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第17話

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 奇妙な感覚で、柊一は覚醒した。
 誰かに身体を撫で回されているような、不快感。
 目を開けると、そこには見た事もない男がいた。

「て…めェ、誰だ?」
「…俺、こんな田舎に住んでるから、シノさんに逢うの大変なんだぜ」

 ニタリと笑った男の顔に、やはり見覚えはない。

「やっぱり、側で見るとサイコーだな。俺ずっと、こんなふうにシノさんに触ってみたかったんだよ」
「なっ…やめろ、テメェッ!」

 胸をスルリと撫で上げられて、柊一は自分が衣服を纏っていない事に気付かされる。

「ココにシノさんが滞在するようになって、俺ずっと配達やってたんだぜ。シノさんがココにいるのに、テレビじゃいなくなったって大騒ぎしてる。アイツも出入りしてるってのに、一部のワイドショーなんかじゃシノさんがまるで死んだみたいな話にまでなって」
「放…せっ! この、カンチガイ野郎ッ!」

 両腕と片足をベッドに拘束されていて、柊一は殆ど動くことが出来なかった。
 唯一束縛されていないのは、痛みで動かすコトがままならない右足のみ。
 しかも、なんとかして一矢報いたいと蹴り込んだ足は、絶妙のタイミングで掴まれ強く握りしめられた。

「うあああっ!」
「暴れンなよ。俺、シノさんのコト助けにきたんだぜ。アイツにペットにされてんだろ? アイツをおびき出すのに苦労したんだぜ。東京にブッ飛んでったから、当分帰ってきやしない。俺とたっぷり楽しんだ後でココから出してやるからさ」
「ふ…ざけんなっ!」

 どんなに抵抗したくても、今の柊一にはその術が何もない。
 全身を撫で回されて、柊一はあまりの不快感に吐き気すら感じていた。
 此処に監禁され、多聞に同じような事を強要された時以上に、気分が悪い。

「テメェ、俺のファンなんだろがッ! なんかこれ、違うだろっ!」
「だって、シノさんちっとも逢いに来やしねェじゃん。ここいらに住んでんじゃ、ライブにだってなかなか行けねェ。そのライブだって、アンタに触る事は出来ねェからな」

 自分を見つめてきた男と目があった瞬間、柊一はゾッとした。
 完全に『イッちまってる』。
 ジョーダンじゃない。
 こんな、訳も解らぬストーカーまがいの男に、いいように犯されてはたまらない。

「なぁ、おい…」
「少し黙ってろよ」

 グッと顔を押しつけてきたかと思うと、口唇を重ね合わされて口を塞がれ。
 舌をねじ込まれ、柊一はあまりの悔しさに思わず涙が溢れてしまう。
 いいように口腔内を舐め回されて、吐き気を感じた。

「シノさんに触るなぁっ!」

 不意に圧迫感から開放され、ビックリして目を開ける。

「多聞ッ?!」

 そこにいる筈のない人物が突然現れた事で、柊一はますます驚いてしまった。

「シノさん、大丈夫ッ?」

 杖で男をバシバシと叩いてから、多聞は慌てた様子で柊一の側に寄る。

「怪我は無い? 犯されなかった?」
「なんでそーいう質問になるんだよっ!」

 両手の拘束を解きながら、多聞は不安気な顔を崩さなかった。

「だって、…俺にとってはそれってスゴク大事なコトなんだけど?」
「だからオマエは、バカだっつーんだよ…」

 思わず呆れ果てたような声になってしまったが、この状況ではそういう心配をされても仕方がないかと、自分で自分がかなり情けなかった。

「でも、なんだってオマエが此処に?」
「此処しばらくの雨の所為で、土砂崩れがあってさ。道が閉鎖されちゃって、戻らざるをえなかったんだよ。連絡しようにも、カミナリで携帯使えなくなってたし…」
「カミナリ?」
「うん、こっちはそうでも無さそうだけど、県境の辺りはひどい降りなんだよ」

 こちらからの通話が繋がらなかったのは、雷を危惧して多聞が携帯電話の電源を切っていた為だった事を知る。

「なんだよコレ、スッゲェ固く結んである…」
「痛ッてェよ、ナイフかなんかで切った方が早くないか?」

 柊一の提案に、多聞は側にあった果物ナイフを取ると戒め部分にあてがった。

「…モジュール線だよ、コレ…。切れるのかなぁ…」
「多聞、後ろッ!」
「えっ?」

 振り返った多聞は、顔面を杖で殴り飛ばされる。

「多聞ッ!」

 散々叩きのめされた男は怒りも露にして、倒れ込んだ多聞の身体を復讐するように松葉杖で殴り続けた。

「オマエなんかが触れていい人じゃねェんだぞ、コラァ!」

 多聞が声も上げずに身を守るように縮こまっていると、男は苛立ったように杖を投げ捨て今度は容赦のない蹴りを入れる。

「多聞っ!」

 柊一は思わず身体を起こそうとしたが、未だに手足は拘束されたままだ。
 苛立ちと焦りで強引に引っ張ると、多聞が解きかけていてくれたお陰か、酷い痛みを伴ったものの戒めが外れた。
 慌てて足枷も外し、柊一はベッドから飛び降りると男に殴りかかる。

「このヤロウッ!」

 無理に枷を外した手首は血が滲み、痛みも相当あった筈だが、柊一はもうそんな事を微塵も構っていなかった。
 それどころか、折れていると思っていた足でしっかりと床に立ち、鬼神のような勢いで男に殴りかかっている。

「ぎゃっ!」

 男は、まさか柊一に殴り掛かられる事があるとは予想していなかったらしく、全くの無防備状態に痛烈なパンチを食らって身体を蹌踉めかせた。
 背丈は人並み以上で強面の多聞ではあったが、ケンカには弱い。
 対照的に、ティーンエイジの頃に散々ケンカをして、すっかり場馴れしている柊一はこうした状況での立ち回りを知り尽くしている。
 だが、すっかり頭に血が上ってしまっている柊一は、場慣れしている自覚がある分油断もしていて、ひどくスキだらけだった。
 男はその場に投げ出されていた杖を手に取ると、それで柊一の右足を強打する。

「っ!」

 さすがの柊一も、激痛に一瞬攻撃を怯ませた。
 即座に体勢を立て直した男は、そのままもう一度柊一の臑を激打する。

「っぅ!」

 倒れた柊一の身体に馬乗りになり、男は柊一の両腕を掴んで押さえ込んだ。
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