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第四部:ビリー

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 人影の少ないハイスクールの校舎。夕暮れ時のオレンジ色に染まった廊下を、靴音を響かせて歩くシルエット。
 教室の扉を開き、ロイは中を見回した。

「リズッ」

 室内に居残っていた数人が、話をやめて振り返った。

「あら、ナイトのお出ましよ。コレで帰れるわ」

 ブルネットの髪を、負けん気の強そうなボブに刈った少女が椅子から立ち上がると、彼女の周りにいた二人の少女も慌てて鞄を持った。

「なぁにそれ。ロイに一目会いたくて待っていたのはジュディじゃない」

 クスクスと笑う少女の肩で、ストレートのプラチナブロンドが夕日と同じオレンジに染まっている。

「なによう、キャシーってば。あなただって早く来ないかしらって言っていたじゃあないの」

 プッと頬を膨らませるジュディに、キャシーは面白そうに笑う。

「ほらリズ、早くしないとジュディにナイトを取られてしまってよ」
「ひどぉい。そりゃあロイは素敵だけれど、でもダメよぅ。子供扱いされてクリームたっぷりのパフェを奢られて、夕方までに家に送りとどけられるのが関の山だわ」
「よく解っているね、ジュディは。どうしたの、リズ。帰りたくないのかな? それとも、僕が遅れたコトを怒ってるの?」

 少女達の集まっている側に歩み寄り、ロイはエリザベスの手元を覗き込んだ。

「そうじゃないわ。キャンバスが鞄に入らないの」

 美術の課題で描かねばならない少し大きめのキャンバスを、持て余しているリズの手から取り上げ、ロイはチラリと少女達を見回した。

「コイツに何を描くんだい?」
「ロイなら、何を描く?」

 好奇心に満ちた瞳でジュディが訊ねた。ロイは、ほんの少し困ったような笑みを浮かべ、首を傾げてみせる。

「なんでそういう返事になるかな? 課題ってくらいだから、テーマは決まっているんじゃないの?」
「それが意地の悪い宿題なの。テーマはね『無題』よ」
「そいつはなかなか厄介だね」

 答えたロイに、ジュディとキャシーは顔を見合わせクスクスと笑った。

「だからね、今相談していたの。それで、参考までにロイの意見を聞きたいわ」
「そう…だね。僕なら、いろんな色を塗りたくるだけ塗った後で、最後の仕上げに画面を隙間無く真っ黒に塗りつぶすかな」
「なぁに、それ。絵にならないじゃない」

 期待した程の答えが得られず、ジュディは不服そうな顔をする。

「キャンバスに色が塗ってあれば、それは絵だよ。タイトルが無いって事は、作者が何を言いたいのか、見る人間に教える気が無いって事だろ。それを見てつまらないと思う奴も、何を言いたいのだろうって考える奴も、端から全部拒絶するような絵にしたいからね、僕ならば」
「スゴイ意見ね。でもそれじゃ、単位は貰えないんじゃないかしら?」

 キャシーの言葉に、ロイはニッコリと笑って見せた。

「僕は学生じゃないから、単位はいらないものね」
「それってつまり、自分で考えろって言いたいの?」
「いい勘してるねジュディ、その通りだよ。学生は勉強をして、考えるのが商売だろ。せいぜい悩みなさい」

 肩を竦めたジュディに、ロイは柔らかい笑みを向けた。
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