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第14話
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雨の気配で、目が覚める。
柊一の隣では、だらしなく幸せそうな顔の多聞が、まさしく惰眠を貪っていると言うような様相を呈していた。
「なんでこう、憎めないんだろうね。このバカ」
溜息ともなんともつかぬ息を吐き、柊一はベッドを抜け出した。
ベッドの側に立てかけてある松葉杖を取り、静かに部屋を出る。
あまりにも日常生活に支障をきたすので、多聞が新たに調達してくれたのだ。
コトコトとぎこちない動きで階段を降り、階下に向かう。
雨の所為で時間の感覚が少しズレているが、晴れていればまだ外はやや明るいくらいの時間だろうか。
時計に目をやると、まだ午後四時を少し回ったくらいだった。
「ったく、よう。もうちょっと時間とか考えて行動しろってんだよ…」
ブツブツと文句を言いながら、柊一はキッチンに向かった。
思わぬ所で多聞と「あんなコト」になってしまい、昼食を食べそびってすっかり腹が減ってしまったのだ。
「アイツ、起きねェよなァ」
キッチンに赴き、ぼやきのような呟きを零しながら、冷蔵庫を開く。
松葉杖を使っている今の柊一では、常に片手が塞がっている為にまともな料理など望めない。
多聞が滞在している間は多聞に料理をさせるつもりだったが、今の状況で起こしたら食事にありつくまでにまた大層な時間が掛かるに違いないだろう。
「カップ麺とか、買っときゃ良かった」
食事と言うよりは酒のつまみに近い、特に調理をしなくても口に入りそうなモノを見繕い、居間に向かう。
あまり腹にたまりそうもないが、とりあえずの空腹感を紛らわそうと、柊一はソファに座ってそれらを適当に噛じり始めた。
その時。
『ゴトン』
という音と共に、玄関脇のボックスの蓋が微かに動いた。
「……………」
ただの配達かとやり過ごそうとして、柊一はふと顔を上げる。
そこから、人の動く気配がないのだ。
柊一は怪訝な顔のまま、ジッと玄関の方を見つめる。
実を言うと、柊一はこの配達人に対して疑惑というか、上気味な印象を抱いていた。
多聞に監禁されてすぐに遭遇した時の事を、後から冷静に思い返してみて、それはより強く柊一の中で疑問になっていたのだ。
確かにあの時、自分がボックスから外の様子を伺った時には、牛乳瓶の回収をしていたが。
しかし、それにしても時間が掛かり過ぎなのではないか? と。
柊一は、息を潜めて外の様子を窺う。
外の配達人もまた、こちらの気配を伺っているような気がした。
だが。
「あれェ、一人で旨そうなモン食ってるぢゃん」
玄関に全ての神経を集中させていた柊一は、多聞が階下へ降りてくる気配に気付いていなかった。
「バ、バカッ、静かにしろっ!」
声に出さずにジェスチャー混じりで叱責する柊一を上思議そうに眺め、多聞は首を傾げる。
すると、扉の向こう側でバイクのエンジン音が響いた。
「あ、配達? …そうか、シノさんが此処にいる事がバレると不味いモンね」
「そういう問題だけじゃねェんだよ」
「え、なに?」
「いーよ、もう。オマエ起きたなら、メシの支度しろよっ」
この奇妙な疑惑を、柊一は多聞に言うつもりはなかった。
あまりにも曖昧で、確証になるような物は何一つ無い。
オマケに多聞は、楽曲のプロデュース以外に関しては見事なほどの天然ボケというか、一種、極まった無神経ときている。
わざわざ説明したところで納得はしないだろうし、ヘタに納得したら今度は無闇に怯えるだけだ。
それが解っている柊一は、あえて何も言いたくなかったのだ。
柊一の隣では、だらしなく幸せそうな顔の多聞が、まさしく惰眠を貪っていると言うような様相を呈していた。
「なんでこう、憎めないんだろうね。このバカ」
溜息ともなんともつかぬ息を吐き、柊一はベッドを抜け出した。
ベッドの側に立てかけてある松葉杖を取り、静かに部屋を出る。
あまりにも日常生活に支障をきたすので、多聞が新たに調達してくれたのだ。
コトコトとぎこちない動きで階段を降り、階下に向かう。
雨の所為で時間の感覚が少しズレているが、晴れていればまだ外はやや明るいくらいの時間だろうか。
時計に目をやると、まだ午後四時を少し回ったくらいだった。
「ったく、よう。もうちょっと時間とか考えて行動しろってんだよ…」
ブツブツと文句を言いながら、柊一はキッチンに向かった。
思わぬ所で多聞と「あんなコト」になってしまい、昼食を食べそびってすっかり腹が減ってしまったのだ。
「アイツ、起きねェよなァ」
キッチンに赴き、ぼやきのような呟きを零しながら、冷蔵庫を開く。
松葉杖を使っている今の柊一では、常に片手が塞がっている為にまともな料理など望めない。
多聞が滞在している間は多聞に料理をさせるつもりだったが、今の状況で起こしたら食事にありつくまでにまた大層な時間が掛かるに違いないだろう。
「カップ麺とか、買っときゃ良かった」
食事と言うよりは酒のつまみに近い、特に調理をしなくても口に入りそうなモノを見繕い、居間に向かう。
あまり腹にたまりそうもないが、とりあえずの空腹感を紛らわそうと、柊一はソファに座ってそれらを適当に噛じり始めた。
その時。
『ゴトン』
という音と共に、玄関脇のボックスの蓋が微かに動いた。
「……………」
ただの配達かとやり過ごそうとして、柊一はふと顔を上げる。
そこから、人の動く気配がないのだ。
柊一は怪訝な顔のまま、ジッと玄関の方を見つめる。
実を言うと、柊一はこの配達人に対して疑惑というか、上気味な印象を抱いていた。
多聞に監禁されてすぐに遭遇した時の事を、後から冷静に思い返してみて、それはより強く柊一の中で疑問になっていたのだ。
確かにあの時、自分がボックスから外の様子を伺った時には、牛乳瓶の回収をしていたが。
しかし、それにしても時間が掛かり過ぎなのではないか? と。
柊一は、息を潜めて外の様子を窺う。
外の配達人もまた、こちらの気配を伺っているような気がした。
だが。
「あれェ、一人で旨そうなモン食ってるぢゃん」
玄関に全ての神経を集中させていた柊一は、多聞が階下へ降りてくる気配に気付いていなかった。
「バ、バカッ、静かにしろっ!」
声に出さずにジェスチャー混じりで叱責する柊一を上思議そうに眺め、多聞は首を傾げる。
すると、扉の向こう側でバイクのエンジン音が響いた。
「あ、配達? …そうか、シノさんが此処にいる事がバレると不味いモンね」
「そういう問題だけじゃねェんだよ」
「え、なに?」
「いーよ、もう。オマエ起きたなら、メシの支度しろよっ」
この奇妙な疑惑を、柊一は多聞に言うつもりはなかった。
あまりにも曖昧で、確証になるような物は何一つ無い。
オマケに多聞は、楽曲のプロデュース以外に関しては見事なほどの天然ボケというか、一種、極まった無神経ときている。
わざわざ説明したところで納得はしないだろうし、ヘタに納得したら今度は無闇に怯えるだけだ。
それが解っている柊一は、あえて何も言いたくなかったのだ。
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