6 / 90
ep.1:剣闘士の男
4:ヒトならざる者(1)
しおりを挟む
「いや驚いた、あんな凄い風呂場を、どうやって作ったんです?!」
部屋に戻ったファルサーは、そこに居たアークにやや興奮気味に話しかけた。
「私がそんな土木労働をするような、物好きに見えるかね?」
「物好きかどうかはともかく、労働をするようなタイプには見えないな」
「そうだろうな。そこに食事を用意した。物足りなかった場合は言ってくれれば、追加を用意する」
テーブルの上には、パンとスープが置かれていた。
「いただこう」
ファルサーは椅子に腰を降ろし、食事に手を付けた。
手に取ったパンは石のように堅く、スープは熱々だったが味が殆どしない。
だがファルサーはそのことに文句は言わなかった。
アークは部屋の奥にある調合台に向かって、なにやら作業をしている。
「ここに、ずっと独りで?」
食事をしながら、ファルサーはなんとなく作業をしているアークに話し掛ける。
「そうだ」
「寂しくはないのか?」
「独りのほうが、気兼ねがなくて良い」
アークの返事は素っ気なかったが、話し掛けられることを拒絶している様子では無い。
「何の作業をしてるんだ?」
「薬の調合だ」
「秘薬か何かの?」
「ただの血止めの軟膏や、咳止めのドロップだ」
「僕が集めていた植物は、それに使われているのか?」
「一部はな」
「それを、どうする?」
「町の市場に持っていく。ただの暇つぶしだ」
「収入ではなくて?」
「収入など、必要無い」
奇妙な返事だな…とファルサーは思った。
しかし一方で、どれほど整えられた軍隊であっても、湖を渡るにはアークの手を借りねばならないとの話を、此処に来る前に聞かされていたから、そんなものなのかもしれないな…とも考えた。
島に棲むドラゴンは非常に危険な妖魔で、ちょっとした軍備を所持しているならば、この近隣で被害を受けた歴史を持たない国は無い。
過去においては、各国の協力の下、大掛かりな討伐隊が編成され派遣されたが、未だ討伐されること無く、棲み続けている。
強国が所有する巨大な弩から打ち出された、鉄製の矢を受けてなお傷一つつかず、射掛けられたそれを噛み砕き、あまつさえそれら鉄製の巨大な武器を、口から放つ火炎で易々と溶解し食らったと言う。
また周囲への魔気も討伐の際の障害になっていて、最大規模の遠征時には、魔障を防ぐために100人以上の高位魔導士を揃えたとも伝えられている。
簡単に言えば殲滅させることが不可能な最上級の幻獣族であり、どんな周到な準備をした軍隊であっても、最後は這々の体で逃げていくのがお決まりのパターンと言われている。
そんな軍隊でさえも、湖を渡るためには "隠者のビショップ" の手を借りねばならない…と、ファルサーにアークの存在を教えた老爺が語っていたのを思い出す。
更にアークは、ファルサーに対して渡航するのに具体的な金額を請求しなかったことも考え合わせると、それらの軍が渡航する時にかなりの金額を渡されたのだろうな…と想像出来た。
部屋に戻ったファルサーは、そこに居たアークにやや興奮気味に話しかけた。
「私がそんな土木労働をするような、物好きに見えるかね?」
「物好きかどうかはともかく、労働をするようなタイプには見えないな」
「そうだろうな。そこに食事を用意した。物足りなかった場合は言ってくれれば、追加を用意する」
テーブルの上には、パンとスープが置かれていた。
「いただこう」
ファルサーは椅子に腰を降ろし、食事に手を付けた。
手に取ったパンは石のように堅く、スープは熱々だったが味が殆どしない。
だがファルサーはそのことに文句は言わなかった。
アークは部屋の奥にある調合台に向かって、なにやら作業をしている。
「ここに、ずっと独りで?」
食事をしながら、ファルサーはなんとなく作業をしているアークに話し掛ける。
「そうだ」
「寂しくはないのか?」
「独りのほうが、気兼ねがなくて良い」
アークの返事は素っ気なかったが、話し掛けられることを拒絶している様子では無い。
「何の作業をしてるんだ?」
「薬の調合だ」
「秘薬か何かの?」
「ただの血止めの軟膏や、咳止めのドロップだ」
「僕が集めていた植物は、それに使われているのか?」
「一部はな」
「それを、どうする?」
「町の市場に持っていく。ただの暇つぶしだ」
「収入ではなくて?」
「収入など、必要無い」
奇妙な返事だな…とファルサーは思った。
しかし一方で、どれほど整えられた軍隊であっても、湖を渡るにはアークの手を借りねばならないとの話を、此処に来る前に聞かされていたから、そんなものなのかもしれないな…とも考えた。
島に棲むドラゴンは非常に危険な妖魔で、ちょっとした軍備を所持しているならば、この近隣で被害を受けた歴史を持たない国は無い。
過去においては、各国の協力の下、大掛かりな討伐隊が編成され派遣されたが、未だ討伐されること無く、棲み続けている。
強国が所有する巨大な弩から打ち出された、鉄製の矢を受けてなお傷一つつかず、射掛けられたそれを噛み砕き、あまつさえそれら鉄製の巨大な武器を、口から放つ火炎で易々と溶解し食らったと言う。
また周囲への魔気も討伐の際の障害になっていて、最大規模の遠征時には、魔障を防ぐために100人以上の高位魔導士を揃えたとも伝えられている。
簡単に言えば殲滅させることが不可能な最上級の幻獣族であり、どんな周到な準備をした軍隊であっても、最後は這々の体で逃げていくのがお決まりのパターンと言われている。
そんな軍隊でさえも、湖を渡るためには "隠者のビショップ" の手を借りねばならない…と、ファルサーにアークの存在を教えた老爺が語っていたのを思い出す。
更にアークは、ファルサーに対して渡航するのに具体的な金額を請求しなかったことも考え合わせると、それらの軍が渡航する時にかなりの金額を渡されたのだろうな…と想像出来た。
11
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる