イルン幻想譚

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ep.2:追われる少年

5:神にも等しい種族【4】

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「では、攫った連中は、とりあえずジェラートの命を奪うようなことはしない…と考えて良いんだな」
「そもそも、人間フォルク神耶族イルンを殺すなんて、よっぽど策を弄さないと無理だしね」
「そういうものか?」
「上級幻獣族ファンタズマを殺しにいくようなもんだよ」

 クロスの説明に、マハトはなるほどと頷いた。

『ジェラートは未だ子供ではあるが、儂の押し込み・・・・もあるから、丸め込むにも、しばらくの時間が掛かると見てよかろうぞ』
「しかし、不思議だな。おまえは決して思慮の浅いものじゃなさそうなのに。そんなおかしなものに目をつけられていて、なぜ悪目立ちするようなことをしたんだ?」
『おぬしも大概ボンクラじゃの。もし貴様がジェラートの立場にあったとして、目をつけられた原因が "自分が子供である" ためだと知ったら、傷つかぬか? そのような、避けようもない理由で、狙われて逃げ回る羽目になった子供に、気遣いをするのは傲慢か?』

 クロスが少し意外そうな顔をしている。
 たぶんその視線の先に、マハトには見えないタクトの顔があるのだろう。
 とはいえ、そのタクトの言葉はマハトを納得させるに足るものだった。

「すまない、余計なことを言った」
人間フォルクに理解してもらおうとは、思っておらんわ』

 タクトの顔は見えないが、その言葉が額面通りのタクトの気持ちと言うわけでも無いのだろうと、マハトは思った。

「よし。神耶族イルンのあらましは判った。それで、こいつは何者なんだ?」
「アルバーラの四番弟子のカービンだよ。二番弟子のルミギリスとべったりツルんでる仲良し・・・コンビさ」
「なぜそこで、わざわざ仲の良さを強調するんだ?」
『オトコ不要のオンナ友達…という意味を、含んでいるからであろ』

 タクトは如何にも小馬鹿にしたような揶揄からかい口調だったが、そんなことよりマハトは、目の前のカービンが女性だったことのほうに驚いていた。

「女? じゃあそいつ、いや、その人は…、女性…なのか?」
『どこをどう見ても、オンナの格好をしておるではないか』
「格好…」

 カービンの身なりは、ガーターベルトにタイツとショートブーツ、それにマントを羽織っているが、今はそのマントが捲り上がって、肌が露出した胸当てが見えている。
 とはいえ、カービンの身長はマハトと大差なく、更に骨ばっていて胸にも尻にもほとんど肉付きがない。
 髪はボサボサで手入れもされておらず、それを面長で頬の痩けた顔を隠すように顔面に垂らしているので、正直、マハトのようなものでなかったとしても、性別を一目ひとめで判別するのは難しいだろう。
 もっとも、魔力持ちセイズはいわゆる "見栄え" のするものは稀であり、痩せぎすで長躯か、痩せぎすで短躯ばかりではあるが。
 服装的には女性だが、そもそも他人の服装などに気を払う性質たちではなさそうなマハトでは、無理からぬことだろうな…とクロスは思った。

「女性に乱暴を働いてたのか、俺は…」
「マハさん、そもそも先に仕掛けてきたのは向こうなんだし、性別に関係なく、魔導士セイドラー相手の時に容赦は不要だよ」
「そう、なのか……。それで、この四番弟子と二番弟子がコンビで、その二番弟子がジェラートを攫ったのか?」
「だろうね。それにルミギリスは、一番弟子のアンリーと、後継者を巡って泥沼の争いをしているって話だから、カービンからルミギリスの情報を聞き出せても、読めない敵がまだ居るって考えて行動するべきだろうな」
「よし、それならまずそのカービンを起こして、ルミギリスの居場所を聞き出すのが順当だろうな」

 マハトの提案に、クロスも同意した。
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