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ep.1:剣闘士の男
8:好奇心(1)
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浜から少し歩いたところに、廃墟があった。
ただ打ち捨てられたような感じは無く、明らかにドラゴンとの攻防が見て取れる、家屋や機材を打ち壊された跡が残っている。
だが、ファルサーはそれらを見ても怖じけること無く、どんどんと森へ向かう。
廃墟から森に続く道は、元は採掘坑から鉱石を運び出す時に使われていたものらしく、整地された形跡があった。
長年使われずに放置された道は、重い荷馬車に踏み固められた轍の跡を除けば殆どが雑草によって埋もれている。
更に進んで森に入ると、道はますます見分けが難しくなった。
そして湖と同様に、妖魔化した森の生き物にも警戒しなければならず、なかなか前には進めなかった。
「暗いな…」
グラディウスで突き出ている枝を叩き折ったところで、ファルサーは独り言のように呟いた。
「森に来たことは無いのかね?」
「僕は、闘技場の外に出たコトが殆ど無いので、こういう場所は不慣れなんです」
「君の言う闘技場という場所は、野外劇場のような物を想像していたんだが。そこに寝泊まりまでするのかね?」
「ええっと…、すみません。僕は学が無くて…。ヤガイゲキジョウってなんですか?」
「うむ。私も書籍に掲載されていた挿絵程度の知識しかないが、アリーナと呼ばれる平地を中心に、周囲を階段状の、集まった者が観覧しやすい構造にした、巨大な建物だそうだ。ルナテミスのある山の頂上付近に、似た形の遺跡があるが、そこは中央に非常に大きな平たい巨石を据えてあるので、違うかもしれない」
「闘技場の試合を披露する場所は、そんな形ですね。ただ、近隣の宿舎や訓練場なども含めて、闘技場って呼んでいるんです」
「なるほど、宿舎を置いて剣闘士の管理もしているのだね」
「宿舎とは名ばかりの、監視の緩い獄舎のようなものですけどね。一部の者を除いて、ほとんどがそこで家族ともども暮らしてますよ」
「その、除かれた一部の者とは?」
「反抗的で逃亡の可能性がある者は、本当の獄舎に閉じ込められています。逆に功績を認められて准市民になったり、出資者が付いて私物の剣闘士になった者なんかは、宿舎を出て市内で部屋を与えられたり、出資者の屋敷で暮らしたりしてますね。僕はまだ駆け出しだから、そこそこ名前が売れ始めたばっかりなので、出資者もいません。だから、宿舎の外に出る機会はあんまりなかったんです」
「その機会が、ドラゴン討伐か?」
アークの答えに、ファルサーは自嘲気味に笑んだ。
「結果的に、現在はそうなってしまいましたね。他にも、貴族が自身の荘園で特別な試合をセッティングした時に、選抜メンバーに選ばれたりすると出掛けました。でも、だいたいは道が整備されたところを通るので、道の悪い場所や森なんかは、この旅で初めて経験しました」
「君は、死を賭して戦うと言っていたが。その闘技場の中にはどれぐらいの数の剣闘士が暮らしていたのかね?」
「いや、死を賭してと言っても、毎試合死人が出るワケじゃないんです。試合運びが面白くなくて観客の不興を買えば、例え勝っても死の制裁が下されるコトもあるケド。でもあくまでメインはショーですから、そんなにどんどん死なれたら、運営が出来なくなってしまう」
「なるほど、剣闘士の数はある程度維持しなければならないのだな」
アークは、昨日と同じように好奇心旺盛な様子で話を聞いている。
どうやら自分の知らない知識に遭遇すると、こうした態度になるらしい。
「頻繁に死者が出たらマンネリ化を招いて、せっかく育てた剣闘士の命掛けの舞台でも、観客の興味を引けなくなってしまいます。王が、民衆からの人気を得るために開催するショーですから、そうなっては元も子もありません」
「なかなか興味深い話だ」
なるほどと言った顔で、アークは頷いた。
ただ打ち捨てられたような感じは無く、明らかにドラゴンとの攻防が見て取れる、家屋や機材を打ち壊された跡が残っている。
だが、ファルサーはそれらを見ても怖じけること無く、どんどんと森へ向かう。
廃墟から森に続く道は、元は採掘坑から鉱石を運び出す時に使われていたものらしく、整地された形跡があった。
長年使われずに放置された道は、重い荷馬車に踏み固められた轍の跡を除けば殆どが雑草によって埋もれている。
更に進んで森に入ると、道はますます見分けが難しくなった。
そして湖と同様に、妖魔化した森の生き物にも警戒しなければならず、なかなか前には進めなかった。
「暗いな…」
グラディウスで突き出ている枝を叩き折ったところで、ファルサーは独り言のように呟いた。
「森に来たことは無いのかね?」
「僕は、闘技場の外に出たコトが殆ど無いので、こういう場所は不慣れなんです」
「君の言う闘技場という場所は、野外劇場のような物を想像していたんだが。そこに寝泊まりまでするのかね?」
「ええっと…、すみません。僕は学が無くて…。ヤガイゲキジョウってなんですか?」
「うむ。私も書籍に掲載されていた挿絵程度の知識しかないが、アリーナと呼ばれる平地を中心に、周囲を階段状の、集まった者が観覧しやすい構造にした、巨大な建物だそうだ。ルナテミスのある山の頂上付近に、似た形の遺跡があるが、そこは中央に非常に大きな平たい巨石を据えてあるので、違うかもしれない」
「闘技場の試合を披露する場所は、そんな形ですね。ただ、近隣の宿舎や訓練場なども含めて、闘技場って呼んでいるんです」
「なるほど、宿舎を置いて剣闘士の管理もしているのだね」
「宿舎とは名ばかりの、監視の緩い獄舎のようなものですけどね。一部の者を除いて、ほとんどがそこで家族ともども暮らしてますよ」
「その、除かれた一部の者とは?」
「反抗的で逃亡の可能性がある者は、本当の獄舎に閉じ込められています。逆に功績を認められて准市民になったり、出資者が付いて私物の剣闘士になった者なんかは、宿舎を出て市内で部屋を与えられたり、出資者の屋敷で暮らしたりしてますね。僕はまだ駆け出しだから、そこそこ名前が売れ始めたばっかりなので、出資者もいません。だから、宿舎の外に出る機会はあんまりなかったんです」
「その機会が、ドラゴン討伐か?」
アークの答えに、ファルサーは自嘲気味に笑んだ。
「結果的に、現在はそうなってしまいましたね。他にも、貴族が自身の荘園で特別な試合をセッティングした時に、選抜メンバーに選ばれたりすると出掛けました。でも、だいたいは道が整備されたところを通るので、道の悪い場所や森なんかは、この旅で初めて経験しました」
「君は、死を賭して戦うと言っていたが。その闘技場の中にはどれぐらいの数の剣闘士が暮らしていたのかね?」
「いや、死を賭してと言っても、毎試合死人が出るワケじゃないんです。試合運びが面白くなくて観客の不興を買えば、例え勝っても死の制裁が下されるコトもあるケド。でもあくまでメインはショーですから、そんなにどんどん死なれたら、運営が出来なくなってしまう」
「なるほど、剣闘士の数はある程度維持しなければならないのだな」
アークは、昨日と同じように好奇心旺盛な様子で話を聞いている。
どうやら自分の知らない知識に遭遇すると、こうした態度になるらしい。
「頻繁に死者が出たらマンネリ化を招いて、せっかく育てた剣闘士の命掛けの舞台でも、観客の興味を引けなくなってしまいます。王が、民衆からの人気を得るために開催するショーですから、そうなっては元も子もありません」
「なかなか興味深い話だ」
なるほどと言った顔で、アークは頷いた。
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扉絵:葵浩サマ:AK-studio
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