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ep.1:剣闘士の男
9:パンとワイン(2)
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「うむ。結界は古代魔法なので、知識が無いのでは、更に解らんかもしれんな。簡単に言うなら、目に見えない壁を作る術だ」
「壁? じゃあ、ココから出入りが出来ないんですか?」
「土壁のような物理的な制限ではなく、魔術的な方法なので、任意で出入りができる物を選り分ける。今は、身の安全を図れる場を維持するように指示を出した」
「安全…なんですか?」
「うむ。この窪地は昆虫達によって守られているのだよ」
「虫が…ですか?」
「うむ。あの昆虫達は未だ研究の途中なのだが、分泌物や羽音によって、妖魔や獣が嫌うニオイや音を出す。安心して休みたまえ」
「どうしてそんなに僕に気を遣ってくれるんですか」
「興味が湧いたからだ」
アークは窪地の中を見回し、炎が燃えている場所から適当な距離の場所に立ち、炎を作った時と同じように身を屈ませた。
植物もまた妖魔化されて禍々しく変質しており、微量だが毒性を持った雑草となって蔓延っている。
しかし、アークが身を屈ませて地に指先を触れさせた瞬間、柔らかな緑色のオーラが窪地の中に満ち溢れ、瑞々しいクローバーが生い茂る草地へと一変した。
倒木の中に隠れていた虫達は、まるで息が苦しくなったように窪地から逃げ出し、見ると湿っていた倒木が調子のいい背もたれに変貌している。
自身の身を置く場所を整えたアークは、当然といった様子でそこに腰を降ろし、目線だけでファルサーにも座るように促してきた。
なんとなく示されたアークの隣に、ファルサーも腰を降ろす。
そうしてファルサーが落ち着いたところを見計らって、アークが何かを寄越してきた。
何を渡されたのかと見ると、ここ数日食事として提供されていた、あの何とも言いかねるような硬くて味のないパンだった。
「あなたは?」
「必要無い」
「僕のためにわざわざ持ってきてくれたんですか?」
「君が食料を持っているようには見えなかったからだ」
「いただきます」
パンの端を毟って、口に運ぶ。
今まではこのパンの他に、塩味がほとんど無いスープが添えられていた。
口にしていた時にはお湯なのかスープなのか分からないなどと思っていたが、パンだけが提供されて初めて、それでもあっただけマシだったのだと思った。
「ファルサー」
「はい?」
何事かとアークを見ると、今度は瓶を一本差し出されていた。
瓶の口には半分突き出た形でコルクが差されており、引くと簡単に開いた。
塩味のないパンで口の中が乾いていたこともあり、ファルサーは瓶の中身を口に流し込み、次の瞬間、息がつけないほど噎せていた。
「大丈夫かね?」
「これ、なんですか?」
「ワインだと思う」
「だと思う?」
「最近、町の者から貰った」
「そう…ですか…」
その "最近" とは、ファルサーの知る時間にしてどれくらいなのか?
なぜコルクが、簡単に引き抜ける程度にしか刺さっていなかったのか?
最初に良く確認しなかったが、瓶の中身は全量だったのか?
色々と疑問が浮かんだが、アークから返される答えが恐ろしかったので、ファルサーはそれらを問うのを躊躇した。
「かなり刺激的な味わいです」
「もしかして、水のほうが良かったかね?」
「ご厚意には、感謝してます」
それでもぎりぎり酢になるやら腐るやらの一歩手前程度だったので、気をつけて飲めば、ワインのような気がしなくもない。
ファルサーは黙ってパンとワインを平らげた。
「壁? じゃあ、ココから出入りが出来ないんですか?」
「土壁のような物理的な制限ではなく、魔術的な方法なので、任意で出入りができる物を選り分ける。今は、身の安全を図れる場を維持するように指示を出した」
「安全…なんですか?」
「うむ。この窪地は昆虫達によって守られているのだよ」
「虫が…ですか?」
「うむ。あの昆虫達は未だ研究の途中なのだが、分泌物や羽音によって、妖魔や獣が嫌うニオイや音を出す。安心して休みたまえ」
「どうしてそんなに僕に気を遣ってくれるんですか」
「興味が湧いたからだ」
アークは窪地の中を見回し、炎が燃えている場所から適当な距離の場所に立ち、炎を作った時と同じように身を屈ませた。
植物もまた妖魔化されて禍々しく変質しており、微量だが毒性を持った雑草となって蔓延っている。
しかし、アークが身を屈ませて地に指先を触れさせた瞬間、柔らかな緑色のオーラが窪地の中に満ち溢れ、瑞々しいクローバーが生い茂る草地へと一変した。
倒木の中に隠れていた虫達は、まるで息が苦しくなったように窪地から逃げ出し、見ると湿っていた倒木が調子のいい背もたれに変貌している。
自身の身を置く場所を整えたアークは、当然といった様子でそこに腰を降ろし、目線だけでファルサーにも座るように促してきた。
なんとなく示されたアークの隣に、ファルサーも腰を降ろす。
そうしてファルサーが落ち着いたところを見計らって、アークが何かを寄越してきた。
何を渡されたのかと見ると、ここ数日食事として提供されていた、あの何とも言いかねるような硬くて味のないパンだった。
「あなたは?」
「必要無い」
「僕のためにわざわざ持ってきてくれたんですか?」
「君が食料を持っているようには見えなかったからだ」
「いただきます」
パンの端を毟って、口に運ぶ。
今まではこのパンの他に、塩味がほとんど無いスープが添えられていた。
口にしていた時にはお湯なのかスープなのか分からないなどと思っていたが、パンだけが提供されて初めて、それでもあっただけマシだったのだと思った。
「ファルサー」
「はい?」
何事かとアークを見ると、今度は瓶を一本差し出されていた。
瓶の口には半分突き出た形でコルクが差されており、引くと簡単に開いた。
塩味のないパンで口の中が乾いていたこともあり、ファルサーは瓶の中身を口に流し込み、次の瞬間、息がつけないほど噎せていた。
「大丈夫かね?」
「これ、なんですか?」
「ワインだと思う」
「だと思う?」
「最近、町の者から貰った」
「そう…ですか…」
その "最近" とは、ファルサーの知る時間にしてどれくらいなのか?
なぜコルクが、簡単に引き抜ける程度にしか刺さっていなかったのか?
最初に良く確認しなかったが、瓶の中身は全量だったのか?
色々と疑問が浮かんだが、アークから返される答えが恐ろしかったので、ファルサーはそれらを問うのを躊躇した。
「かなり刺激的な味わいです」
「もしかして、水のほうが良かったかね?」
「ご厚意には、感謝してます」
それでもぎりぎり酢になるやら腐るやらの一歩手前程度だったので、気をつけて飲めば、ワインのような気がしなくもない。
ファルサーは黙ってパンとワインを平らげた。
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