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第四部:ビリー

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 先輩に頼まれたファイリングをする為に、ウィリアムは資料室でうなっていた。

「どうしたビリー、先刻からちっとも進んでないようだが?」

 資料室の主であるマクレガー老人が、頭を抱えているウィリアムの背後からのぞき込む。

「俺ってどうにも、コンピューターってヤツと愛称が悪いんすよ。あ~あ、まぁたエラーになっちまった」

 甲高い電子音を立てて、画面が赤と白の点滅を繰り返す。

「オマエさんの方が全然若いんだぞ。もっと機械に馴染める筈だがなぁ」
「なんか懐かないんすよねェ。コイツは…」

 再びエラー音。
 ウィリアムは頭を掻きむしった。

「あーっ、やだっ! もー、ヤダッ! こうなったらルイス先輩には自分でやってもらうっきゃねェな」
「ははぁん、ルイスに頼まれたのか。それじゃあ、突き返すのは無理だな。アイツもコレにはからきしだから」

 マクレガー老人は、声を立てて笑った。

「勘弁して下さいよぅ」
「キッド君、うるさい」

 不意にマクレガー以外の、しかもあまり会いたくない人物の声が聞こえ、ウィリアムはビックリして振り返った。
 コンピューターがズラリと並んだ部屋の奥に、ひょこりとロイが顔を出している。

「あっ、オマエなんだって資料室なんかに…」

 しかし、ウィリアムの問いに答える事なく、ロイはスッと頭を引っ込めた。

「マクレガーさん、良いんですか!? あんな、部外者…」
「ロイはちゃんとハリーの承諾を得ているから、なんの問題も無いぞ。原稿を書くのに、少し資料が見たいんだそうだ」

 ウィリアムは少しばかりムッと拗ねた表情をする。

「アイツになんか、見せる必要ないですよ」
「ロイの方がオマエさんよりずっとコイツらの扱いは上手いぞ。教わった方が良いんじゃないか?」

 マクレガー老人はニッと意地の悪い笑みを見せ、自分の仕事をしに部署に戻ってしまった。
 取り残されたウィリアムは、自分の仕事をする気にもなれず、チラリと部屋の奥に視線を送る。
 ロイのいるあたりから、キーボードを叩く軽快な音と、時折マウスを扱うクリック音などが聞こえるが、エラー音はしない。
 なんだかひどく理不尽な気持ちで、ウィリアムはロイの所へ向かった。

「おい、なにしてるんだ?」
「邪魔しないでくれる。コレでも僕は今、仕事してるんだから」
「主任の顔で出入りしてるクセに…」
「コネも仕事のウチだよ。…そういうキッド君はヒマなの?」
「俺は他の連中みたく、オマエを全面的に肯定する気はねェんだ。ルポライターなんて、ブンヤの親戚じゃねェか。どんな記事書いてるのか、見せてもらおうと思ってね」

 腕組みをして威嚇をするように立つウィリアムに、ロイは視線を向けてさえ来ない。

「今、記事を書いてるワケじゃないよ。古い資料を見せて…」

 突然言葉を切ったロイは、ひどく強張った顔をしている。

「おい、どうした?」
「キッド君、ハリーは署内にいるの?」
「へっ? 主任? …俺が資料室に来る時は、デスクにいたと思うケド…?」

 ロイは立ち上がると、ウィリアムを押しのけて早足で扉に向かう。
 そのあまりの剣幕に驚いて、ウィリアムは咄嗟に後を追った。

「おい、どうしたんだっ?」

 ハリーとウィリアムの所属部署の部屋に、ロイは無言のまま突進した。
 そしてひどく乱暴に扉を開けると、室内をグルリと見回す。

「ルイス、ハリーは何処?」

 丁度コーヒーを煎れてデスクに戻りかけていたハリーの部下を捕まえて、ロイはずいぶんと急いた調子で問いかけた。

「よう、ロイ。主任なら先刻、電話で呼び出されて出かけたぞ」
「電話? 若い女の?」
「ん? ああ、そうらしい。なんだか、警察にイタズラ電話をかけるようなヤツには、きっちり灸を据えてやるとか言って、息巻いて出かけてったぞ」

 ルイスの返事に、ロイの表情はますます強張ったものになった。

「行き先、なんか聞いてない?」
「なんか変な場所だったぞ。埠頭の方の倉庫街だってさ。一人じゃヤバくないかって訊いても、大した事ないって言って三十分くらい前に出たぞ…」
「ルイスッ、悪いケド車借りるからっ!」
「あぁ? ロイ?」

 一言残し、ロイはルイスの机の上にあった車のキーを掴むと、弾かれたように走っていってしまう。
 またしても突き飛ばされたウィリアムは、姿勢を戻して慌てて扉に飛びついた。

「おい、ビリー。お前、ファイルは?」
「スイマセン、先輩。後は自分でお願いしますっ!」

 一瞬だけ振り返り、ウィリアムはロイの後を追っていってしまう。

「いったい、なんなんだ?」

 ルイスは激しい音と共に閉められた扉を、ポカンとした顔で見つめていた。
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