イルン幻想譚

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ep.2:追われる少年

6.不毛の地

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 昼前になってから、縄で腕を縛ったカービンを連れて、三人が向かったのは、町の西側にある遺跡だった。
 昨晩の、カービンへの尋問はあっけないほど簡単に終わった。
 というのも、目を覚ましたカービンは、マハトの鍛え上げられた体躯を見ただけで震え上がり、こちらが何かを問う必要もなく、知っていることをペラペラと喋ったからだ。
 その情報の中には、自分とルミギリスがねぐらにしている遺跡の場所をも含んでいた。

「砂漠というのは、こんなにも不毛の土地なのか…」

 クロスの仕入れたまえ情報どおりに、砂漠に踏み込むとそこは見渡す限りの砂と、ポツポツと点在する遺跡しかない場所だった。

『この地は以前、緑豊かな場所であったが、人間フォルクが考えなしに大規模な魔力ガルドルを使った戦いをしおっての。窪地だったために魔素ガンドが滞留し、土地の奥深くにまで染み込んでしまったのじゃ』
人間リオンが、大規模な魔法ガルズで戦争を?」
「今の魔導組合セイドラーズギルドは、人間リオン同士の戦いに魔導士セイドラーが参加しないことを徹底してるけど、昔は国家間の戦争に魔導士セイドラー部隊が投入されたりしたんだよ」
「じゃあ、遺跡は人間リオンの物なのか…」

 くだんの事前情報によると、遺跡は宿を取った町が出来る以前からあると言う。
 だが近代・・人間リオンにとっての遺跡とは、人跡未踏の地と大差が無い。
 というか、そもそも持たざる者ノーマル人間リオンにとって、壁や柵といった人家を守る囲いの無い場所は、街道と言えど常に危険が伴う。
 それは妖魔モンスターのような強力な外敵以外にも、魔気ガルドレートのような、目に見えないが人体に影響を及ぼすような危険もあるからだ。
 タクトの言う通り、魔素ガンドが土地に染み込んでいるこの地などは、何らかの防御策を講じてなければ、魔障ガルドリングしてしまう。
 知能が低く体が頑強な生き物であれば妖魔モンスターと成るが、脆弱な人間リオンの体は、魔障ガルドリングに耐えきれずに死に至る。
 そこに遺跡があることを知っていても、調査に赴けるほどの余力は、現在の人間リオンには無いのだ。
 故にその遺跡が、どの年代の、どんな民族が、なんの目的で作ったのか? 何故に打ち捨てられたのか? など、調べることなどおぼつかない。

「サンドウォームも出るらしいから、気をつけないと…」

 通商路つうしょうろは、それでも魔気ガルドレートが多少はうすい場所が選ばれているが、ルミギリスとカービンの隠れ家は、そこから外れた遺跡の中だ。
 クロスは魔気ガルドレートを退けるための結界フルンドを、マハトの体に施した。

一日いちにちぐらいは、これで問題ないと思うよ」
「これは、便利だなぁ」

 マハトは無邪気に感心しているが、こちらを見るタクトはもの言いたげな顔をしている。
 その視線に気づいて、クロスは心のなかでしまったと思う。
 なぜなら、結界フルンド古代魔法フォニルガルズで、一般的な魔導士セイドラーならばここは防御プロテクションを使うべきだと、タクトの視線で思い出したからだ。
 だが、ここでタクトに何らかの言いわけをしたら、事態は更に面倒な方向へと転がるだろう。
 そう考えたクロスは、あえてタクトを無視した。
 そしてカービンと自身の体にも、結界フルンドを施す。
 そうして、通商路つうしょうろから外れてしばらく歩くと、遠くに砂に埋れかけた廃墟ぐんが見えてきた。
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