂漠で空を飛んで行く怪鳥を見失わずに追い続けることなど出来るはずもない。
それは分かりきっていたから、クロスは使い魔のカマキリに命令を与えて空へと放った。
10
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる