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第五部:ロイ

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 約束の場所に現れたロイは、ハリーに車を借りたらしく、ウィリアムも見た事のある日本製のセダンに乗ってきた。

「おはよう、キッド君。昨日はよく眠れたかい?」

 運転席を降りたロイの第一声に、ウィリアムは思わず顔をしかめた。

「そりゃ一体、どういう意味だよ?」
「だってほら、よく聞くじゃない。遠足の前の日は、興奮して眠れないって。外見に似合わずガールフレンドのいないキミのコトだから、女の子を連れてのお出かけなんて緊張しちゃったかなって、思ってさ」

 やっぱり、来るんじゃなかった。と思っても、それは後の祭りというもので。

「ビリーさん、おはよう」

 助手席から降り立ったエリザベスは、スッキリとした薄いピンクのワンピース姿でウィリアムに微笑みかける。

「あ、おはようございます」

 可愛らしい笑みに焦りつつ、まるで上司に出会った時のように敬礼までしているウィリアムに、エリザベスはクスクスと笑った。

「いやだ、ビリーさん。私、パパじゃないのよ」
「リズ、キッド君はハリーに会った方がよっぽど普通に挨拶するよ」
「えっ、そうなの? なぁに、それじゃあ私の方がパパよりエライのかしら?」
「さぁ、どうだか。キッド君に訊いてみたら?」

 いたずらっ子そのままの瞳で、チラリと自分を見たエリザベスに、ウィリアムは余計に焦ってしまったようだった。

「ねェ、ビリーさん?」
「え…、えーと、えーと…」

 両手を後ろに組んで、エリザベスは茶目っ気たっぷりの笑みのままでウィリアムに迫る。
 顔を赤らめて、応対に戸惑うウィリアムをチラと見てから、ロイはポケットから懐中時計を取り出してパチンと蓋を開いた。

「少し、早かったかな?」

 辺りを見回し、まだリンダが来ていない事を確かめてから、ロイは時計を収めたポケットからタバコを取り出した。

「あら? イヤだ、ロイッてば。やっぱり外では吸っていたのね」

 ウィリアムからピョコンと離れ、エリザベスはロイの手からマルボロの箱を取り上げた。

「リズまで、リサみたいなコト言うの? ちゃんとエチケットは守っているんだから、それほど責められる謂れはない筈なんだけどなぁ」
「ダメよ。パパも言っていたじゃない、ロイは顔立ちが子供っぽいから補導でもされたら大変だって」

 二人の会話に、ウィリアムは思わず吹き出してしまった。

「あ、キッド君、笑ったね」
「だって…っ、主任、それヒットだよっ! 確かに、…アンタの顔じゃあ補導られるかもしれねェやっ!」
「ひどいなぁ、もう。…解りました。ちゃんと禁煙しますよ。でも、そうすると折角リズに貰ったジッポーが、無用の長物になっちゃうよ?」
「それは、…まぁいいわ。仕方ないもの。じゃあコレも返してあげる。この箱で最後にするのよ?」
「ハイハイ。…まったく、最近リサ似の部分に拍車が掛かって、やりにくいったらありゃしないよ」

 肩を竦めたロイが、くわえたタバコに火をつけようとすると、三人の中に割り込むように手が差し出された。

「もしかして、あたいが一番最後だった?」
「いや、遅刻はしてないよ。サンキューリンダ」

 リンダが灯したライターの火を貰い、ロイは吸い込んだ煙をウィリアムの顔にフゥッと吹き付ける。

「それじゃあ、面子が揃ったところで出かけましょうか?」

 咳込むウィリアムを後に、ロイは運転席に乗り込んだ。

「大丈夫? ビリーさん」
「ああ、大丈夫…」
「刑事さん、相変わらずやられっぱなしなんだねェ」
「なんだよ、もう。フォローもなしか? 勤め先を探してやった俺に対して、ずいぶん薄情じゃないか」
「身元を引き受けてくれたのは、マクミラン主任さんだよ。主任さんが見つけてくれた職場に、刑事サンが案内してくれただけだって事も、知ってるんだよ?」

 ピッと顔を覗き込まれ、ウィリアムはばつの悪い表情になる。

「まぁ、今日は一日よろしくね」

 ウィリアムの背中を軽く叩き、リンダは後ろ座席に乗り込んだ。

「じゃあ、私も後ろに乗るわ」

 そう言ってリンダの後に続いたエリザベスが、完全に乗った事を確かめてから、ウィリアムは後部シートの扉を閉めた。

「お手柔らかに、安全運転で頼むぜ」

 助手席に乗り込んだウィリアムは、シートベルトをしてからロイの方をチラリと見る。

「さぁ、どうでしょうねェ。ちゃんと道交法を守っていても、僕の顔が童顔だから、捕まるかもしれないからねェ」
「…根に持つなよ。…笑って、悪かった」

 謝るウィリアムに、ロイはニィッと笑って見せてからアクセルを踏み込んだ。
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