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第一部:アレックス
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平日の遊園地は比較的すいていて、アレックスの心配した『並び疲れてロイが帰ってしまう』事も無さそうだった。
客は全体的にアベックが多く、子供はほとんどいない。ロイは顔をしかめてみせる。
「ヤな感じだ」
「妬いてんの?」
「別に。…鬱陶しいだけだ」
「そう? でも世間じゃそういう事をいってる人間は、彼らをやっかんでいる事にされるんだよ」
「オレ…僕がそーだとでも?」
「さぁ? でもやっかむ必要なんて、無いだろう?」
「どういう意味?」
「こんなステキな連れがいるんだから」
ニッと笑ったアレックスを、ロイは一瞬ポカンとした顔で見上げている。
「おや、不満?」
「阿呆」
ロイは、ムッと黙り込んでソッポを向いた。
「軽い冗談じゃないか。拗ねるなよ」
「そういう冗談は、キライだ」
「解った。私が悪かったよ。ああ、そうだ! ソフトクリームを食おう。なっ?」
「オレ…僕、甘いモノは…」
「今日はおとなしくて可愛い子供を演じてくれるんだろ」
「いつ誰がそんな事言ったんだよ。ジョーダンも大概にしろよ」
「文句は明日以降に好きなだけ聞いてあげるから、これお金、ココで待ってるから」
「ゲー、オレが行くのー?」
「オレじゃなくて僕でしょ?」
「ヴァレンタイン…、テメェ、覚えてろよっ」
「はいはい、文句を言わずに行ってらっしゃい」
アレックスの差し出した紙幣を乱暴に掴み、ロイはドカドカと足音も荒く売店を探しに行った。
その背中を見送ってから、アレックスはベンチに腰を降ろしタバコに火をつける。
「アレがそうですか?」
「ハリー、そんなトコにいたのか?」
ベンチの後ろの木陰から、頭や背広に葉っぱを付けたハリーが現れた。
「どーしたんだ? その格好は」
「三十分も前から先輩を待ってたんです。掃除屋のおばさんが気が付かないでゴミをかけてくれちゃって…、酷い目に遭いましたよ」
「あははは…、いや悪かった。道路が思ったより混んでたうえ、アレを追っ払うのに手間取ってな」
「それなら何で連れて来たんです?」
ハリーは、背広についた葉っぱと埃を払い落としてから、上目遣いにアレックスを見た。
「お前が遊園地を選ぶからだ。まあそれは良い、三日後の夜、取引がある。私が仕切る事になったから、クルーザーを一台用意して欲しい。後、射撃の上手い若いのを一人な」
「ずいぶん急ですね」
「ああ。だが大きな仕事だ。コロンビアの方の地主も顔を出すと言っていた。金額的にも大きな物だから、これを上手くこなせば組織の中でも認められるだろう」
「新顔のバイヤーにそんな大きな仕事を? 大丈夫なんですか?」
まだそれほどの信頼を得ていない筈のアレックスに、何故それほどの大仕事を任される事になったのか、ハリーは腑に落ちないといった顔をする。
「だから、言っただろう。ボスの側近だと」
「え…、それじゃあ、先刻の子供が…?」
「そうだ」
答えたアレックスを、ハリーは複雑な表情で見つめてしまった。
「心配するな。…オマエが思ってる程、私は血も涙もない人間じゃないよ」
「先輩?」
「そうだ、コイツを渡そうと思っていたんだっけ」
アレックスは、内ポケットから薄い封筒を取り出した。
「何ですか?」
「子供の名前だ。口で言っても忘れるかもしれんだろう」
わざと顔を背けて照れ臭そうに言うアレックスを、ハリーは凝視してしまう。
「なんだ?」
「いえ、別に。ありがとうございます」
ハリーはペコリとお辞儀をしてその場から離れて行った。
ちょうど擦れ違い様にロイが両手にソフトクリームを持って戻ってくる。
「…今の、誰?」
「知らん、道を聞かれただけた」
アレックスは、ロイからソフトクリームと釣銭を受け取りながら答えた。
客は全体的にアベックが多く、子供はほとんどいない。ロイは顔をしかめてみせる。
「ヤな感じだ」
「妬いてんの?」
「別に。…鬱陶しいだけだ」
「そう? でも世間じゃそういう事をいってる人間は、彼らをやっかんでいる事にされるんだよ」
「オレ…僕がそーだとでも?」
「さぁ? でもやっかむ必要なんて、無いだろう?」
「どういう意味?」
「こんなステキな連れがいるんだから」
ニッと笑ったアレックスを、ロイは一瞬ポカンとした顔で見上げている。
「おや、不満?」
「阿呆」
ロイは、ムッと黙り込んでソッポを向いた。
「軽い冗談じゃないか。拗ねるなよ」
「そういう冗談は、キライだ」
「解った。私が悪かったよ。ああ、そうだ! ソフトクリームを食おう。なっ?」
「オレ…僕、甘いモノは…」
「今日はおとなしくて可愛い子供を演じてくれるんだろ」
「いつ誰がそんな事言ったんだよ。ジョーダンも大概にしろよ」
「文句は明日以降に好きなだけ聞いてあげるから、これお金、ココで待ってるから」
「ゲー、オレが行くのー?」
「オレじゃなくて僕でしょ?」
「ヴァレンタイン…、テメェ、覚えてろよっ」
「はいはい、文句を言わずに行ってらっしゃい」
アレックスの差し出した紙幣を乱暴に掴み、ロイはドカドカと足音も荒く売店を探しに行った。
その背中を見送ってから、アレックスはベンチに腰を降ろしタバコに火をつける。
「アレがそうですか?」
「ハリー、そんなトコにいたのか?」
ベンチの後ろの木陰から、頭や背広に葉っぱを付けたハリーが現れた。
「どーしたんだ? その格好は」
「三十分も前から先輩を待ってたんです。掃除屋のおばさんが気が付かないでゴミをかけてくれちゃって…、酷い目に遭いましたよ」
「あははは…、いや悪かった。道路が思ったより混んでたうえ、アレを追っ払うのに手間取ってな」
「それなら何で連れて来たんです?」
ハリーは、背広についた葉っぱと埃を払い落としてから、上目遣いにアレックスを見た。
「お前が遊園地を選ぶからだ。まあそれは良い、三日後の夜、取引がある。私が仕切る事になったから、クルーザーを一台用意して欲しい。後、射撃の上手い若いのを一人な」
「ずいぶん急ですね」
「ああ。だが大きな仕事だ。コロンビアの方の地主も顔を出すと言っていた。金額的にも大きな物だから、これを上手くこなせば組織の中でも認められるだろう」
「新顔のバイヤーにそんな大きな仕事を? 大丈夫なんですか?」
まだそれほどの信頼を得ていない筈のアレックスに、何故それほどの大仕事を任される事になったのか、ハリーは腑に落ちないといった顔をする。
「だから、言っただろう。ボスの側近だと」
「え…、それじゃあ、先刻の子供が…?」
「そうだ」
答えたアレックスを、ハリーは複雑な表情で見つめてしまった。
「心配するな。…オマエが思ってる程、私は血も涙もない人間じゃないよ」
「先輩?」
「そうだ、コイツを渡そうと思っていたんだっけ」
アレックスは、内ポケットから薄い封筒を取り出した。
「何ですか?」
「子供の名前だ。口で言っても忘れるかもしれんだろう」
わざと顔を背けて照れ臭そうに言うアレックスを、ハリーは凝視してしまう。
「なんだ?」
「いえ、別に。ありがとうございます」
ハリーはペコリとお辞儀をしてその場から離れて行った。
ちょうど擦れ違い様にロイが両手にソフトクリームを持って戻ってくる。
「…今の、誰?」
「知らん、道を聞かれただけた」
アレックスは、ロイからソフトクリームと釣銭を受け取りながら答えた。
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