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第四部:ビリー
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その日、マクミラン邸は久しぶりに家族揃っての夕食になった。
「たまにはパパの顔を見ながらのお夕食も、楽しいわよね」
娘の言葉に、ハリーは少しばかり困ったような顔をする。
「そりゃあパパだって、いつもこうしてリズやママと一緒に食事がしたいケド、悪い人がいっぱいいるからね…」
「じゃあ、今日は珍しくいなかったワケだ」
「まぁ、いないというか…。落ちついてるのさ。この間から追ってるバラバラ殺人の捜査も行き詰まってきちゃってるし、コレと言った事件も起きてないしねェ」
「それってつまり、悪い人が減ったんじゃなくて、警察の怠慢なんじゃないの?」
ロイの言い様に、さすがにハリーはムッとした。
「ロイはそんなに、僕と向かい合って食事をするのがイヤなの?」
「いや、別に。でもそんなに世の中が平和なのかなってさ」
「小さな事件はあるさ。今日だって署内で妙な事があったし…」
「妙な事? イヤだ、署内でなにか事件でもあったの?」
不安気な妻に、ハリーは慌てて首を振った。
「そんな、大した事じゃないんだよ。ただ、ここ立て続けに『ハリー』って名前の署員が、電話で呼び出されているんだって。初めのウチは誰も気にしていなかったんだけど、さすがに五人も六人もとなると、ウワサになるからね」
「なぁにそれ? パパも呼ばれたの?」
「いや、パパはまだ…って言うか、パパにまでかかってくるかどうか判らないんだ」
「他に、手がかりはないの?」
「う…ん…。あんまりみんなにからかわれるもんだから、少し調べてみたんだよ。そうしたらね、ちょっと妙な事が解って…」
「なんだい?」
「まずその電話をもらったっていう連中はね、名前が『ハリー』で、僕と同世代の金髪碧眼、かかってきた電話は若い女の子の声で、呼び出されて行ってもただ待ちぼうけを食うだけで、誰も来ないんだそうだよ」
「なんだか気味が悪い話ね。…それにアナタ、その共通点に一致しているじゃない? 嫌な事にならなければ良いケド…」
「別に大した事じゃないさ。確かにあんまり気分の良い話じゃないケド、でも僕は大丈夫だよ」
妻の不安を拭おうと、ハリーは強気に笑って見せた。
「それ、いつから?」
「えっ?」
不意に真面目な声で訊ねてきたロイに、ハリーは怪訝な顔を向ける。
「ロイ、なんか心当たりでもあるの?」
「もし僕に心当たりがあるなら、ここでキミに話してるよ」
「…まぁ、そういう事にしておこうか。…最初は一週間くらい前からだと思うよ。アダムスに、クレイトンに、ガブリエルに、ジョーンズに…」
「それ、呼び出された順?」
「うん、それが?」
ロイはふうんと頷いた。
「見事にアルファベット順なワケだ」
「えぇ? あ、そういえば…」
「ACGJ…、この後にその条件に該当するハリーさんで、Mの前の人いるの?」
「…いや、たぶんいないと思うよ」
「それじゃ、せいぜい気を付けるんだね。マクミラン主任」
ニィっと笑ったロイに、ハリーは苦い顔をする。
「やぁだ、パパったら若い女の子に呼び出されて、ノコノコ出かけちゃダメよ」
「リズ、それどういう意味だよ」
「あ、パパったら顔が赤いわ。ママ、パパは若い女の子の呼び出しに鼻の下のばしてるわよ。どうする?」
「大丈夫。口紅なんか付けて帰ってきたら、家には入れませんから」
「ちょっと、リサ、一緒になってなに言ってるんだよ、もう…」
「それだけ家庭内で父親の立場は無いってコトさ。さて…と、ごちそうさま。僕ちょっと原稿が残ってるから、部屋に戻らせてもらうね」
席を立ったロイは、リサとリズの頬にキスをしてダイニングを出ていった。
「つまんなぁい、食事の後に課題を見てくれる約束だったのに…」
「代わりにパパが見てあげるよ」
「だって…」
ぷっくりと頬を膨らませた娘に、ハリーはやれやれと溜息をついた。
「たまにはパパの顔を見ながらのお夕食も、楽しいわよね」
娘の言葉に、ハリーは少しばかり困ったような顔をする。
「そりゃあパパだって、いつもこうしてリズやママと一緒に食事がしたいケド、悪い人がいっぱいいるからね…」
「じゃあ、今日は珍しくいなかったワケだ」
「まぁ、いないというか…。落ちついてるのさ。この間から追ってるバラバラ殺人の捜査も行き詰まってきちゃってるし、コレと言った事件も起きてないしねェ」
「それってつまり、悪い人が減ったんじゃなくて、警察の怠慢なんじゃないの?」
ロイの言い様に、さすがにハリーはムッとした。
「ロイはそんなに、僕と向かい合って食事をするのがイヤなの?」
「いや、別に。でもそんなに世の中が平和なのかなってさ」
「小さな事件はあるさ。今日だって署内で妙な事があったし…」
「妙な事? イヤだ、署内でなにか事件でもあったの?」
不安気な妻に、ハリーは慌てて首を振った。
「そんな、大した事じゃないんだよ。ただ、ここ立て続けに『ハリー』って名前の署員が、電話で呼び出されているんだって。初めのウチは誰も気にしていなかったんだけど、さすがに五人も六人もとなると、ウワサになるからね」
「なぁにそれ? パパも呼ばれたの?」
「いや、パパはまだ…って言うか、パパにまでかかってくるかどうか判らないんだ」
「他に、手がかりはないの?」
「う…ん…。あんまりみんなにからかわれるもんだから、少し調べてみたんだよ。そうしたらね、ちょっと妙な事が解って…」
「なんだい?」
「まずその電話をもらったっていう連中はね、名前が『ハリー』で、僕と同世代の金髪碧眼、かかってきた電話は若い女の子の声で、呼び出されて行ってもただ待ちぼうけを食うだけで、誰も来ないんだそうだよ」
「なんだか気味が悪い話ね。…それにアナタ、その共通点に一致しているじゃない? 嫌な事にならなければ良いケド…」
「別に大した事じゃないさ。確かにあんまり気分の良い話じゃないケド、でも僕は大丈夫だよ」
妻の不安を拭おうと、ハリーは強気に笑って見せた。
「それ、いつから?」
「えっ?」
不意に真面目な声で訊ねてきたロイに、ハリーは怪訝な顔を向ける。
「ロイ、なんか心当たりでもあるの?」
「もし僕に心当たりがあるなら、ここでキミに話してるよ」
「…まぁ、そういう事にしておこうか。…最初は一週間くらい前からだと思うよ。アダムスに、クレイトンに、ガブリエルに、ジョーンズに…」
「それ、呼び出された順?」
「うん、それが?」
ロイはふうんと頷いた。
「見事にアルファベット順なワケだ」
「えぇ? あ、そういえば…」
「ACGJ…、この後にその条件に該当するハリーさんで、Mの前の人いるの?」
「…いや、たぶんいないと思うよ」
「それじゃ、せいぜい気を付けるんだね。マクミラン主任」
ニィっと笑ったロイに、ハリーは苦い顔をする。
「やぁだ、パパったら若い女の子に呼び出されて、ノコノコ出かけちゃダメよ」
「リズ、それどういう意味だよ」
「あ、パパったら顔が赤いわ。ママ、パパは若い女の子の呼び出しに鼻の下のばしてるわよ。どうする?」
「大丈夫。口紅なんか付けて帰ってきたら、家には入れませんから」
「ちょっと、リサ、一緒になってなに言ってるんだよ、もう…」
「それだけ家庭内で父親の立場は無いってコトさ。さて…と、ごちそうさま。僕ちょっと原稿が残ってるから、部屋に戻らせてもらうね」
席を立ったロイは、リサとリズの頬にキスをしてダイニングを出ていった。
「つまんなぁい、食事の後に課題を見てくれる約束だったのに…」
「代わりにパパが見てあげるよ」
「だって…」
ぷっくりと頬を膨らませた娘に、ハリーはやれやれと溜息をついた。
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