Black/White

RU

文字の大きさ
上 下
26 / 89
第二部:ハリー

10

しおりを挟む
 辺りはすっかり暗くなり、道端の街灯に明かりが灯り始めた頃、ロイとハリーは港の倉庫街を歩いていた。

「こんな方に来て、ヨットにでも住んでるの?」
「俺はソニィ・クロケットじゃないよ。離婚もしてないし、子供は女の子だ」
「ムキになるね。可愛い奥さんなんだ」
「!! 何を突然…」

 既に新婚とは言えない程の年数を重ねてはいるが、いまだに冷やかされるとまごついてしまう。

「おや、赤くなったね。アハハハハ…」
「キミだって、結婚すればそうなるよ」
「で、どこでつかまえたの? その可愛い奥さん」
「リサは先輩の妹で…、ちょっと待て、こんなコト聞かれる筋合いはないゾ!」
「アハハ、良いじゃないか、別に。減るモンでもないだろう。人生の先輩として、教えて欲しいな」
「大人をからかうんじゃない。親の顔が見てみたいね」

 言葉の綾からつい言ってしまった台詞に、ハリーはハッとしてロイの顔を見た。

「悪いケド、生まれてこのかた、僕も見た事が無い」

 ロイはニッコリと笑って見せる。ゾっとするほど艶やかなそれは、皮肉というよりは憎悪に近い感情を持った笑いだった。

「ロイ…」
「やめよう、そんな話。時間の無駄だよ、そんな事を語り合うのはね」
「ゴメン、俺…」
「先に立ち入った事を訊いたのは僕だよ。まぁ、悪く思わないで」
「でも、ロイ…」
「シィ…、ちょっと黙って…」

 とつぜんロイは話を中断させ、じっと辺りを伺い始めた。

「…どうしたの…?」
「ヤバイッ、逃げろっ!」
「ロイッ! なにが…っ!」

 なにかを問う間も与えられず、ハリーは真っ黒な海に突き落とされた。
 驚きに戸惑う隙もなく、海水がハリーの身に襲いかかる。
 ハリーは、海面を求めてもがき苦しんだ。

「何するんだ!?」

 ようやく海面に浮かび上がり、咳き込みながらもハリーは苦情を述べた。しかしそこにはふざけた顔の少年の顔はなく、どこからともなく響く銃声から身を守るロイの姿があった。

「潜れっ! 泳いで逃げろ!」

 ハリーに振り向き、ロイが叫ぶ。

「ロイッ!?」

 再び聞こえた、銃声。
 次の瞬間ロイの体が不自然に弓なり、カクリと力の抜けた膝から崩れるように倒れる。傾いだ身体が、そのまま海面へと落ちた。

「ロイッ!!」

 闇の所為でまるでスミでも流したかのような海面に、大きな波紋が広がり、その中心にいくつかの泡とともにどす黒い何かか浮かび上がる。

「ロイッー!!」

 バラバラと聞こえてくる、足音。

「おいっ、殺ったか?」
「海だっ、撃てっ!」

 海面に浮かんだ自分めがけて黒い人影から発砲され、ハリーは無我夢中で海に潜った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ

俊也
ライト文芸
実際の歴史では日本本土空襲・原爆投下・沖縄戦・特攻隊などと様々な悲劇と犠牲者を生んだ太平洋戦争(大東亜戦争) しかし、タイムスリップとかチート新兵器とか、そういう要素なしでもう少しその悲劇を防ぐか薄めるかして、尚且つある程度自主的に戦後の日本が変わっていく道はないか…アメリカ等連合国に対し「勝ちすぎず、程よく負けて和平する」ルートはあったのでは? そういう思いで書きました。 歴史時代小説大賞に参戦。 ご支援ありがとうございましたm(_ _)m また同時に「新訳 零戦戦記」も参戦しております。 こちらも宜しければお願い致します。 他の作品も お手隙の時にお気に入り登録、時々の閲覧いただければ幸いです。m(_ _)m

鞍替えした世界で復讐を誓う

駄犬
ライト文芸
「運命」を掛け違えたボタンみたく語り、矮小なものとして扱うような無神論者でもなければ、死の間際に神頼みするほど心身深くもなかった。それでも、身に降りかかる幸不幸を受け入れる際の一つのフィルターとして体よく機能させてきた。踏み潰されて枯れた路傍の花にも、「運命」を与えてやってもいいし、通り魔に腹部を刺されて夭折した一人の若者にも、「理不尽」を「運命」と言い換えてやればいい。世界を単一の物と見ずに、多層的な構造をしていると考えればきっと、「運命」を観測し得る。 この物語は、そんな一つの可能性に手を伸ばした一人の人間の話だ。 ▼Twitterとなります。更新情報など諸々呟いております。 https://twitter.com/@pZhmAcmachODbbO

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

So long! さようなら!  

設樂理沙
ライト文芸
思春期に入ってから、付き合う男子が途切れた事がなく異性に対して 気負いがなく、ニュートラルでいられる女性です。 そして、美人じゃないけれど仕草や性格がものすごくチャーミング おまけに聡明さも兼ね備えています。 なのに・・なのに・・夫は不倫し、しかも本気なんだとか、のたまって 遥の元からいなくなってしまいます。 理不尽な事をされながらも、人生を丁寧に誠実に歩む遥の事を 応援しつつ読んでいただければ、幸いです。 *・:+.。oOo+.:・*.oOo。+.:・。*・:+.。oOo+.:・*.o ❦イラストはイラストAC様内ILLUSTRATION STORE様フリー素材

涙の跡

あおなゆみ
ライト文芸
臆病でいつも半端な自分を変えたいと思い引っ越してきた街で、依子は不思議な魅力を持つ野島と出会う。年も離れているし、口数の少ない人であったが依子は野島が気になってしまう。大切な人との思い出、初恋の思い出、苦い思い出、そしてこの街での出来事。心の中に溢れる沢山の想いをそのまま。新しい街で依子はなりたい自分に近づけるのか。

かごめかごめのユートピア

雪月風花研究所
ライト文芸
一作目。 絆の物語です。 君が信じるのは、"真実"か。"友情"か。

僕たちはその歪みに気付くべきだった。

AT限定
ライト文芸
日々繰り返される、クラスメイトからの嫌がらせに辟易しながらも、天ケ瀬 燈輝(あまがせ とうき)は今日も溜息交じりに登校する。 だが、その日友人から受け取った一枚のプリントが、彼の日常を一変させる。 吸い寄せられるように立ち入った教室で、彼が見たものとは……。

千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ
恋愛
複数の人種が共生する帝国は、魔物の脅威にさらされている 最前線で生きる、獣人種の兵士団団長オンフェルシュロッケンは、初対面の凡人種の魔術兵スルから慕情を向けられた スパイか、裏があるのか、疑惑を一つずつ消していく内に、スルを嫁っこにしたいと望むようになっていく 強面寡黙のフリをする純朴な田舎者の獣人種団長と、魔術兵の嫁っこ(確定?)が、共に戦場を駆けるようになるまで 不定期更新です

処理中です...