34 / 90
ep.2:追われる少年
2:適材適所【1】
しおりを挟む
歩き出したところで、戦士が言った。
「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はマハト。ローメン・ラットに憧れて、剣豪を目指している。今は修行中の剣客だ」
ローメン・ラットは、剣豪の祖と呼ばれる伝説の人物である。
圧政で民衆を苦しめた王を討ち取った英雄と伝えられており、剣客はラットが名乗った職と言われている。
とはいえ、どちらも冒険者組合では認定されていない、いわゆる "自称" の職だ。
一般的に、戦士は粗暴な性質な者が多いが、剣豪や剣客を名乗るものは、冒険者組合から追放されたゴロツキである可能性の方が高い。
だが先程のマハトの剣技やこの折り目正しい態度からすると、珍しく "真っ当な" 剣客なのだろう。
「俺はクロス。魔導士の冒険者で…」
そう言ってしまってからクロスはハッとした。
慌てて胸元に下げている身分証を、相手に見えるようにグッと差し出す。
「コ…コレ、魔導組合の身分証!」
この身分証を持っていない魔力持ちは、魔導士と認めてもらえず、モグリや野良を疑われて、場合によってはとんでもない目に遭わせられる可能性がある。
魔導士特有の、相手に言葉を挟ませない早口になりながら、クロスは喋り続けた。
「あ、あのあの、俺、護衛の仕事を済ませた帰りでねっ。それで、あのあの、ち、近道しようと思って森に入ったら、なんか道に迷っちゃってっ!」
「そうか、それは災難だったな」
「そ…その腕前なら、もう剣豪を名乗ってもおかしくなさそうだよね」
とにかく相手を持ち上げて、この場をやり過ごそうと、クロスはやたらと相手を褒めそやした。
「いや、まだまだ修行中だ。ローメン・ラットは、中級幻獣族のクラーケンを一撃で倒したなんて話もあるからなぁ」
「中級なんて、手練れの魔導士がいる冒険者パーティーとか、50人規模の小隊とかが、よっぽどちゃんと下準備して、ようやく退けるのが関の山でしょ? 人間が一人で立ち向かえるかなぁ?」
「伝説は…、まま誇張されている部分があるだろうから、どこまで本当かわからんが…。せめて下級の幻獣族を、一人で撃退出来るぐらいじゃなければ、剣豪を名乗るのはおこがましいと思ってるんだ」
「下級っつっても幻獣族なんて、魔障を防ぐ魔導士がいなきゃ難しいんじゃない?」
「そうだな。だが高性能な魔道具を手に入れられれば、勝機もあるんじゃないか?」
自分の目標やら、憧れに対する理想を語るマハトは、口調や態度に魔導士に対する偏見は感じられず、クロスはホッと胸を撫でおろす。
「ところで、どんどん歩いてるけど、方向こっちであってるの?」
「ああ、俺は地図を持ってる。このもうちょっと先まで行けば街道に出るし、街道沿いに行けば、防護壁のある宿場町があるらしい」
「心強いな」
「クロスさんは冒険者と言っていたが、魔導士で冒険者をやっているのに、ソロなのか?」
「どうも、ヒト付き合いが苦手でね…」
ハハハと笑って、クロスは言葉を濁した。
「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はマハト。ローメン・ラットに憧れて、剣豪を目指している。今は修行中の剣客だ」
ローメン・ラットは、剣豪の祖と呼ばれる伝説の人物である。
圧政で民衆を苦しめた王を討ち取った英雄と伝えられており、剣客はラットが名乗った職と言われている。
とはいえ、どちらも冒険者組合では認定されていない、いわゆる "自称" の職だ。
一般的に、戦士は粗暴な性質な者が多いが、剣豪や剣客を名乗るものは、冒険者組合から追放されたゴロツキである可能性の方が高い。
だが先程のマハトの剣技やこの折り目正しい態度からすると、珍しく "真っ当な" 剣客なのだろう。
「俺はクロス。魔導士の冒険者で…」
そう言ってしまってからクロスはハッとした。
慌てて胸元に下げている身分証を、相手に見えるようにグッと差し出す。
「コ…コレ、魔導組合の身分証!」
この身分証を持っていない魔力持ちは、魔導士と認めてもらえず、モグリや野良を疑われて、場合によってはとんでもない目に遭わせられる可能性がある。
魔導士特有の、相手に言葉を挟ませない早口になりながら、クロスは喋り続けた。
「あ、あのあの、俺、護衛の仕事を済ませた帰りでねっ。それで、あのあの、ち、近道しようと思って森に入ったら、なんか道に迷っちゃってっ!」
「そうか、それは災難だったな」
「そ…その腕前なら、もう剣豪を名乗ってもおかしくなさそうだよね」
とにかく相手を持ち上げて、この場をやり過ごそうと、クロスはやたらと相手を褒めそやした。
「いや、まだまだ修行中だ。ローメン・ラットは、中級幻獣族のクラーケンを一撃で倒したなんて話もあるからなぁ」
「中級なんて、手練れの魔導士がいる冒険者パーティーとか、50人規模の小隊とかが、よっぽどちゃんと下準備して、ようやく退けるのが関の山でしょ? 人間が一人で立ち向かえるかなぁ?」
「伝説は…、まま誇張されている部分があるだろうから、どこまで本当かわからんが…。せめて下級の幻獣族を、一人で撃退出来るぐらいじゃなければ、剣豪を名乗るのはおこがましいと思ってるんだ」
「下級っつっても幻獣族なんて、魔障を防ぐ魔導士がいなきゃ難しいんじゃない?」
「そうだな。だが高性能な魔道具を手に入れられれば、勝機もあるんじゃないか?」
自分の目標やら、憧れに対する理想を語るマハトは、口調や態度に魔導士に対する偏見は感じられず、クロスはホッと胸を撫でおろす。
「ところで、どんどん歩いてるけど、方向こっちであってるの?」
「ああ、俺は地図を持ってる。このもうちょっと先まで行けば街道に出るし、街道沿いに行けば、防護壁のある宿場町があるらしい」
「心強いな」
「クロスさんは冒険者と言っていたが、魔導士で冒険者をやっているのに、ソロなのか?」
「どうも、ヒト付き合いが苦手でね…」
ハハハと笑って、クロスは言葉を濁した。
10
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる