Black/White

RU

文字の大きさ
上 下
66 / 89
第四部:ビリー

17

しおりを挟む
 その日、マクミラン邸は久しぶりに家族揃っての夕食になった。

「たまにはパパの顔を見ながらのお夕食も、楽しいわよね」

 娘の言葉に、ハリーは少しばかり困ったような顔をする。

「そりゃあパパだって、いつもこうしてリズやママと一緒に食事がしたいケド、悪い人がいっぱいいるからね…」
「じゃあ、今日は珍しくいなかったワケだ」
「まぁ、いないというか…。落ちついてるのさ。この間から追ってるバラバラ殺人の捜査も行き詰まってきちゃってるし、コレと言った事件も起きてないしねェ」
「それってつまり、悪い人が減ったんじゃなくて、警察の怠慢なんじゃないの?」

 ロイの言い様に、さすがにハリーはムッとした。

「ロイはそんなに、僕と向かい合って食事をするのがイヤなの?」
「いや、別に。でもそんなに世の中が平和なのかなってさ」
「小さな事件はあるさ。今日だって署内で妙な事があったし…」
「妙な事? イヤだ、署内でなにか事件でもあったの?」

 不安気な妻に、ハリーは慌てて首を振った。

「そんな、大した事じゃないんだよ。ただ、ここ立て続けに『ハリー』って名前の署員が、電話で呼び出されているんだって。初めのウチは誰も気にしていなかったんだけど、さすがに五人も六人もとなると、ウワサになるからね」
「なぁにそれ? パパも呼ばれたの?」
「いや、パパはまだ…って言うか、パパにまでかかってくるかどうか判らないんだ」
「他に、手がかりはないの?」
「う…ん…。あんまりみんなにからかわれるもんだから、少し調べてみたんだよ。そうしたらね、ちょっと妙な事が解って…」
「なんだい?」
「まずその電話をもらったっていう連中はね、名前が『ハリー』で、僕と同世代の金髪碧眼、かかってきた電話は若い女の子の声で、呼び出されて行ってもただ待ちぼうけを食うだけで、誰も来ないんだそうだよ」
「なんだか気味が悪い話ね。…それにアナタ、その共通点に一致しているじゃない? 嫌な事にならなければ良いケド…」
「別に大した事じゃないさ。確かにあんまり気分の良い話じゃないケド、でも僕は大丈夫だよ」

 妻の不安を拭おうと、ハリーは強気に笑って見せた。

「それ、いつから?」
「えっ?」

 不意に真面目な声で訊ねてきたロイに、ハリーは怪訝な顔を向ける。

「ロイ、なんか心当たりでもあるの?」
「もし僕に心当たりがあるなら、ここでキミに話してるよ」
「…まぁ、そういう事にしておこうか。…最初は一週間くらい前からだと思うよ。アダムスに、クレイトンに、ガブリエルに、ジョーンズに…」
「それ、呼び出された順?」
「うん、それが?」

 ロイはふうんと頷いた。

「見事にアルファベット順なワケだ」
「えぇ? あ、そういえば…」
「ACGJ…、この後にその条件に該当するハリーさんで、Mの前の人いるの?」
「…いや、たぶんいないと思うよ」
「それじゃ、せいぜい気を付けるんだね。マクミラン主任」

 ニィっと笑ったロイに、ハリーは苦い顔をする。

「やぁだ、パパったら若い女の子に呼び出されて、ノコノコ出かけちゃダメよ」
「リズ、それどういう意味だよ」
「あ、パパったら顔が赤いわ。ママ、パパは若い女の子の呼び出しに鼻の下のばしてるわよ。どうする?」
「大丈夫。口紅なんか付けて帰ってきたら、家には入れませんから」
「ちょっと、リサ、一緒になってなに言ってるんだよ、もう…」
「それだけ家庭内で父親の立場は無いってコトさ。さて…と、ごちそうさま。僕ちょっと原稿が残ってるから、部屋に戻らせてもらうね」

 席を立ったロイは、リサとリズの頬にキスをしてダイニングを出ていった。

「つまんなぁい、食事の後に課題を見てくれる約束だったのに…」
「代わりにパパが見てあげるよ」
「だって…」

 ぷっくりと頬を膨らませた娘に、ハリーはやれやれと溜息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

マエストロ神楽坂 de リサイタル

RU
ライト文芸
Twitterでの企画「ルクイユ」にて、いつも遊んで頂いている方々のキャラをお借りした「お祭り」感覚の短編です。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...